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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

新聞記事等から調査報告書の要点と課題を読み解く【1】(神戸・教員間いじめ問題関連)

2020-02-22 11:29:47 | 受験・学校

昨日も告知したとおり、去年10月から何かと問題になってきた「教員間いじめ」(=「教員間暴力」「ハラスメント」という呼称も使われてきましたが、私は「教員間いじめ」に統一しています)について、神戸市教委の弁護士主体の調査チーム(=これも市教委は「調査委員会」と呼んでいますが、私は「調査チーム」と最初から言って来たので、それに統一します)の調査報告書がでました。

ただ、こちらの方にはまだその調査報告書本体も、概要版も届いていません。今後どこかで公開されるのかもしれませんが…。でも、今の時点で私が入手可能のは、たとえば神戸新聞ほか新聞各紙が配信した記事だけです。そこで、あくまでもこの「新聞各紙が配信した記事からわかる範囲内で」という限定つきで、「教員間いじめ」問題に関する弁護士主体の調査チームの報告書の要点と課題を読み解いてみようと思います。

なお、新聞各紙がこの件を伝えているわけですが、この「教員間いじめ」問題については、たとえば地元紙・神戸新聞と他の新聞(全国紙)との間で、あるいは、他の新聞(全国紙)でも論調がちがっている可能性がかなりあります。なので、その論調の違いにも目を向けながら、議論をすすめたいと思います。

また、一度でブログ記事がおわるとは思えないので、二度、三度…と続いてもいいように、【1】【2】…と表題をつけておこうと思います。

さて、まずは今回は【1】ということで、神戸新聞がさっそく昨日から配信している下記の記事(5件)を参照して、そこからわかる弁護士主体の調査チーム報告書の要点と課題を読み解きます。

(1)東須磨小調査報告 ハラスメントは4教員への行為 (神戸新聞NEXT 2020年2月21日)

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202002/0013135484.shtml

まずこの記事からわかるのは、調査チームはやはり「弁護士らしく」ひとつひとつの加害教員らの行為についての事実認定を積み上げていく作業を行った、ということですね。ただ、この記事からはわからないのは、具体的な加害行為がいつ頃からはじまり、どのあたりから繰り返されるようになり…という時系列的な変化です。それこそある時期以後に加害行為が集中的に行われていくようになったとしたら、そこになにか、「教職員集団の雰囲気や人間関係の構造的な変化が現れた」と考えることもできるのですが。

そういう点は調べなかったんでしょうか? 実は今後、同様のケースの再発防止策を考えるために…。たとえば被害にあった教員を早期に「助ける」ことや、加害教員の行為のエスカレートを食い止めるような対応策を考える」上で、こういう「教職員集団の雰囲気や人間関係の構造的な変化」がどこからはじまったのか、その変化のきっかけはなんだったのか等を知ることって、とても重要なことなのですが。

それから、やはり4人名指しされている加害教員のなかにも、予想されたとおり、行為の事実・程度の重い・軽いはあるようですね。だとすると、おそらく懲戒処分を課す場合にも、そのあたりは考慮されるかたちになるように思います。また、前々から言っているとおり、市教委が去年10月末に行った加害教員4人まとめての分限休職処分・給与差し止めという措置の妥当性が、あらためて問われてくることにもなると思います。

なお、調査チームが指摘している次の部分(上記記事からわかる範囲ですが)は、とても重要です。

「動機について、加害教員4人それぞれに異なるとしながらも、「人権感覚の欠如」を指摘。さらに「管理職が主としてつくり上げた職員室全体の雰囲気が、ハラスメントを防止できず、一人の教員を精神的に追い詰めた」と前校長、現校長の責任に言及した。

 背景には、同校にベテランが少なく、6年生を長く担任した加害教員が力を持った▽多忙を理由に他のことに干渉したがらない教員が多い▽市教委でハラスメントに特化した研修がない-などの点を挙げた。」

弁護士さんたちはあまり意識されていないのかもしれませんが・・・。

実は「上記の引用部分って、まさに、神戸市の教育施策の問題ばかり」だし、「国の教育施策の問題でもあるもの」なのですよ。「教員の採用人事の矛盾で特定の年齢層に偏りができた」「教職員(管理職層を含む)への人権研修、ハラスメント研修がないか、あっても弱い」「校務が多忙になることで、誰もが他の教員のことに干渉したがらない」等々。いずれも、神戸市教委が長年やってきた教職員人事の問題ではありませんか(「神戸方式」の問題ではないにせよ)。また、「教職員が多忙化で余裕がない」ような状態に追い込んでいるのは、神戸市の教育施策だけでなく、国の教育施策も背景要因として絡んでいるのではありませんか? だからこそ、この教員間いじめの問題は、「他の自治体でも起こりうる」と言えるわけです。

弁護士さんたちは誠実に事実認定をされたのだろうと思いますが…。その事実から読み取れる背景要因、構造的な課題の検討については、やはり「今一つ、足りない」ものを感じてしまいます。

(2)加害教員免職も視野 市教委、来週にも処分、神戸・教員間暴力 (神戸新聞2020年2月22日)

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202002/0013136309.shtml

こちらの記事によると、神戸市教委はすぐに別の会議体を立ち上げて、今回出された報告書の内容をふまえて、加害教員と当時の校長らへの懲戒処分を検討するようですね。また、記事によると、セクハラの疑いのある人を含む2人くらいは「免職」の可能性ありで、あとの人たちは「停職」あたりかも…という推測がなりたちます。

ただ、この記事によりますと、こちらの「処分」は懲戒だから別物という考え方がでていますが…。しかし去年10月末の加害教員4人への分限休職処分・給与差し止め措置の問題で「異議申し立て」がでている現状ですから、はたして本当に「別物」とわけて対応できるのでしょうか?

それこそ、同じ行為事実について、分限処分の不服申立て申請が認められて、市教委の対応がおかしいということになり…。他方で「懲戒処分」はOK」ということになった場合、実際に分限休職処分になった人たち、おさまりがつかないでしょうね。なので、場合によれば、分限休職処分に加えて、懲戒処分に対しても異議申し立てがでてきたり、さらには訴訟が起こりうる恐れもありますね。

この点についても、今後注目をしていく必要があります。市教委側はこの懲戒処分で早く決着をつけたいのかもしれませんが、まだまだ、処分問題は尾を引くように思われます。

(3)職員室で飛び交う「死ね」「カス」 調査委が感じた闇 (神戸新聞2020年2月21日)

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202002/0013135977.shtml

こちらの記事には、調査チームの弁護士さんたちの会見時の様子がでていますね。大筋では(1)の内容をなぞった感じになっていますが。

ただ、私が違和感を抱いたのは、記事中にある弁護士さんの次のコメント部分です(新聞記者さんの整理・要約が入っているとは思いますが・・・)

「「全貌を解明できたかは分からない」とし、「それなりに闇があるなと感じた」とも話した。」

まず、この点について。「それなりに闇がある」と思われたうえで、なおかつ「全貌を解明できたかは分からない」とおっしゃるのであれば、その状態で調査・検証作業をやめてしまっていいんでしょうか…??? なぜかこういうところから「とにかく年度内に「懲戒処分」を急ぎたい」という、その市教委の意向に沿って調査チームが動いたようにも思えてなりません。

一方、同じ記事の次のコメント部分についても、私はひっかかりを覚えました。

「ただ、パワハラ行為について本人は具体的な心当たりがなく、「職場の雰囲気が悪いことすら気付いていなかった」と説明。渡辺委員長は「威圧的な言動について『訴えている方がおかしい』という感じで否定され、強い違和感を持っている」とした。」

以前、このブログで、精神科医・中井久夫の「いじめの政治学」などの議論を紹介しましたが、まさにこれって、中井久夫のいう「いじめの透明化」が起きていたっていうことではありませんか? 私はだからこそ、この問題を「教員間暴力」や「ハラスメント」の問題としてではなく、「いじめ」の問題として論じていく必要があると思って、ずっと「教員間いじめ」と呼び続けてきたわけです。

あるいは、いじめの重大事態においても、たとえば加害に及んだ子どものなかには、自分のやったことを「いじめ」だとは思わず、別の理由によるものと説明するケースがかなりあります。似たようなことが、教職員集団のなかの「いじめ」でも起きていたとするならば、弁護士さんたちの「違和感」にとどめずに、それを教育学・心理学・精神医学など他の観点から分析すべきではなかったのかと思うのですが。

(4)東須磨小調査報告書公表 保護者、識者の受け止め (2020年2月22日、神戸新聞)

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202002/0013135604.shtml

この保護者や識者のコメントを読むと、やはり「弁護士主体の調査チーム」というかたちでの調査・検証作業の「限界」を感じますね。

誠実に弁護士さんたちがこの件の調査・検証作業に動かれたのであろうこと。そのことは記事からもよくわかるのですが、やはり昨日も書いたとおり、そもそも去年10月時点で神戸市総合教育会議が描いた事態収拾の枠組みが「評判リスク管理」を前提としていて、教育学・心理学・精神医学的な観点からの極力、議論を排除してきたことが、ここまでなにかと尾を引いている感じがします。

それこそ、たとえば保護者のコメントのなかには、加害教員のひとりに「指導力の高さ」を感じていたとあります。こういう点に注目すると、神戸の教育界はいま<「授業の指導力」が高ければ、同僚間の折り合いが少々悪くても、同僚に対して乱暴な態度をとってもかまわないという雰囲気になっているのではないか?>という疑問すら湧いてきます。もしもそういう雰囲気ができているとしたら、その雰囲気は<神戸市の教育施策のうち、たとえば「学力向上」路線とどういう関係のあったのか?>といったことへの考察、検証が必要になったはずです。

あるいは、この記事のなかでは心理学研究者から、職場環境とストレスの発生、他者への攻撃性の関係を指摘する意見が出されていますよね。この心理学研究者からはそのものずばり、「心理面を踏まえた再発防止策を重点的に考えるべき」なんて意見もあります。

だとしたらやはり、この調査報告書、弁護士さん的には「よくやった」かもしれないのですが、他の領域から見たら「まだまだ、ものたりない」部分があるんじゃないですかね? なぜ最初から教育学や心理学・精神医学系の研究者、専門職を交えた本格的な調査・検証作業をしなかったのか? そこに私、ずっとこだわり続けています。

(5)東須磨小教員間暴行 調査委「闇が深い」 一問一答 (神戸新聞2020年2月21日)

https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/eastsuma-kyoin/202002/0013135990.shtml

この「一問一答」のやりとりを見ると、あらためて「教育学や心理学・精神医学系の研究者、専門職を交えた本格的な調査・検証作業をしなかった」ことの問題点を感じます。

記者さんたちがかなり意識して、弁護士さんにいいところツッコんでいるんですが…。その「ツッコミ」の「先」に、実はこの調査チームの「限界」が見えてくるんですよね。たとえば、次のやりとりの部分です。

-報告書ではあまり教育委員会の責任には言及していない印象がある。

 「その点もいろいろ議論した。結果として市教委がもっと調べていればとは思うが、特に具体的な問責認定には至らなかった」

この点、この弁護士主体の調査チームがどういう根拠で市教委の責任を問わないことにしたのか? そこ、記者さんたちにはぜひ、ツッコんでほしかったところです。

なにしろ、「法的責任は問えない」かもしれないのですが、「教育行政のあり方として、そんな学校現場への対応でいいの? そんな条件整備でいいの?」と思われることが多々あるなら、やっぱり、こういう調査では指摘しないといけないのではないですかね? 読みようによっては、市教委に矢がささらないような調査をした…とも読めますからね、この一問一答。

それから、次のやりとり部分。

-これだけのハラスメント行為を、なぜ管理職は気付けなかったのか。

 「われわれにとっても最大の疑問点。意識が低かったのかもしれないし、職員室と離れているからかもしれない」

あの…。弁護士さんたち、調査したんですよね、時間かけて? 直接、管理職にも面談をしたわけですし…。そこでなぜ、こんなあいまいな返答になるんでしょうか? ツッコミが足りないんじゃないですか、記者さんたちも?

そして、ここのやりとりの部分。ここも弁護士主体の調査チームの「限界」を感じます。 

 -歴代3校長の聞き取りで違和感はあったか。

 「感じる人と感じない人がいた。前校長には強い違和感を持った。評価は非常に高く、学校経営が大変だった時期で同情的な面もあるが、威圧的な言動について多くの教員から声が出ているのに、全て否認されるとどうなのかと思う」

 -前校長も加害教員も評価が高い。

 「むしろそういう人だから周りが我慢したり長く見抜けなかったり、一つの要因なのではないかと思う」

いやいや、だから、その「評価が高い」というときの「評価」は、誰の、なんに対する評価なの? たとえば、常日頃は「学力向上に定評がある」校長やベテラン教員だけど、「同僚や部下に対しては冷淡」という評価だってありうるわけで…。その前校長や加害教員らが今まで得てきた「高い評価」の内実を問うことこそ、この件の本質的な課題を掘り起こし、再発防止策などを考える上で重要なヒントになるわけで…。

「ああ、もう、本当にじれったい!」「ツッコミが足りない、記者さんも、弁護士さんたちも」と、この一問一答を読んで思いました。

やはり、弁護士主体の調査チームの「限界」や「弊害」を感じましたね、この「一問一答」を読んで。

※なお、昨日の神戸新聞の記事には他にも被害にあった教員に関するものもありましたが、それについては別途、どこかでまとめて書こうと思います。被害にあった教員の「職場復帰」のあり方を考える上で、やはり心理学や精神医学、教育学的な議論が大事になってくると思うもので。

 


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