セレンディピティ ダイアリー

映画とアートの感想、食のあれこれ、旅とおでかけ。お探しの記事は、上の検索窓か、カテゴリーの各INDEXをご利用ください。

ビューティフル・ボーイ

2019年04月28日 | 映画

薬物依存症の息子と彼を支える家族の苦難を描いた、実話に基づくヒューマンドラマ。映画のモデルとなった父子がそれぞれの視点から書いた、2冊の回顧録を原作としています。ティモシー・シャラメとスティーヴ・キャレルが主演し、ブラッド・ピッドのプランBエンターテイメントが製作を務めています。

ビューティフル・ボーイ (Beautiful Boy)

聡明で、文才があって、サーフィンの得意な大学生の息子ニック(ティモシー・シャラメ)は、ふとしたことから薬物依存症になってしまいます。更生施設に入ってもそこを抜けだし、何日も行方不明になり、その間に再び薬物に手を出してしまうという繰り返しの中で、父デヴィッド(スティーヴ・キャレル)はあきらめずに彼を見守り続けますが...。

今もっとも輝いている若手俳優、ティモシー・シャラメが主演ということで楽しみにしていた作品です。予告を見ただけで詳細は知らなかったのですが、上のスチールを見て、きっと父子の絆を描いたハートウォーミングなお話なんだろうなーとぼんやり思っていた私。

ところが本作は、薬物依存症の過酷さが生々しく描かれていて、最後まで救いがありません。映画のあとのテロップで、この作品が実話をもとにしていて、ニックが依存症を克服して8年が経過していると知り、ようやくほっと胸をなでおろしました。あとで映画の公式HPを見て、ニックが現在はテレビドラマの脚本家として活躍していることも知りました。

日本では薬物依存症がそれほど身近にないこともあって、正直ニックの苦悩がなかなか理解しにくいということもありました。才能にあふれ、容姿に恵まれ、何の不自由もないのに、何が彼をドラッグの闇へと引きずり込んだのか。きっかけは些細なことだったのかもしれません。

たしかに父親のデヴィッドは少々過干渉なところがありましたし、息子への期待が大きかったがゆえに、自分の理想像を息子に押し付けていたところがあったかもしれません。でもそれは親であれば多かれ少なかれあることですしし、愛情の表れでもありますよね。

親は子どもを愛するがゆえに人生の先輩として手を焼き、将来を心配するがゆえに自分の価値観を押し付けてしまうことがある。大人と子どもの間で揺れ動く思春期の若者が、そうした親の思惑に、つい反発を起こしてしまうのは、通過儀礼のようなものでしょう。

そんな時にほんの気まぐれに手を出したドラッグに、人生を奪われてしまうことの恐ろしさがまざまざと伝わってきました。不健康に痩せた体に、数えきれないほどの注射針の跡が痛々しかった...。シャラメくんが演じると、そんな若者も耽美な美しさとなって胸に迫るけれど、決して美化してはいけないのですよね。

繊細で傷つきやすいニックを見ながら、同じく思春期クライシスを描いた「イントゥ・ザ・ワイルド」を思い出したりもしました。見るのに覚悟がいる作品ですが、ティモシー・シャラメの魅力と演技を堪能しました。

コメント (6)