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できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

昨日のテレビ番組と絵本『ひらがなにっき』から

2010-01-18 18:43:39 | いま・むかし
ひらがなにっき (エルくらぶ) ひらがなにっき (エルくらぶ)
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2008-09-20

このブログを見ている人のなかで、昨日の夜10時から、NHK教育テレビのETV特集『なまえをかいた』を見た人が、どのくらいいるだろうか?

この特集番組は、もともと上に紹介している絵本『ひらがなにっき』が題材になっているもの。大阪府・富田林市の人権文化センターで開かれている識字学級に通う80代の女性が主人公になっているのが、この絵本。ちなみに、この絵本は出てすぐに購入し、我が家にも置いてある。

学校へ通う機会をもてなかった彼女の生い立ちや、文字の読み書きを学べなかったがゆえに生じてくるさまざまな生活上の問題、識字学級での学習やお孫さんとの日々のかかわりのなかで文字を学びとっていくプロセス、そして、文字の読み書きができるようになって見えてきたさまざまなこと・・・・、そういったことが、この一冊の絵本に詰まっている。

そして、この絵本の主人公になった女性と彼女を支える家族や識字学級の人々の様子や、そして、絵本の作家の思いなどを軸に、この特集番組はつくられていた。また、その合間に、1960~70年代に高まった解放運動のことや、同和対策事業のこと、富田林での識字学級開設以来の歩みなどについて、ていねいに彼女が識字学級に通う社会的背景にも触れていた。「なかなか、いい特集番組ではないか」と、私としては思う。

さて、このテレビの特集番組や、あらためて絵本『ひらがなにっき』を見て思ったのだが、まずは識字教室等々、それぞれの地区で取り組まれている社会教育活動について、マスメディアでこのような番組が作られたり、絵本などの形で広く人々に知ってもらったりする取り組みが、今までどの程度、行われてきたのだろうか、ということ。

この何年か、特に同和対策事業や解放運動がらみでは、何か不祥事があると、すぐにマスメディアなどでセンセーショナルな報道が行われてきたように思う。もちろん、マスメディアが不祥事を取り上げ、今までの事業や運動のあり方についての再考を促すこと自体は、取り上げ方にもよるが、一概にすべてダメとは言い切れない。だが、それと同じくらい、地道にこつこつと、それぞれの地区で学習・文化活動に取り組んでいる人々の姿を、マスメディアなどはどれだけ追ってきたのだろうか? まずはそのことが思い浮かんだ。

と同時に、富田林の識字学級などで活動している人々が、この女性を主人公に絵本づくりを思いつき、絵本作家の協力を得て立派な本をつくった。そのこと自体は、ほんとうにすばらしいことだと思う。ただ、この間、絵本づくりにとりくんだ富田林以外の地区で活動している人々の情報発信は、どのくらい、すすんだのだろうか? 「日々の活動だけでみんな大変だ」ということは百も承知でいうのだが、この間、目の前の活動をこなすことに終われていて、対外的に情報発信するところにまで手がまわらなかったのではないだろうか。そのことを思うと、とても残念でならない。

そして、行政である。この識字学級、富田林市の人権文化センターで実施されているとのことだが、社会教育行政あるいは人権行政の仕事として、やはり今後も識字活動に関する何らかの公的な支援が必要なのではないだろうか。

だいたい、「子どもの権利条約」第28条(教育への権利)においても、「非識字の廃絶」ということがうたわれている。日本という国は、この条約の締約国のひとつ。諸外国の「非識字」者の問題に積極的に取り組むだけでなく、日本国内における「非識字」者の問題にも取り組む義務が、「子どもの権利条約」の趣旨からすると「ある」と思う。

にもかかわらず・・・・。大阪市内ではもうすぐ、人権文化センターともと青少年会館等々、いくつかの地区内施設を統廃合して「市民交流センター」ができる。大阪市内では人権文化センター、あるいはもと青少年会館などを使って、従来「識字」に関する取り組みがさまざまな形で続けられてきた。では、「市民交流センター」が設置されてからあと、大阪市内では行政サイドから、どれだけ「識字」に関する取り組みを支援していくのだろうか? 大阪市の行政サイドは、文字の読み書きになんらかの課題のある人々については、今後は「自助努力」や「自己責任」で、その課題を解決しろというのだろうか? あるいは、ボランティアによる支援に「丸投げ」の形をとるのだろうか? 

そういったことを感じながら、昨日のテレビ番組を見て、あらためて絵本を読んだ。この番組を見て「いい番組だ・・・・」と、喜んでばかりいられない。それが私のつらいところである。

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