ここ数日、神戸の学校に関することで、「ブログ見ました」と、誰かが何か連絡してくるようになりましたね。
また、その連絡のなかで、あらたにいろんなことを知ることもありまして・・・。
この場をお借りして、くり返しになりますが、感謝の気持ちを示したいと思います。
さて、今回は少し、この問題について、議論の切り口を変えてみます。
私はこのところツイッターやフェイスブックでの議論を見聞きするたび、「なぜみんな、各地に子どもオンブズをつくろうという話がでてこないのか?」と、とても不思議に思ってしまいます。
ここで「子どもオンブズ」というのは、私が1999年4月~2001年8月、つまり京都精華大学に勤務する前に調査相談専門員として働いていた兵庫県川西市の「子どもの人権オンブズパーソン」制度のことを念頭に置いています。
※川西市の子どもの人権オンブズパーソン制度については、下記のリンク先を参照。
https://www.city.kawanishi.hyogo.jp/kurashi/shimin/jinken/kdm_onbs/index.html
この子どもオンブズの設置を川西市が検討していたのは、ちょうど1990年代半ばの中学生のいじめ自死の多発期で、なおかつ子どもの権利条約の批准の頃…。「他市で起こっているいじめ自死は、川西でも起こるのではないか?」と川西市教委関係者が考え、市内の小中学生の「子どもの実感調査」を行いました。その結果、「何回もくり返しいじめられている子ども」ほど「生きているのがつらい」と思いつつ、「ひとりでがまんする」「相談できる相手はいない」と回答する結果がでてきました。
その結果をふまえて、川西市教委のなかに検討委員会が設けられ、市教委及び市立学校園全体で子どもの権利条約にもとづく教育の実施を行うとともに、それを家庭や地域社会にバックアップしていただくという方向性が打ち出されました。と同時に、学校や家庭、地域社会の取り組みがあってもなお、ひとりでいじめられて苦しんでいる子どもがいることを念頭に置き、その子どもが電話をかけたり、手紙を書いたり、直接面談を求めたり…というかたちで助けを求めたら、川西市として適切にその子どもの人権救済・擁護に取り組む。そのための仕組みとして「子どもの人権オンブズパーソン」制度をつくることが、この検討委員会から提案されました。
その後、この「子どもの人権オンブズパーソン」(以後「子どもオンブズ」と略)は市の条例によって設置されるとともに、市長の附属機関として市教委からの独立性を保ちつつ、同時に市教委や市立学校園は条例及び教委規則をふまえて「子どもオンブズ」への協力・援助義務を負うかたちがとられました。
そして、1999年度から条例がスタート。このときから教育や福祉、心理、法律などの専門家がオンブズパーソン及び専門員が数人、常時、事務局に待機し、子どもや保護者、教職員らからの相談に応じることができるようになりました。また、相談内容によっては課題解決に向けて、当事者と関係機関等との関係調整を行うこともはじまりました。そして条例をふまえ、申立て手続き等をふまえて、案件によっては調査・検証作業を行い、市教委や市立学校園を含む関係機関に対応の是正のための「勧告」や、施策・制度の見直しを求める「意見表明」などを行うこともできるようになりました。
ちなみに私の在職時に、川西市内の公立中学校のスポーツ部活動で熱中症死亡事故が起きました。このときの調査・検証作業をご遺族からの申立てを受け付ける形で実施し、その調査・検証結果をふまえて再発防止策等の実施を「勧告及び意見表明」というかたちで、市教委や市立学校に求めた…という経緯があります。そのときの担当者としてかかわったことがきっかけとなって、私がその後、学校事故・事件の調査・検証作業や被害者家族・遺族への支援等々にかかわることになった次第です。
なので・・・。神戸でもいじめの重大事態の再調査がありましたし、また、組体操の件で骨折事故が起きているとの報道もありました。あるいは、例の須磨の小学校の教員間いじめ問題でも、子どもたちにもさまざまな心理的な問題が生じているとの報道もあります。このほか、ここ最近では、埼玉県の川口市や千葉県の流山市についても、両方の市教委のいじめの重大事態対応の問題がマスコミで報道されたりしています。
こういう事態を見聞きするたび、現行のいじめ防止対策推進法の枠組みで対応することには数々の「限界」が生じていると認識するとともに、「なぜ神戸も、他の自治体も、子どもオンブズをつくるという方向に議論が進まないのか?」と、私は常に思う次第です。
あらためて整理しますと・・・。
この子どもオンブズは、もう20年近くも前から兵庫県川西市には導入されていて、市教委の独立性を一定保持しつつ、同時に実際に学校で苦しい思いをしている子どもたちの人権救済活動に特化して、相談・調整、そして調査・検証作業から制度改善や対応の是正等々、いろんなかたちで案件に即した動き方ができます。また、具体的に苦しい思いをしている子どもひとりひとりの状況に即して、教育や福祉、心理、医療、法律等々の各領域の専門的な観点からの支援が受けられます。さらに、私の印象では…。川西市内の学校園や市教委の側も、「確かに、一方で子どもオンブズには厳しいことを言われることもある。でも、子どもの人権を守るという観点と各領域の専門的な観点の両方から、その子どもにとって必要な対応が何か、的確なコメントが返ってくる」と、どこかでオンブズに期待している面もあるように思います。
なので…。いま一度、あらためて「子どもオンブズ」モデルのしくみを神戸にも、他の自治体にもつくること。それを私としてはお勧めしたいです。須磨の事件で神戸市長が見当違いの提案をするくらいなら、もうちょっと落ち着いて、時間をかけて他市の先進的な事例を調べた上で、市教委の独立性を保持しつつ、確実にひとりひとりの子どもの人権救済に乗り出せる仕組みをつくる…というような、そんな建設的な提案をしてほしいところです。また、こういう制度ができれば、少なくとも学校における子どもの人権救済に関しては、教委に対する首長権限の強化も、文科省から教委への行政指導も、たいして必要なくなりますね。
※なお、実は大津中2いじめ自死事件の調査委員会報告書(2013年1月)での「提言」内容のなかにも、「子どもオンブズ」の設置のことは提案されていました。ですが、「いじめ防止条例」の制定過程のなかでなぜか「いじめ」だけに特化した相談・救済機関を設置するかたちになってしまい、結局、他の子どもの人権に関する課題には対応できないようなしくみになっています。これが「子どもオンブズ」と「いじめ防止条例」のちがいですね。この点をよく理解してください。
https://www.city.otsu.lg.jp/shisei/koho/kouho/message/1388936256432.html
こちらのリンク先に、大津中2いじめ自死事件の調査委員会報告書があります。この「第3部提言」の「第6章」の文中に「子どもオンブズ」に関する提案が含まれています。