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記者たち 衝撃と畏怖の真実

2019年04月10日 | 映画

9.11後、イラクの大量破壊兵器保有を理由に侵攻を主張する政府の動きに疑問を抱き、真実を明らかにしようと奮闘する記者たちの姿を描いた社会派ドラマ。ロブ・ライナーが監督を手掛け、ウディ・ハレルソン、ジェームズ・マースデンが共演しています。

記者たち 衝撃と畏怖の真実 (Shock and Awe)

2002年、ブッシュ大統領は、イラクが大量破壊兵器を保有しているとして、イラク侵攻を宣言。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど、大手メディアが軒並みこの主張を支持する中、ナイト・リッダー社ワシントン支局のジョナサン・ランデー(ウディ・ハレルソン)とウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)は疑問を抱きます...。

”大統領の陰謀”、”スポットライト”、最近では ”ペンタゴン・ペーパーズ” (The Post) など。ジャーナリズムを描いた硬派な作品が好きなので楽しみにしていました。イラクが ”大量破壊兵器を持っていなかった” ことは既に明らかになっている事実で、このことを題材にしたマッド・デイモンの ”グリーン・ゾーン” といった映画もありましたが

当初は、9.11後の悲しみと怒りの中で、多くのアメリカ国民がブッシュ大統領の主張を支持していました。しかもその世論を作り出していたのが、大手メディアだったという真実。本作を見て、ジャーナリズムの責任と、集団心理の恐ろしさを改めてかみしめました。

テロを起こしたのはアルカイーダなのに、標的が巧妙にフセインにすり替わったのです。中東関係は複雑で、よくわからないままにメディアに操作されてしまったということもあるでしょう。自分で考えること、よく勉強すること。フェイクニュースに踊らされないよう、意識を高めることの大切さを肝に銘じました。

ナイト・リッダー社は、カリフォルニアに本社を置き、32の新聞社に記事を配信しているアメリカ第2位の規模を誇る通信社だそうです。

ワシントン支局 (支局長をロブ・ライナー監督自ら演じています) のジョナサンとウォーレンは、政府やペンタゴンの内部通報者たちの証言をもとに裏付けを取り、次々とスクープ記事を発信しますが、大手メディアが政府を支持する中で、ナイト・リッダー社だけが孤立してしまいます。

真実を伝えても、誰も耳を傾けようとしない。そうした中で信念を曲げず、ジャーナリストとしての使命を全うする。記者たちの情熱に心を打たれました。とはいえ国民を動かす大きなうねりとなることはかなわず、結局アメリカは泥沼のイラク戦争へと突入することになります。

映画は、愛国心からイラク戦争に志願して戦地で爆撃を受け、車いす生活となった元兵士の裁判での証言からはじまります。多くの犠牲者を出して、はたしてこの戦争が必要だったのか。この少年兵士にフォーカスすることで、彼の後ろに連なる何万という兵士の姿が浮かび上がりました。

映画としては非常にオーソドックスな作りで、記者たちを精神的に支える家族や恋人のことが少し描かれ、しばし心が和みますが、全体的にはあくまでテレビの報道番組のような真摯な作り。それでも手に汗握り、引き込まれました。

ブッシュのイラク侵攻に関しては、今公開中のチェイニー副大統領を主人公とした「バイス」(Vice) が政府側の視点から描かれています。こちらはブラックユーモアで、エンタメ性もあるみたいですが、合わせて見たくなりました。

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