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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

乱 [私的オールタイムベスト(邦画)第6位]

2005-04-01 02:08:43 | 過去に観た映画
黒澤明。
日本の映画監督の代名詞的な存在だ。
ほめる人もけなす人も自然とヴォルテージが上がる。

けなす人たちは言う
「黒澤映画の侍って、何かみんなうす汚いかっこしててさぁ、俺はもっと美しくてかっこいい武士が見たいよ」
「黒澤映画の台詞まわしってわざとらしくない?」
「音質が悪くてさあ、三船敏郎なんて何喋ってんだか、聞き取れないよ」
「勧善懲悪で予定調和で」
もっとコムズカしい批判を読みたければ「映画芸術」のバックナンバーでも読むといい。

「七人の侍」も「用心棒」も本当に心の底から面白いと思うのだが、現代のブラッカイマー製作のハリウッド映画に慣れた人々には古くさいとうつるかもしれない。

さらに、なかなか始末に悪いのは、カラー作品を手掛けてからの黒澤映画だ。良さを人に語るのが難しい作品が多い。
俺は「まあだだよ」は最高の映画だと思ってるが、正直あれを見て素直に面白いという人は少ない気がする。
「夢」はエピソードが進むほど説教くさくなってくし
「影武者」は絵が綺麗なだけ、音楽はミスマッチ
「どですかでん」はなんか意図が不明
「デルス・ウザーラ」を退屈と思う人は多いだろう

けれど、俺はやっぱ黒澤が好きだ。黒澤映画は何回観ても飽きない。台詞がわざとらしい?たしかにわざとらしいけど、かっこいいからいいじゃん

「何びくついてんだよ。一人殺そうが百人殺そうが、縛り首になるのは一回だけだよ」
『用心棒』より

「行きましょう。今、見張りはあいつ一人です」
「バカヤロ。お前、盲か?さっきは三匹だが猫だ。今は一匹だが虎だぜ」

『椿三十郎』より

「昔から言うだろう。悪い医者にかかると命が危ないと。わしは命までは取らんが、腕や足の二・三本へし折りかねんぞ」
『赤ひげ』より

カラー時代の黒澤映画だって、ただ美しさに酔うだけの見方でも、そんじょそこらの映画より遥かに深い感動があるし、何より懸命に生きる人たちの姿に元気を分けてもらえる。

「乱」で黒澤はアメリカのアカデミー賞監督賞候補になった(日本人でアカデミー監督賞になったのは黒澤と、「砂の女」の勅使河原宏だけだ)。
だからって訳ではないが、生涯ベスト10本の中に黒澤映画を一本だけ入れるとすれば僕の場合「乱」だ。(ほんとは「天国と地獄」も「野良犬」も「用心棒」も「八月の狂詩曲」も入れたいのだが)
クローズアップなどほとんど使わず、ほとんどがロングショット。表情どころか顔もよくわからん登場人物が出てくる始末(それでも強烈に個性を発揮する井川比佐志や原田美枝子はさすがに役者だ)。でもこの演出「人間たちの愚かさに憐れみの涙を流す神」の視線で人間模様を描くため。
クライマックスの合戦シーンに迫力不足を感じるが、中盤の城攻めのシーンは「この世の地獄」さながらで数ある黒澤映画の中でも白眉のシーンだ。音にこだわる黒澤がSEを全部カットして武満徹の音楽だけを流す。そして一発の銃声がなり、寄せ手の総大将が倒れると同時に音楽がピタッと止まる。
「音と映像の掛け算」と黒澤映画を評するのをよく聞くが、本当にサウンドの効果を十分に計算して作っているのがわかる。
他に例えば、百姓たちが米をわけてくれないと聞き、怒りくるって殺せと命じるご隠居。ところが百姓たちには、ご隠居の子供たちが決して米を与えてはならぬと命じていたことを告げられ愕然とするところで、それまで小さく鳴っていた虫の音が大きく響きご隠居の顔がややアップで写される。黒澤得意の演出だ。
そういった培ってきた技術をフル動員しつつ、人間たちを見つめる憐憫ともとれる視線と美しい映像。巨匠の到達した境地という気がする。
エネルギッシュだった白黒時代劇の問答無用な面白さも捨てがたいが、客に媚びない晩年の作品も捨てがたい。

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2 コメント

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こんにちは (ahaha)
2005-04-03 20:15:57
この間は、TBだけさせていただいてすみませんでした。

「椿三十郎」と「赤ひげ」の引用のセリフを拝読したとき、ぱぁっとその画面が蘇りました。

「用心棒」のセリフはどの場面だったかが思い出せなくて、他の2作より、この映画に対する自分のイレコミ方が違ったんだなと思ったりしました。
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用心棒の台詞 (しん)
2005-04-05 01:19:38
「用心棒」の台詞は、山田五十鈴が息子に出入りの後、三十郎を殺せと迫るシーンからの引用です。



用心棒シリーズは名台詞の宝庫ですね

「名前・・・そうだなあ・・・桑畑(または椿)・・・三十郎」



「俺は悪いことでやってねえことは一つもねえんだ!!」

「じゃあ、斬られても文句はねえな!」



「桶屋!!棺桶二つ・・・いや、三つだな」



話はそれますが、「用心棒」をウォルター・ヒルがリメイクした「ラストマン・スタンディング」でブルース・ウィリスが悪者に名前を聞かれた時のやりとり



「スミスだ」

「ファースト・ネームは?」

「ジョン・スミス」



・・・このシーン、ブルースが窓の外のサボテンでも見て「サボテン・スミス」と言って欲しかった!!
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