早朝、散歩に出た。
小型のミルクコーヒー色のプードルを連れている年配の男性とすれ違いざま、挨拶をすると、つぶれてしゃがれた声でぼそっと挨拶が返ってきた。
彼は無愛想な表情で、彼の道連れの相棒とは面構えがまったく違う。
散歩道を一回りあるいていると、前方から見覚えのあるシルエットが近づいて来た。黒ずんでくぼんだ目元のしかめ面と素っ頓狂な顔をしたミルクコーヒー色のプードルだ。うなずきながら通りすぎようとすると”しかめ面”が解けて少し笑みが浮かんでいる。彼は立ち止まって「一日に三度同じ人とめぐり合ったら、一緒にシュナップスを一杯を飲むというしきたりがあるんですよ、知ってますか?」と話しかけてきた。傍に広がる畑を見ながら「私は生まれも育ちもこの近所だけれど、このあたりはすっかり変わってしまいましたよ、今82歳だが79年間この付近を歩き回っているんだから、よく知っているんだ」と言う。そうか、三歳の頃から歩き回っていると言うことなんだ。 よちよちと歩く小さな子供が畑道を歩くさまを想像して、なんだか愉快になった。
「それでは、もう一度お目にかかったらシュナップスを飲みに行きましょう」と言いながら手を振った。