韓国で130万部、世界16か国で翻訳されたベストセラー小説です。
チョ・ナムジュ「82年生まれ、キム・ジヨン」 (Kim Jiyoung, born 1982)
夫と幼い娘と暮らしている専業主婦のジヨンは、ある日精神の異常をきたして、いろいろな人格が憑依するようになります。この小説は、主治医によるカルテという手法を取りながら、ジヨンが幼い頃から経験してきた女性としての困難と差別が語られていきます。
著者はもと放送作家で、本作は彼女の自伝的な要素も含まれているそうです。ジヨンというのは80年代に最も多かった韓国の女性の名前で、きっと誰もが経験してきた普遍的な物語として多くの女性たちの心をとらえたのだと思います。
ジヨンの進学、就職、結婚、出産...という人生は私のそれとも重なりますが、私は彼女のように、自分が女性であることで困難や差別を感じたことは、実はそれほど多くありません。今度生まれ変わる時も女性がいいと思うほど。
明治時代ほど封建的でなく、今の時代ほど平等主義でもなく、生まれ育った時代がちょうど私の感覚に合っていたのかもしれません。
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男兄弟がいなかったので、兄や弟と比べて差別されるという経験もなかったし、進路のことでとやかく言われたこともなかった。周りにもそういう友人はあまりいなかったと記憶していますが、地方ではまだまだ男性上位の家があったかもしれませんね。
就職したのは均等法が施行された後で、男女平等の恩恵を受けつつ、女性としての甘えも許される、一番得な時代だったような気がします。話を聞くと、今の若い女性たちは全ての役割を完璧にこなすことを求められ、ずっとたいへんそうだと感じます。
仕事を続けていく中で女性としての限界を感じたことはありましたが、子育てはそれ以上の価値と喜びを与えてくれましたし、貴重な経験を積み重ね、成長することができたとも感じています。
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本作は、現代女性の生きづらさに主眼を置いていますが、私は現代の男性も同じくらい生きづらさを抱えていると思います。うまく言えませんが、今の時代は私たちの頃と比べて、モラルやリスペクトが圧倒的に欠けているように思うのです。
そして多くの人が心の余裕をなくして、鷹揚さがなくなっているとも感じます。振り返ると、私はいろいろなことにあまりに生意気で無防備だった。それでもそれが若さゆえの過ちと許される寛容さが自分を育ててくれたと思うのです。
本作の訴えたいこととは少しずれているかもしれませんが、そんなことを思いながら読みました。