二葉鍼灸療院 院長のドタバタ活動日記

私が日頃行っている活動や、日々の鍼灸臨床で感じたことなどを綴っていきたいと思います。

第28回 生体調整機構制御学会 参加報告④

2010年09月09日 | 鍼灸
8月29日(日)開催された、第28回 生体調整機構制御学会の参加報告をしていま~す

~ 特別講演 ~

 演 題:生体調整機構としての酸化バランス防御系と鍼の効果

 講 師:永田 勝太郎 先生
      世界保健機関 心理学・精神薬理学 教授
      (財)国際全人医療研究所 理事長



 座長の朝日大学 名誉教授 船越先生

ここでも勉強させて頂いたことをまとめて書くと…(長くなるかも

◎人間を霊長とした生物は長い時間の経過の中で、巧みな生体調節機構を構築し、さまざまな環境に適応してきた。

◎その生体調節機構には、古くから自律神経系、免疫系、内分泌系が知られているが、それだけでは生体のホメオスターシス機構は全て説明できない臨床例に時々遭遇する。

◎その調節に大きく関わるものの一つに酸化バランス防御系が関連しているのではないだろうか?

◎酸化バランス防御系は、有酸素反応をエネルギー代謝系の一つとして、生命を維持する生物すべてに共通する必須の防御手段である。

◎体内には多くの活性酸素を除去するシステム(抗酸化物質)が内在されている。また、食物からも非効率的ではあるが、ビタミンやミネラル類など多くの抗酸化物質を摂取して体内の環境整備に努めている。

ミトコンドリアの大好きな私にとって、非常に面白い話題でした。体の熱やエネルギーはミトコンドリアでほぼ行われます。細胞全てに存在し、神経細胞などの活発に働く細胞に多量に存在します。植物では、それは葉緑体であり、ここが光合成では重要になります。

ですから、酸化バランス防御系は細胞レベルの身体調節システムとしては、当然ありだと思いますね

◎この抗酸化能を測定する装置がある。FRAS4というもので、イタリアのH&D社のもの。この装置を使用して、鍼の効果を調べたところ、鍼刺激は、酸化ストレスを低下させ、抗酸化力を増加させ、潜在的抗酸化能力が示された。

◎鍼治療は酸化バランス防御系に積極的な影響を与えることが明確になり、アンチ・エイジングや健康回復として意義あるものであることが分かった。漢方薬も調べたところ鍼治療同様の効果が期待されることが示された。

ここまでが抄録に書いてあったお話で、ここからが講演に参加した人が得するお話。裏話
ここで書いちゃいます

◎米軍では東洋医学を活用している(2010年 7月4日 東京新聞 朝刊に掲載)。

①2001年9月11日以来、テロとの戦争を始めたアメリカ。イラク、アフガニスタンでは今もなお紛争が続いています。アメリカ兵も人間であり、長く戦地にいたり、ショッキングな出来事があれば精神的負担となります。2007年以降、帰還兵(ベテラン)と言われる人の1万人超がPTSD(心的外傷後ストレス症候群)と診断されています。そのうち30%が線維筋痛症(FMS)を発症しているのが現状です。このような帰還兵に対して、最初は西洋式精神医学の治療を行い、抗うつ剤などを処方していたが、かえって悪化。そこで鍼治療を行ったところ症状が軽減し、不眠で悩んでいた軍人が30時間もぐっすい眠りました。このような人たちの治療に現在では、鍼治療、マッサージ、レイキなど代替医療を中心に行われています。

②永田先生が8月の間、NIHの友人に呼ばれ、ペンタゴンやエアフォースなどで鍼治療のレクチャーを頼まれ渡米していたことを話されました。永田先生は温泉と鍼治療など西洋医学と東洋医学を組み入れた全人的医療を実践されている先生です。

③その際、NIHに役人の話で、「アメリカの軍事病院に鍼治療のできないところはないよ」と言われたのが印象的でした。アメリカという国は負の部分も大きいが、いいもの、効果のあるものはすぐに取り入れるところがすごい!科学的ではなくて、まず症状が軽減し、喜ばれている事実がそこにあれば、疑わしきものは別であるが、いいものはいい!と判断するところは懐が大きいな~と思います。

③オバマ大統領は5兆円を投じて、この帰還兵や退役軍人で戦争の後遺症に悩む人たちを援助する法案を可決しました。そして、そのプロジェクトの中に鍼治療も取り入れられるわけです。

④中国の鍼、日本の鍼、ではなくて、今や世界の鍼!なんです。

◎翻って、日本の鍼灸界の事情はどうか
 永田先生は、いくつかの温泉病院で診察を行っています。鍼治療も行っているわけですが、とある病院がある温泉地域の医師会では、医療機関で鍼をやることを禁止しているようです。

鍼治療はしたほうがいい、ということで、患者様の近くの鍼灸治療院を紹介するわけです。永田先生は、紹介したら必ず患者様に感想を聞くそうです。先生は、ほぼ皆さん喜ばれるだろうと思いきや…半分の患者様は「もう鍼は二度と行きたくない」と言われたそうです。
その理由は…
 ・自分がえらいこと誇示するような話ばかりする、こんな難病を治したとか。
 ・セクハラまがいのことをされた。
 ・機械まかせで、まったく体に触らない。
全ての人がそうだとは言いませんが、これが鍼灸界の現状の一部を表しています。なんとも情けない話です。これは治療が上手下手以前の問題ですね。

この現状を、日本の鍼灸界を指導すべき立場の先生と話する機会があった時に、注意を促すべくお話したところ、ニヤッとして「鍼灸界って、こんなもんですよ」と言われ、激怒したという話もされていました。これは、さらに情けない話ですね。

◎鍼灸師の方々は。「右手に鍼を 左手に鍼灸心理学を」そんな態度で患者さまを治療して欲しい。



鍼灸治療の素晴らしさと、その鍼灸治療を行う鍼灸師のレベルの低さに、その両者にショックと言った感じの講演でした。これは人事ではないのですよね。全て自分のことと捉えて精進しなければいけません。

素晴らしい鍼灸医療を行えるだけでの鍼灸師の資質の向上
レベルの高い人間性と技術と学問、それを兼ねそろえた人間になっていかねばと、本当に刺激になった講演でした 

二葉鍼灸療院 田中良和 
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第28回 生体調整機構制御学会 参加報告③

2010年09月09日 | 鍼灸
8月29日(日)に開催された、第28回 生体調整機構制御学会学術集会の教育講演の内容を報告しま~す

~ 教育講演 ~
 
 演 題:鍼灸刺激が脳内モノアミンに及ぼす影響 -脳報酬系を中心に-

 講 師:福田 文彦 先生
      明治国際医療大学 臨床鍼灸学教室 准教授



 座長の(社)生体調整機構制御学会 会長 中村先生

少し勉強させて頂いたことをまとめて書くと…

◎鎮痛効果や鍼灸治療効果は、下行性抑制系だけでなはなく、腹側被蓋野から視床下部、大脳辺縁系や大脳皮質へ投射する内側前脳束を中心とする領域に広がる脳報酬系が関与すると考えられる。現在は、脳報酬系の研究を中心に福田先生は行っている。この研究は鍼灸に関するデータがあまりみられない分野である。

◎脳報酬系とは、自分の欲求が満たされた時に、快感や喜びなどの快情動を引き起こす場所のこと。この脳報酬系が賦活することにより、鎮痛効果、ストレス緩和効果、リラクゼーション効果など非特異的効果を生じる。

◎この脳報酬系を賦活させ治療効果を出すためには
 ①施術者と患者の間に信頼関係を築くことによる満足度
 ②鍼灸刺激を行うこと
鍼灸治療は直接、側座核などから大脳へ刺激が投射し、セロトニンやドーパミンなど脳内モノアミンに直接影響を及ぼし、その際、オピオイド系とも密接に関わり合う。



 鍼灸治療による効果・適切な患者対応
        ↓
      報酬効果
        ↓
      鍼灸治療による効果
        ↓
      満足度向上
        ↓
      治療の継続
        ↓
 さらなる症状軽減・治療効果の持続

◎これら脳報酬系に関する鍼灸の効果をラットを使った動物実験を中心に、福田先生ご自身がされている研究や、世界の研究を紹介して頂いた。

◎ラットもストレスをかけると、水よりアルコールを飲む ストレスを紛らわすための行動は生物は一緒なのか この習性を利用して、ラットにいろいろなストレスをかけてみた。その中に灸刺激を与えてみたが、ラットはそれほどアルコールを飲まなかった。→灸刺激は過剰なストレスではない、ということ。

◎鍼灸刺激は、経穴(ツボ)部位の特異性、刺激量、刺激回数によって反応は大きく違う。

◎セロトニン、ドーパミンなどの脳内モノアミンの反応をみた研究では、鍼灸刺激は、両物質ともに、減少している部分では増量し、増量している部分では減少する結果が出た。鍼灸刺激は、脳内モノアミンを適切に調整する働きがあるようだ。




鍼灸治療というのは治療自体の効果もさることながら、患者が鍼灸院へ来院された時に、どれだけ快情動が誘発されるかということも大事なんですね。
例えば、元気な挨拶とか、さりげない気づかいとか、清潔な室内とか、施術者の優しさや笑顔、スタッフの対応など、治療技術だけではない何かが、脳報酬系に刺激を与え、治療技術による効果をさらに上げるんですね。

これは、「そうだな~」と思い当たるところは施術者なら皆さんあるのではないかと思うのです。それが科学的研究によっても証明されたということです。

そして、鍼灸治療というのは、身体の働きや、情動など人間が人間らしく生活するために脳内で一所懸命働いている、脳内モノアミンやオピオイド物質などに影響を及ぼすのです。それくらい素晴らしい治療であるのです。

科学では鍼灸など東洋医学の全ては証明できないにしても、リンクできるところは多くあるのです。西洋、東洋、両者をバランスよく取り入れ、臨床に活かすことこそ、本当の意味での患者さまのための医療なのでしょう。

非常にためになる講演でした  

二葉鍼灸療院 田中良和 
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第28回 生体調整機構制御学会 参加報告②

2010年09月09日 | 鍼灸
8月29日(日)に開催された、第28回 生体調整機構制御学会のシンポジウムに関して報告しま~す

~シンポジウム 「鍼治療の自律神経に及ぼす影響」~
 
 シンポジスト&演題
  ①長期鍼治療による神経制御の持続的変化
    -高血糖ラット胃平滑筋運動に対する鍼治療の効果-

   福田 裕康 先生
    名古屋市立大学大学院医学研究科細胞生物学
    東洋医学研究所グループ 福田鍼灸院 院長

  ②胃電図を指標とした鍼刺激の自律神経に及ぼす影響
  
   甲田 久士 先生
    東洋医学研究所グループ 二葉はり治療院 院長

  ③新しい心臓副交感神経の指標DCについて
    -腹部刺激に対する自律神経反応の評価-

   皆川 宗徳 先生
    東洋医学研究所グループ 二葉鍼灸療院 院長

  ④経穴の特異性について
    -膻中穴と中庭穴との比較検討-

   石神 龍代 先生
    東洋医学研究所 副所長
    東洋医学研究所グループ 栄鍼灸院 院長

 座 長
   黒野 保三 先生
    (社)生体調整機構制御学会 名誉会長
    東洋医学研究所 所長


①について。糖尿病になると二次的に消化機能の低下をきたすことが知られています。そこで胃活動の低下について、高血糖ラットに鍼治療を長期にわたり行い(生後6週から41週 週2回)その変化をみました。結果、糖尿病の進行に伴う胃壁電気刺激による筋収縮が改善され、その効果が持続されることが分かりました。この改善に鍼治療は、抑制性神経の反応に関与する神経に反応が顕著にみられました。

つまり、長期的に、定期的に鍼治療を行うと、胃を調整する神経がうまく働き、その効果も持続しやすいということですね。

②について。健康成人において、鍼治療前後で胃電図がどう変化するか、いわゆる胃運動がどう変わるかみた研究です。結果、腹部への鍼治療は、胃活動が抑制時は亢進し、亢進時には抑制に働くことが観察され、不変ではちょうどいい活動状態で維持されることが分かりました。

つまり、鍼治療(刺激)を適度に行うことで、胃活動においてみると生体の逸脱した反応を調整(リセット)する働きがあることが示されました。

③について。新しい心臓副交感神経の指標であるDCを指標として、最新の心拍ゆらぎリアルタイム解析システムを使用して、心拍変動の変化をみました。腹部鍼治療を行うと有意に心拍数が減少し、DCにおいては明確な増加がみられた。

つまり、従来の心拍変動指標から得られなかったDC値をみることで、鍼刺激を行うことで、心臓副交感神経の亢進を介して心拍数を減少させていることが示唆されました。

④について。③の結果から、では胸部刺激と比較して、また胸部の中でも、膻中穴と中庭穴の隣接した部分ではDC値がどう変化するかみた研究です。結果、胸部刺激の方が腹部刺激と比べ効果的であり、膻中穴がさらに、効果があることが示されました。

つまり、今まで精神疾患や循環器系の症状に対して多く使われていた膻中穴という部位は、科学的にも効果的である可能性が示されたということです。

このシンポジウム前後には、座長の黒野先生から、40年にわたる基礎的、臨床的な鍼の研究成果を示して頂き、現在、巷でも話題になっている鍼灸治療の、科学的根拠に基づいた医療(EBM)の構築などは、もの数十年前から提唱し、実践、研究の集積がされてきたとのお話がありました。

また、筋膜に圧を加える程度の鍼治療が生体を調整する刺激となりうることを、様々な研究を通じて話があり、そのためにはどんな技術的訓練が必要かなど、鍼灸師として臨床や研究に取り組む姿勢や、鍼灸医療の位置づけ、そのためにはどのような鍼灸師としての資質が必要かなどの話もありました。


 生体制御療法とは治療原則にのっとり治療しているのです


 鍼が体にいいかどうか一目瞭然ですね


 鍼灸師は総合的に患者を診る目が必要なのです

内容の濃いシンポジウムでしたね。

二葉鍼灸療院 田中良和
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