読書日和

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「響け!ユーフォニアム3 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機」武田綾乃

2021-09-19 10:46:18 | ウェブ日記


今回ご紹介するのは「響け!ユーフォニアム3 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機」(著:武田綾乃)です。

-----内容-----
猛練習も日常となり、雰囲気もかなり仕上がってきた矢先、北宇治高校吹奏楽部に衝撃が走った。
副部長で、部の要と言える三年生のあすかが、全国大会を前に部活を辞めるという噂が流れてきたのだ。
母親との確執から、受験勉強を理由に退部を迫られているらしい。
さらには、楽器に対する複雑な心境をあすかは久美子に打ち明ける。
はたして大会の行方はーー。
”吹部”青春エンタメ小説の決定版!

-----感想-----
この作品は「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」「響け!ユーフォニアム2 北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏」の続編となります。

プロローグは子供時代のあすかがユーフォニアムと出会った場面でした。
このシリーズでは作中で重要な役回りになる人がプロローグに登場する特徴があります。

北宇治高校文化祭での吹奏楽部の演奏で物語が始まります。
京都府立北宇治高校吹奏楽部は二週間前の8月25日に行われた関西吹奏楽コンクールで見事に全国大会への出場資格を手に入れたのでした。
演奏後のミーティングで、部長でバリトンサックス奏者の小笠原晴香から9月末に出演する京都駅の駅ビルコンサートに福岡県の清良女子高校も出演することが語られます。
吹奏楽部は全国大会の常連でもある超強豪校で、演奏したCDを販売した際には売り上げランキングの上位に入り、定期演奏会のチケットは即日完売とあり、物凄い学校だなと思いました。
福岡県に実在する「精華女子高校吹奏楽部」がモデルと思われます。

ミーティングは部長の小笠原と副部長でユーフォニアム奏者の田中あすかによって進行して行きました。
控え目で人を引っ張って行くのにあまり向いていない小笠原と対照的に、あすかは清良女子高校出演でざわつく部員達を難なく静かにさせていました。
本人は部長就任を断りましたが、あすかの方がリーダーに向いていると思う象徴的な場面でした。

主人公で一年生、ユーフォニアム奏者の黄前久美子は関西大会が終わってから部員達の音楽への意欲がどんどん高まっていると胸中で語ります。
吹奏楽部の意識が大きく変わったのは明らかに顧問の滝昇先生の影響でした。
久美子は滝がなぜ休日を返上し、スパルタ指導で憎まれ役になってまで私達に尽くしてくれるのかと疑問に思います。

高校は夏休みが終わって二学期に突入しました。
夏休みの間は部活のことだけ考えていれば良かったのが、再び授業と両立させないといけなくなりました。
それをきついと捉えるか、もっと練習時間を確保したいと捉えるかの意識の差が、演奏力の差になるのだろうなと思います。
一年生でコントラバス奏者の川島緑輝(サファイア、本人はこの名前が嫌いでみどりと呼ばせている)が、全国大会のほうがそれまでの大会より次に進めるかを気にしなくて良い分伸び伸びやれると言っていて、これはそのとおりな気がしました。

久美子は一年生でトランペット奏者の高坂麗奈から誕生日プレゼントに進藤正和という日本を代表するユーフォニアム奏者のCDを貰いました。
プロローグでも名前が出ていて、今作で重要な意味を持つ人です。

全国大会の高校Aの部は10月26日に名古屋で行われるとありました。
かつては東京で行われていて、その場所は「吹奏楽の甲子園」と呼ばれ当時の吹奏楽部員達の聖地だったとあり、これは普門館のことだと思います。
三年生達は全国大会が終われば引退になるともありました。

久美子の姉の麻美子が突然大学を辞めると言い出し、今までずっと部活を馬鹿にされ勉強をしろと言われ続けていた久美子はどういうつもりなのかと追及します。
私もなぜ辞めようとしているのか気になりました。

久美子が宇治商店街を歩いている時、抹茶コロッケというメニューがありました。
抹茶で有名な宇治らしいなと思い、食べたことがないのでどんな味になるのか気になりました。
また花屋の前を通りがかった時に滝に遭遇し、その左手に結婚指輪をしているのが目に留まりましたが、詳しいことは聞けませんでした。

当初滝が掲げた目標は全国大会出場でしたが、今は部員達が全国大会金賞を目標にするようになったとありました。
当初の目標の達成だけで満足せず、より高いところを目指すのは素晴らしいことだと思います。

久美子は職員室であすかの母親が来て激怒している騒ぎに遭遇します。
あすかは難関大学を受験する予定で、母親は「うちの子が受験に失敗したら、どう責任取ってくれるんですか?」と言っていました。
さらにあすかを今日をもって退部させると言っていて久美子は動揺します。
滝は退部を望んでいない本人の意思を尊重すると言い、教頭先生もかなり気を使った言い方ですが本人の意思を尊重すると言っていました。
母親の「私への当て付けのためにあんな楽器吹いてるんやろ?」という言葉が気になり、ユーフォニアムに因縁があるのだなと思いました。

あすかの母親の噂はすぐに広まり、久美子が低音のパート練習の教室に行くと騒ぎになっていました。
全体での合奏ではみんなあすかのことが心配で上の空になっていました。
久美子は「彼女はこの部活の精神的支柱だ。もし本当にあすかが退部してしまったら、いったいどうなってしまうのか。」と胸中で語っていました。
部長の小笠原が真剣に思いを語り、これまでにない強さを感じる姿が印象的でした。

滝が花屋で買っていた花はイタリアンホワイトという黄色を帯びた白色のひまわりだと分かり、花言葉は「あなたを想い続けます」とありました。
久美子と麻美子の小学校時代の回想があり、麻美子は六年生の時に勉強に専念するためにトロンボーンを辞めました。
本当は続けたかった楽器を久美子が伸び伸びと続けていることへの妬みがあり、きつい当たり方になっているのだろうなと思いました。

あすかは部活に来るとは言いますが、詳しいことは話してくれないです。
しかし部活を休むことも増え部員たちは不安を隠せません。
滝とあすかが職員室で話し込んでいる姿も何度も目撃されます。
麗奈が久美子に「全国まで一カ月切ってるわけやし、演奏以外のとこでもめんのは嫌やなあ」と言っていて、本筋ではないところで揉めるのが嫌なのはよく分かります。

駅ビルコンサートに向けての練習の時、「同じ楽器でも、それぞれ異なった役割が与えられている」とありました。
実際の演奏会でもたくさん見たことがあり、主旋律とそれを支える旋律によって厚みのある音になっています。

久美子はある日、二年生のユーフォニアム奏者でB編成(全国大会には出ない)の中川夏紀が居残って練習するようになったのが目に留まります。
麗奈が久美子に、あすかはコンクールにちゃんと出られるのかと疑問を言い、さらに練習に来られないようでは部の士気にも関わると言っていました。
一年生にしてトランペットのソロ演奏を担う麗奈はあくまで全体のことを見ているのがよく分かる場面でした。

迎えた駅ビルコンサートで、久美子は小笠原の演奏が普段とは比べものにならないほどノリノリで格好良くて驚きます。
「コンサート」のステージに立つと人格が変わるタイプのようでした。
注目の清良女子高校はプログラムの最後に「マードックからの最後の手紙」という曲を演奏しました。
マードックは豪華客船タイタニック号の一等航海士で、船が沈む最後の瞬間まで乗客の救出にあたりました。
航海中に家族へ手紙を書くのを日課としていて、この曲は彼の手紙をアイリッシュ調のメロディーで綴ったとあり、どんな曲なのか気になりました。
「マードックからの最後の手紙」の演奏は今作の象徴的な場面で、他校なのにかなり詳しく演奏の様子が描かれていて、北宇治高校にとって格上の相手なのがよく分かりました。
久美子は北宇治高校が演奏した時より清良女子高校が演奏した時の方がお客さんの反応が熱く大盛り上がりだったのを見て、次のように思います。
自分と他者の力量の差を直視するには、ほんの少し勇気が必要なのだ。
印象的な言葉で、これまでの努力で得た自信も木っ端微塵になりかねず、直視するのは大変なことだと思います。

久美子は進藤正和の演奏する「パントマイム」という曲の収録されたCDを聴き、あすかの音色が進藤の音色に似ていると思います。
あすかは母親の目を盗んでこっそりと部活に出ていましたがある日母親にバレてしまい、今度こそ駄目かも知れないとの噂が流れます。
全体演奏ではパーカッションが専門のコーチ橋本真博に今日はユーフォニアムの演奏が駄目だと言われ、久美子はあすかとの実力差を感じます。
さらに滝から今週末までにあすかが部活を続けられる確証が得られなかった場合、全国大会には夏紀に出てもらうと話があります。

休日練習の朝、久美子が「朝日は美しいけれど、決して暖かくはない。」胸中で語っていました。
良い表現だと思い、秋の朝と、あすかのことで揺れる久美子の心境の両方が表現されていると思いました。

久美子はあすかが出場出来ない場合に備えて努力する夏紀を見て、もしあすかが戻ってくれば夏紀の努力は無駄になってしまうことを考えていました。
周りの人のことをよく見ていると思います。

久美子が居残り練習を終えて音楽室の鍵を返しに職員室に行くと、疲れた滝が寝ていました。
その時に机の上にある写真立てが目に留まり、見たことのない女性が映っていて、久美子は滝のかつての奥さんかもと思います。
それを聞いてしまい気まずい雰囲気になっていて、謎が明らかになるのは読んでいて嬉しいですが、なぜ聞いてしまうのだろうとも思いました。

ある日久美子はあすかと1対1で話して全国大会に出場してほしいと説得しますが、あすかはろくに部活にも出ていない自身がのうのうと出るわけにはいかないと言います。
またあすかは久美子に、あなたは自身が傷つくのも相手を傷つけるのも嫌で毎回なあなあで済ませて見守っているのに、どうして相手が本音を見せてくれると思い込んでいるのかと言っていて、かなり鋭い言葉だと思いました。
あすかの鋭さにたじろぐ久美子でしたが、諦めずにこれまでにない気迫であすかに思いをぶつけます。

久美子は幼馴染みでトロンボーン奏者の一年生、塚本秀一との帰り道でそばを通る車の音に混じって川の流れる音が聞こえていることに気付き、普段意識していなかったその音を次のように思います。
当たり前すぎて、その音がそこに存在していることを久美子はつい忘れてしまうのだ
この感性はよく分かります。
木立が風に揺られる音も、車の音に気を取られて聞こえなくなっていることがあります。
久美子が「私たち、ただの友達だもんね」と言い、秀一が否定してくれるのを期待する場面がありましたが、秀一はそうは言ってくれませんでした。
しかしこのやり方は、気持ちは分からなくもないですが大事な部分を相手に押し付けていて良いとは思えなかったです。

いよいよ全国大会を迎えます。
宿舎では久美子と秀一が一転して良い雰囲気で話している場面があり、この二人は付き合うことになるのだろうなと思いました。
演奏の当日、朝食を食べている時に夏紀が「それにしても、ついにこの日が来たな」と言い、緊迫する一言でした。
いよいよ始まるのだなと思いました。

滝は部員達を前に次のように語ります。
「春に全国大会出場という目標を掲げ、私たちはここまでやってきました。私自身、全国大会に出るのはこれが初めてです。ほかの強豪校の先生と違って、右も左も分からないことだらけでした。頼りないと思われたこともあったかと思います。そんななかでこうして結果が残せたのは、ひとえに皆さんの頑張りの成果だと思っています。いままでよくついてきてくれました」
北宇治高校吹奏楽部の春から始まった戦いの最後の演奏が始まって行きました。


「響け!ユーフォニアム」の三部作最終巻ということで、この巻で春からの全国大会を目指した戦いが終わるのが分かっていました。
「全日本吹奏楽コンクール」の、第1巻が京都府大会、第2巻が関西大会、第3巻が全国大会で、どの巻でも様々なことが起こり、なかなか順風満帆には行かないのだろうなと思いました。
高校生が全国大会を目指すのはまさに青春で、爽やかさや他の人との軋轢、大会へ向かっていく盛り上がりなどが合わさり、読んでいてワクワクしました。
久美子が二年生になってからの三部作、三年生になってからの三部作も出ているようなので、いずれそちらも読んでみたいなと思います


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