サウスバウンド [監督:森田芳光]

佳作と愚作の振幅が激しい気がする森田芳光だが、勇気を出して言えば、私はけっこう好きなのである。「HAL」とか「39」って並の人には絶対撮れない。あのしょうもなさげな「失楽園」ですら、主に前半部分のカッティングとかにちょっとゾクゾクした自分。
そして本作。
子役たちの棒読み演技は、まあ子役だし我慢するか・・・と思い、トヨエツと天海祐希の軽い演技に最初は抵抗も感じ、日本映画っぽいどっかその辺で撮りました的面白くも珍しくもない映像
ナンセンスを口癖に、目的や理想のため国家に楯突くのではなく、楯突くことが目的と化した親父（しかも国家の相当末端の役人相手に）
こんな人物に感情移入できねえよ・・・とちょっと引き気味の前半ながらも、次第に物語の魔力の虜になっていった。
「こんな人物に感情移入できねえよ」というのはまさにこの映画の狙いであり、主人公は父親に違いないが、視点はそんな父を冷めた目で見る子供達である。
子供の立場も考えず意気揚々と役所や地域社会や学校にイチャモンをつけ問題を起こす。
はずかしい、みっともない、やめてくれ、という子供。
そんな父親にベタぼれの母親も含め両親は何を言い出すかわからない爆弾キャラであり、子供達とともに父母の動きにびくびくしながら物語を追うことになる。

そして両親の唐突な決断（決定、命令）。沖縄への引越し。
完全に両親にふりまわされる子供達。
明らかに法的に正しくないことをしながら、役所や業者の正論に頑として耳を貸さない両親。
60年代の運動家の生き残りのような両親を通し、時代の変化を描き、60年代の精神を批評するところは面白いではないか。

まともに見れば育児放棄・身勝手な脱走（国外逃亡？）という最悪な結末に突き進む両親だが、子供たちの安心感とともに羨望の眼差しともとれるスッキリ感がなんともいえない。
日本も世界も敵に回しても信じあい愛しあう２人。子供たちはしっかりしてるし親がいなくても立派に生きて行けるだろう。むしろ将来、めちゃくちゃ両親話で飲み会ネタに困らず、人気者になれるかもしれない。
そして両親は、自分たちが異端でもなんでもなく、むしろ普通だったあの60年代へと帰って行ったのかも知れない。

恐らく、批評家受けもその辺の映画ファンのウケもあまりよろしくないない映画だろうが、私にはなぜか、下手っぽい演技も含めて、デキの悪い構成の脚本も含めて、何か愛しさを感じるのだった。
無邪気なんだな。森田芳光。
だから織田裕二で椿三十郎とか撮っちゃうんだな。
才能はともかく、きっといい人なんだろうな・・・となんとなくさんな気がする。

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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房　スタジオゆんふぁのHP