(演奏の合間にトークをする進正裕さんと勝山由唯さん)
11月20日、広島県廿日市市のはつかいち文化ホール ウッドワンさくらぴあ小ホールで行われた「進正裕×勝山由唯デュオリサイタル」を聴きました。
進正裕さんはサクソフォン奏者、勝山由唯さんはピアノ奏者で、私は進正裕さんの演奏をエリザベト音楽大学に在籍されていた頃から何度か聴いたことがあり、とても上手いサクソフォン奏者なのでリサイタルをされるならぜひ聴きに行こうと思いました。
2人はともに神奈川県の昭和音楽大学大学院にて学び、アンサンブルを結成して活動しておられます。
リサイタルは11月20日が勝山由唯さんの出身地の広島開催、11月23日が進正裕さんの出身地の島根開催で、地元に凱旋してのリサイタルということでどんな演奏になるのかとても楽しみでした
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演奏者メッセージ
本日は、進正裕×勝山由唯デュオリサイタルにご来場頂き、誠にありがとうございます。
出身地である広島・島根でのリサイタルは、私たちにとって、いつか実現させたい目標でした。
本日、このようにして開催できましたことを、心から感謝申し上げますとともに、クラシック音楽をより身近に感じ楽しんでいただけますと幸いです。
今回演奏させていただきますのはドイツ語圏の室内楽作品で、元々はヴァイオリンやヴィオラなど、他楽器の為に書かれた作品です。
本日はサクソフォンとピアノのデュオでお届けいたします。
古典派ーロマン派ー近現代と、時代様式の異なる4人の作曲家の素敵な作品を、どうぞご堪能下さい。
進正裕・勝山由唯
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1. W.A.モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ K.301
(演奏前にチューニング(音合わせ)をする時の場面。一番高い音の出るソプラノサクソフォンを使用しています)
一楽章
とても陽気な始まりで心が弾みました
サクソフォンの音がとてもよく響いているのが分かりました。
こちらの席までそれなりに距離がありましたが、音が空間を伝わって身体に染み込んで来るかのようでした。
ピアノもとても良く、軽やかに颯爽と流れるようでした。
サクソフォンとピアノの息がよく合っていて、2人とも楽しそうなのが印象的でした。
二楽章
こちらも軽やかに始まりました。
そこからややゆったりとし、少し叙情的な響きになりました。
それがとても伸びやかで雄大に聴こえたのが印象的でした
最後は再び軽やかになって終わりました。
2. J.ブラームス/クラリネット・ソナタ Op.120-2
一楽章
この曲はアルトサクソフォンで演奏し、雄大に伸びやかに始まりました。
一気に迫力が出て、ピアノが力強かったです。
ピアノの支え方が上手いなと思い、とても一体感のある支え方でピタリと寄り添っていました。
サクソフォンとピアノの掛け合いが続いてから、迫力のある演奏に変わりました。
その後ゆったりな雰囲気になってから再び大迫力になっていて、曲調の変化の激しさが印象的でした。
二楽章
速く、力強く、ドラマチックに始まりました。
サクソフォン中心での演奏から、ピアノ中心に変わって直前のサクソフォン演奏に「ふし」を付けるような、掛け合いの演奏が何度か続きました。
一瞬演奏が止まってからピアノの独奏になり、ゆったりとして少し悲しげで、安らぐ音色でした。
サクソフォンも入り、こちらも伸びやかで少し悲しそうでした。
サクソフォンが演奏し、ピアノが大迫力で掛け合う演奏が何度か続いて二楽章が終わりました。
三楽章
ゆったりと始まり、ここでもサクソフォン中心の演奏の後にピアノが「ふし」を付けるような掛け合いの演奏がありました。
ややミステリアスでゆったりな演奏になり、やはりサクソフォン中心の演奏の後にピアノが「ふし」をつけていて、全楽章を通して掛け合いが印象的な曲でした。
三楽章ではサクソフォンの音の響きがフワッと空間を浮遊しているように感じ、フワフワとした音の響きが良かったです。
ピアノも強弱の付け方が上手く、さらにそのタッチがとても柔らかかったです。
一気にサクソフォンもピアノも速くて力強い演奏になり、最後も力強く終わりました。
3. R.シューマン/アダージョとアレグロ Op.70
(演奏直前の場面。吹く部分側のカーブが丸形のテナーサクソフォンを持っています。勝山由唯さんは赤いドレスに衣装替えしました)
一楽章
2人でゆったりと演奏を始めました。
安らぐ音色で、ピアノの響きが優しかったです。
そのままゆったりとした優しい雰囲気が続いて行きました。
二楽章
第一楽章から間を置かずに一気にスピードが上がりました。
音色に迫力も出て、曲名のとおりアダージョ(ゆっくり)からアレグロ(急速に)への急激な変化が印象的でした。
一楽章から間を置かないことで、聴いていると突然の変化に驚きます。
最後は再びゆったりとした雰囲気になり、甘い響きの音色でロマンチックだなと思いました
またこの曲でもサクソフォンとピアノの息がとてもよく合っていて、良いアンサンブルだと思いました。
4. R.シューマン/3つのロマンス Op.94
勝山由唯さんがトークで、ブラームスとシューマンには繋がりがあると言っていました。
シューマンの精神状態が落ち込んだ時、ブラームスがシューマンの一家を支えていたとのことで、音楽家同士にそんな繋がりがあるとは興味深かったです。
一楽章
ソプラノサクソフォンで演奏し、2人で悲しそうな音色で演奏を始めました。
ピアノの音色に少し安らぎも感じるなと思いました。
最後も寂し気に終わりました。
二楽章
ゆったりと穏やかな音色で始まりました。
そこから2人の音色に安らぎが現れて行きました。
速く力強くなってから、再び冒頭の音色になりました。
三楽章
少し悲しそうに始まりました。
サクソフォンの悲しそうな演奏にピアノが穏やかにロマンチックに「ふし」を付ける掛け合いの演奏が何度か続きました。
両方合わせての音色がとても甘くロマンチックで、シューマンが妻クララ・シューマンへのクリスマスプレゼントとして作った曲というのがよく分かりました。
5. P.ヒンデミット/ヴィオラ・ソナタ Op.11-4
(トーク中の場面。アルトサクソフォンに持ち替えています)
進正裕さんのトークで、ヒンデミットは近現代の人で世界大戦の時に作品が弾圧を受けていたと言っていました。
そしてヴィオラソナタが広まったのを機に、ヒンデミットの曲は意外と良いじゃないかと世の中に受け入れられるようになったとのことです。
勝山由唯さんはヒンデミットの曲について、難しいイメージがあったが意外と分かりやすいと言っていました。
一楽章
三楽章までありますが途中で間を置かずに最後まで演奏して行きました。
ゆったりとして伸びの良い、安らぐ音色で始まりました。
サクソフォンの演奏がやや力強くなった時、ピアノの寄り添いの音がきらめいていました。
ゆったりとした演奏が続いて一楽章は終わります。
二楽章
ややミステリアスでゆったりとした雰囲気で始まりました。
ピアノが目立つ場面があり、音がキラキラときらめいてまるで宝石のようでした
音色がゆったり、ミステリアス、力強さ、リズミカルさ、スピーディと、次々変わって行って面白い曲調だと思いました。
三楽章
ピアノがゆったりと、甘くドラマチックに演奏しているところにサクソフォンも入って行きます。
ドラマチックさとともに気高さも感じる音色でした。
ヒンデミットはロマン派音楽(シューマン、ブラームス、ショパンなどが活躍していた時代の音楽)からの脱却を目指していたとのことで、この曲はそれを強く感じ、ロマン派的な「型」を感じない曲調でした。
進正裕さんがトークで言っていたとおり、「一本の映画でも観ているような曲」だと思いました。
終盤は物凄い力強さの演奏の後、突然リズミカルになったと思ったら、また力強くなって音の迫力の凄さに圧倒されました
アンコール
W.A.モーツァルト/トルコ行進曲(ジャズバージョン)
進正裕さんが「カーテンコールありがとうございます」と言った時に、息が上がっていたのが印象的でした。
演奏が大変そうな曲が揃っていたので体力的にもきつかったと思います。
勝山由唯さんは「夜遅い時間に、このような重々のプログラムで、演奏するほうも聴くほうも大変」と言っていました。
私も5曲目を聴いていた時に疲れを感じましたが、素晴らしい音色を聴いてのものなので満足感がありました
また新型コロナウィルスについて、進正裕さんは「この2年近く、コロナ禍での演奏活動は苦労している」と言っていました。
勝山由唯さんは「本当に開催出来るのか不安もあった」とも言っていました。
状況によっては開催出来るとは限らず演奏者にとって死活問題だと思うので、1日も早く安心して開催出来る日が来てほしいです。
演奏はとてつもない速さで始まりました。
今までに聴いたことがないくらい速い演奏で、その速さがずっと続き、風が颯爽と吹き抜けていくかのようでした。
初めて聴いた進正裕さんと勝山由唯さんによるデュオリサイタル、素晴らしかったです
2人とも抜群に上手く、さらに息もピタリと合っているので流れて来る音色に強烈に引き込まれました。
それぞれがそれぞれと呼応するような演奏はコンビネーションで生まれる音色の良さを感じさせ、音楽の新たな魅力を知りました。
またぜひこの2人のデュオを聴いてみたいです
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演奏者プロフィール
進正裕
島根県浜田市出身。
エリザベト音楽大学演奏学科管弦打楽器サクソフォン専攻を卒業。
昭和音楽大学大学院修士課程音楽芸術表現専攻サクソフォンを修了。
第21回大阪国際音楽コンクール木管楽器Age-U部門において第1位を受賞。
第30回日本クラシック音楽コンクールサクソフォーン部門大学の部において第2位(最高位)を受賞。
第1回東京国際管楽器コンクール木管ソロ部門において第3位を受賞。
その他、多数受賞。
2020新進演奏家育成プロジェクトオーケストラ・シリーズ第60回にて、広島交響楽団とH.トマジ作曲/サクソフォン協奏曲を共演。
第16回サクソフォーン新人演奏会、第35回ヤマハ管楽器新人演奏会に出演。
オーティス・マーフィー、ジェローム・ララン、ニキータ・ズィミンのマスタークラスを受講。
サクソフォンを有村純親、大森義基、正田桂悟の各氏に、室内楽を赤坂達三、小山弦太郎、宗貞啓二の各氏に、即興演奏を平野公崇氏に師事。
勝山由唯
広島県広島市出身。
東京学芸大学教育学部中等教育教員養成課程音楽専攻を卒業。
昭和音楽大学大学院修士課程音楽芸術表現専攻ピアノを修了。
第11回フレッシュ横浜音楽コンクール第1位及び審査員特別賞を受賞。
第12回ベーテン音楽コンクールバロック部門第3位を受賞。
ヨーゼフ・ディヒラーコンクール(オーストリア)第2位を受賞。
その他、多数受賞。
大学在学中、東京学芸大学学長より学長賞を2度授与される。
また大学院修了時には、日本学生支援機構より「特に優れた業績による奨学金返還免除生」に認定される。
ウィーン国立音楽大学夏期セミナーにて学費免除の助成を受け、Alexander Rossler氏のレッスンを受講、ディプロマ取得。
第40回広島市新人演奏会出演。
被爆ピアノ演奏会「これからも記憶を継ぐ」出演、被爆慰霊碑前にて演奏。
これまでにピアノを大下祐子、川島浩一、三上恭子、米田栄子、椎野伸一、三井美奈子の各氏に師事。
室内楽を渡辺麻里氏に師事。
伴奏法を高島理佐、平島誠也の各氏に師事。
進正裕×勝山由唯 デュオ
共に昭和音楽大学大学院にて学び、室内楽でアンサンブルを結成。
ザルツブルグ=モーツァルト国際室内楽コンクールin Tokyo 2021特別賞、昭和音楽大学アンサンブルコンクール特別賞受賞。
2022年2月にYAMAHA銀座サロンホールにてリサイタルの開催が決定。
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進正裕さん出演のコンサート、演奏会
エリザベト音楽大学 Autumn Concert
エリザベト音楽大学 「Trio Riviere ~トリオ リヴィエール~」コンサート
エリザベト音楽大学 サクソフォンラージアンサンブル 第22回定期演奏会
エリザベト音楽大学 2018年度卒業演奏会
新進演奏家育成プロジェクト オーケストラ・シリーズ 第60回広島
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