ウイーン国立歌劇場のフィデリオを観に行ってきました。
このフィデリオは東京での公演はなく、横浜のみです。
会場は神奈川県立県民ホール、小じんまりしてあまり大きくないので、上の方の安い席でもよく見えます。
特にオーケストラピットがよく見えるので、案外安い席でよかったかも知れません。
今回の演出はオットー・シェンク、どうもこれと同じような舞台を見た記憶があるので、再演なのかもしれません。
舞台は機能的でシンプルで、良かったと思います。
マエストロ小澤は暗譜です。
指揮も、あからさまに指示を出すような仕草はなく、終始リズムを刻むだけのようで、すっかり手の内に入っているのでしょう。
オーケストラも本当にこなれた演奏で、目をつぶっていても演奏できそうな感じです。
オーケストラの音、特に弦楽器の音が美しく、聞きほれてしまいます。
ウイーンフィル(厳密にはウイーン国立歌劇場管弦楽団なのでちょっとちがうのですが)は普通ピッチが440のところ、もうすこし高めのピッチになっていると聞いたことがありますが、そのせいなのでしょうか?
第一幕、オーケストラは奇をてらうことも、力みもなく、淡々と演奏していきます。
しかし、一瞬たりとも、ダレたり退屈することはありません。
最初、マルツェリーネ役のイルディコ・ライモンディの声が弱弱しく、ん!と思ったのですが、進むにつれてだんだん音量が上がってきます。
演出だったのでしょうか。
第一幕の後半、囚人の合唱も美しい響きです。
冷たく暗い牢獄のなかから、春の穏やかな光にふれた喜びがひしひしと伝わってきます。
第一幕が終わり、30分間の休憩、廊下に出ると、山下公園をはじめ、横浜の海が一望できます。
抜群のロケーションです。
第二幕、いよいよフロレスタンの登場です。
レオノーレとフロレスタンの二重唱も美しく、うちに秘めた喜びが思わずあふれ出てくるような感じです。
いよいよ佳境に入り、大団円の前、場面転換のために、幕が下りると、間髪入れずに「レオノーレ序曲第三番」の演奏です。
これが凄い。
いままで、レオノーレは好きな曲なので、よく聞いていたのですが、それとは全く違います。
今まで聞いてきたレオノーレは何だったのだろう、と思わせるような演奏です。
美しく、強く、気高いレオノーレそのものです。
たとえて言うなら、オーケストラピットからホログラフのレオノーレの像が浮き上がってくるようなそんな感じです。
思わず、うるうるしてしまいます。
こんなレオノーレを聞いてしまったら、他もオーケストラの演奏は聴けなくなってしまうかもしれません。
そして、この興奮冷めやらぬうちに、大団円。
全体での合唱です。
囚人たちが解放される喜び、レオノーレとフロレスタンの再開の喜びがじわじわと伝わってきます。
冷たい氷の心が、やわらかく温かい春の光に図らずもとろけてしまうような感動です。
これで、もう終わりかと思うと、この一瞬が永遠に続いてくれればいいのにと思えてなりません。
至福の時間です。
公演も終わり、カーテンコール。
何度も何度も、歌手陣とマエストロ小澤が舞台に登場します。
今回の公演は午後3時からですから、帰りの時間に余裕があります。
ゆっくりカーテンコールも堪能できました。
帰りの電車では、頭の中で、レオノーレのさびの部分がエンドレスで流れていました。
すっかり、ウイーン国立歌劇場管弦楽団にはまってしまいました。