少し古い本になるのだが、いま、私の手元には、NHK放送文化研究所編『テレビ視聴の50年』(NHK出版、2003年)という本がある。
この本の第2部第3章が「生活で変わるテレビの見方」という章で、この章には男女別・年齢別・職業別のテレビの週あたり平均視聴時間のグラフが出ている(p.165)。
それによると、実は案外、小学生~高校生の子どもはテレビを見ていないことがわかる(高校生が1時間53分、中学生が1時間49分、小学生が2時間15分)。むしろ、主婦(4時間45分)、無職(5時間35分)の「おとな」のほうが、平均的にはテレビをよく見ているようである。また、60歳以上の男性(5時間26分)・女性(5時間4分)のほうが、20代の男性(2時間17分)・女性(2時間47分)よりも、よくテレビを見ている傾向にある。
ちなみに、同書p.167の表によると、60歳以上の男性がよくテレビを見ている時間帯は、朝6時過ぎから9時ごろまで、お昼12時~13時、夕方17時30分~22時30分であり、この傾向はだいたい、60歳以上の女性の場合と共通している。また、夜19時~21時の間は、60歳以上男性の約6割がテレビを見ているようだ。そして、13時から17時あたりの時間帯でも、だいたい15%前後の60歳以上の男性がテレビを見ている傾向にある。
ここからわかるのは、朝とお昼頃のニュースとワイドショー、情報番組や、夜のニュースや情報番組を「よく見ている」のは、若い世代よりも「60歳以上の男女」ということである。まぁ、平日の日中に家に居て、テレビを見ていることができる人たちということでいえば、当然といえば当然なのだが。
その一方で、鈴木哲夫『政党が操る選挙報道』(集英社新書)という本がある。この本は、最近の政党がテレビというメディアにおいて、いかにして自分たちの党のいいイメージを売り込むかというバトルを繰り広げている様子を描いたものである。
ちなみに、この本でかなり明らかにされているのだが、民間のPR会社や広告代理店、調査機関などにも協力を求めながら、最近の各政党は有権者を意識して、テレビなどによく出てくる選挙の候補者や政党の幹部等の発言を適宜修正したり、ポスターやマニフェストなどの内容を検討したりしているという。これを「コミュニケーション戦略」(略して「コミ戦」)というそうだ。
このコミ戦、場合によれば、どのテレビ番組に政治家の誰を出すのか、どんな髪型や服装にするのか、印象に残るようにどのようなせりふを言わせるのかまで検討しているとか。あるいは、テレビのワイドショーなどのコメンテーターの発言や、政治記者の取材などについてもチェックをして、自分たちの党に対して理解がないと思われるコメンテーターや記者のところには、各党のコミ戦担当者が出向いていって、自分たちの主張を説明するともいう。そして、選挙や国会報道などにおいて「○○対●●」というようなわかりやすい対決の構図を描いたり、絵になる政治家を追いかけて連日取材するなど、テレビのワイドショーなどの番組づくりに、このコミ戦がまたいろいろ水面下で働きかけているともいう。
とすれば、このコミ戦によって仕掛けられた各政党のテレビ向けメッセージに一番影響されやすいのは、子どもや若い世代以上に「60歳以上の男女」ということになるのではないか? なにしろ、テレビの朝と昼のワイドショーや情報番組、夜のニュースなどを一番よく見ているのは、この世代なのだから。
「近頃の子どもはテレビばっかり見て・・・・」というおとなたち、とくに「60歳以上の男女」。実は子どもや若者よりもあなたたちのほうが、各政党のコミ戦にのせられて、思わぬ投票行動をとってしまったり、あるいは、変な世論をつくりあげてまちがった方向に政治・行政を導く危険性が高いのである。だから、テレビというメディアに対する批判的な読解力、つまりテレビに対するメディア・リテラシーを身に付ける必要性が高いのは、子どもや若者以上に年長者ではないかとも言えるのである。
もっとも、子どもや若者には、テレビ以外のメディア接触、たとえばケータイやインターネットといったものへの接触をどう考えるかという、別の意味でのメディア・リテラシー教育が必要なのであるが・・・・。
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