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映像作品とクラシック音楽 第31回『スター・ウォーズ』(上)

2021-08-26 23:39:35 | 映像作品とクラシック音楽
クラシック音楽が印象的な映像作品についてグダグタ語り倒すシリーズの第30回はついに1977年作品『スターウォーズ』です…ってそれ全然クラシックじゃないやーーんって思われるかもしれません
しかしですねスターウォーズは、サイモン・ラトルがベルリンフィルで演奏したり、クラシックのコンサートでもよく演奏されますし、いいじゃないですか。クラシック扱いで。
以前に、『ジョーズ』や『未知との遭遇』も書きましたが、あれらと同様にウィリアムズの映画音楽を記憶を頼りに語っていくシリーズとしても第4回となりますが、ついに『スター・ウォーズ』を迎えてしまいました。
これは気合いが入ります。
深呼吸してから書き始めます

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【『スターウォーズ/エピソード4・新たなる希望』における音楽の使い方1 --メインタイトル--】
まず20世紀FOX社のロゴがアレックス・ニューマン作曲のファンファーレにのって映され(スターウォーズ始まる前の20世紀FOXファンファーレ超重要。ディズニー製作の新三部作では聞けないのが残念です)

「昔々、遥か彼方の銀河系で…」
このキャプションが消えて、1秒か2秒くらい真っ暗で無音の間があります。この間がすごく好きです。

そして映画音楽史に轟くあのファンファーレがいきなり鳴り響き「STAR WARS」の文字がデカデカと画面に現れます。ノーモーションでいきなり大砲をぶち込まれるような衝撃。
そしてトランペットが主旋律を奏でるフルオーケストラであのテーマ。なんかすげーの始まったって誰もが思うオープニング。
宇宙の果てに消えて行った「STAR WARS」の文字に続き、画面手前下方からせり出してきて、画面奥にスクロールしていく三次元感覚を意識したタイトルとプロローグ。
監督名もキャスト名も無しでいきなり始まるスペースオペラ。この豪快さがスター・ウォーズですね。

ところで超有名なスター・ウォーズのテーマですがこの映画版第一作…というと色々ややこしいので最近の慣習にならってエピソード4と呼ぶことにしますが、ただしもし文中で特に断りなく「スター・ウォーズ」と記した場合は「エピソード4」のことと考えてください…
話がそれましたがスターウォーズのテーマですが、エピソード4のサントラ(昔買ったLP盤)の解説によると、ジョン・ウィリアムズはあのテーマを「ルークのテーマ」と位置付けています。
たしかに冒険にあこがれ純真で理想に燃える青年ルーク・スカイウォーカー君のテーマとして劇中で色々とアレンジを変えて彼の心情を表現しています。
だからこそ90年代末から始まった新3部作の制作が伝えられたとき、もしやオープニングは新テーマになるのではと映画音楽ファンは少しざわつきました。だってあれはルークのテーマだもん。ルークの生まれる前の話なら別テーマになるのでは…しかしながら、やっぱりあれ以上のテーマはジョン・ウィリアムズをもってしても考え付かなかったのか、エピソード1のオープニングでやっぱり「ルークのテーマ」がかかった時の残念感と安堵感の混じった気持ちを抱いた人は立派なジョン・ウィリアムズファンです。

さて例のテーマは、前奏部、主旋律Aメロ(トランペット)、主旋律Bメロ(ストリングス)、主旋律Aメロ(ホルン)と続いて、ここまでがオープニング部分、そのまま本編劇伴部に続きますが、オープニング部と劇伴部の接続部のストリングスが好きです。この接続部はエピソード4版だけやたらドラマチックです。ほかのシリーズ(帝国、ジェダイ、ファントム、クローン、シス、フォース、最後のJ、スカイウォーカー)はメインテーマと劇伴の接続部がとても静かで穏やかです。
さてエピソード4のメインテーマはドラマチックな接続部に続けて、グラスチャイムかなんかのキラキラした音にピッコロかなんかの音が小さく重なって映像は星がきらめく宇宙空間です。するとストリングスが不穏なうねりをはじめ打楽器が激しく叩かれ、そしてブラスが反乱軍のテーマを高らかに奏でてレイア姫の乗る宇宙船が画面手前右上から左奥に向かって、後方にビーム砲を撃ちまくりながら飛んでいきます。そうするとそれを追うように帝国軍の巡洋艦スターデストロイヤーがやはり画面手前右上から現れるのですが、でかいことでかいこと、スクリーンの大半を覆い尽くしてしまうようにカメラの少し上を進んでいきます。
この時音楽は強くて悪いやつが弱くて良い奴をやっつける時にぴったりの、ボリュームの大きいブラスと打楽器主体の激しい曲です。
ちなみにルーカスはウィリアムズに、この場面のイメージ曲としてホルストの「火星」を提示したそうです。そう言われてみると「火星」っぽい曲ですね。
そんでティンパニが激しくリズムを刻む中、反乱軍のテーマが鳴りレイアの宇宙船が火の手をあげるところで終わります。ここまでがM1です。

90年代に再販されたエピソード4のサントラは劇中使用曲をすべて収録した愛蔵版アルバムですが、Disc1のボーナストラックのしかも「ふたつの太陽」の別バージョンが終わってから2分40秒ほどの無音のあとに、オープニング曲のボツテイク、しかも5テイクも収録されています(演奏の前にジョン・ウィリアムズの声と思しき「シックスティーン」とか「テイク・セブンティーン」とか言ってるのが聞こえるので、実際には20テイクくらいは録音していたものと思われます)。どれもアレンジが少しずつ違っていてとても面白いです。「王座の間とエンドタイトル」のイントロのところっぽく始まるバージョンがあったり、木管がやたら目立つバージョンがあったり。
あの名曲を生み出すためにウィリアムズとロンドン交響楽団が悩みに悩んだ軌跡です。


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【ロンドン交響楽団について】
さて、スター・ウォーズの音楽において作曲家のことと同じくらい重要なのが、演奏したオーケストラのことです。
スター・ウォーズの音楽はクラシック界の名門オーケストラであるロンドン交響楽団(LSO)が演奏しました。
ジョン・ウィリアムズにとって初めての名門オケとのコラボとなり、彼は今までのスタジオオーケストラとの仕事よりも大きな手ごたえを感じたに違いありません。この「エピソード4」以降もジョン・ウィリアムズはLSOをこよなく愛し、「スター・ウォーズ」シリーズ全部と、「インディ・ジョーンズ」シリーズの初期2作品や「スーパーマン」などをLSOで演奏しています。
またロンドン交響楽団も映画音楽の面白さに目覚めたのか、単にいい商売だったのか、ウィリアムズ以外の映画音楽作曲家とのコラボも増えていきます。ヘンリー・マンシーニの『スペース・バンパイア』、ジェームズ・ホーナーの『エイリアン2』『ウィロー』『ブレイブハート』などです。
80年代のサントラファンはLPのジャケットに"Performed by LONDON SYMPHONY ORCHESTRA"と記されていれば、何か安心のブランドとして買うようになりました。
余談ですが黒澤明も『乱』の音楽の演奏にLSOを使おうとしたそうです。ルーカスの入れ知恵でもあったのでしょうか。しかし作曲の武満徹がLSOは映画音楽をやり過ぎて音が荒れてる、とか言って札幌交響楽団で演奏したのだそうです。『乱』は1985年作品。スターウォーズ三部作とインディジョーンズ2作が終わったころだったのでLSOの映画音楽演奏全盛のころでした。

それはさておき『スターウォーズ』という映画はジョン・ウィリアムズとジョージ・ルーカスの出会いの場を与えたことと同じくらい、ジョン・ウィリアムズとロンドン交響楽団を、さらに言えば映画音楽とロンドン交響楽団を引き合わせたことで映画史に貢献していると思います。

それにしてもなぜ『スター・ウォーズ』の演奏がLSOだったのでしょうか
一つは『スター・ウォーズ』のスタジオ撮影がロンドンのパインウッドスタジオで行われていたため、録音も近いところで行う方が都合が良かったから…というのがあるでしょう。
でもロンドンには他にも良いオーケストラはたくさんあります。
ここからは想像ですが…

「エピソード4」は1977年全米公開です。その頃のLSOの首席指揮者はアンドレ・プレヴィンでした。
プレヴィンもキャリア初期はハリウッドで映画音楽を手掛けており、ウィリアムズと同時期に同じ師匠(カステル・ヌオーヴォ=テデスコ)についていたので、二人には交友がありました。
プレヴィンのコネでLSOを使うことになったのかもしれません。
ちなみに最近(2019年)、ウィリアムズがアンネ=ゾフィー・ムターとコラボしたアルバムを発表しましたが、あれはウィリアムズのファンだったムターが、元夫のプレヴィンに頼んで口利きしてもらって実現したらしいです。

もう一つスター・ウォーズ×LSOに間接的に影響してそうなことがあります。
ウィリアムズにはもう一人師匠と言える人がおり、それはかの有名なティファニーで朝ごはん食べながら聴きたくなる作曲家のヘンリー・マンシーニであります。若きウィリアムズはマンシーニ指揮のオケでピアノを弾いていました。ウィリアムズの初期作品でオードリー・ヘップバーン主演の『おしゃれ泥棒』では、「ジョニー・ウィリアムズ」名義でマンシーニクリソツな音楽を披露しています。
そんなマンシーニが『スター・ウォーズ』の前年の1976年に、LSOを指揮して映画音楽コンサートをやっており、その中でマンシーニ編曲による『ジョーズ』などウィリアムズ音楽を演奏しています。
これもウィリアムズがLSOで『スター・ウォーズ』を演奏する背景になっているのかもしれない、などと思うわけです。

プレヴィンとマンシーニという二人の巨匠が繋いで映画音楽史に残る名演が生まれた…という私の想像です。ぶっちゃけ全然関係ないかもしれませんが、そう考える方がなんかロマンがあっていいじゃないですか。


ジョン・ウィリアムズは80年代後半になると、ぱったりと映画音楽の録音においてLSOとのコラボがなくなってしまいます。武満の言うように音が荒れてたからってわけではないでしょう。ボストンポップスの指揮者になったり映画の仕事も増えたりで、ロンドンに行くのも大変だったのでしょう。
90年代のウィリアムズはハリウッドのスタジオオーケストラを使ったり、たまに名門オケを使っても『シンドラーのリスト』でボストン響を使うくらいでした。ところが90年代末の『スター・ウォーズ/エピソード1・ファントム・メナス』の時に、「スター・ウォーズだけはLSOじゃなきゃダメなんだ」と言って、エピソード1はロンドンで撮影してるわけでもないのに、わざわざロンドンまで行って指揮・録音しています。エピソード2、3もLSOでした。(7〜9は残念ながらLSOではありません)
エピソード1のサントラに付いているジョン・ウィリアムズのノートには、エピソード4録音時のメンバーが10人以上も残っていて嬉しい…とか、若手メンバーが子供の頃「スターウォーズ」を聞いてLSOに入団すると誓ったという話とか、感動的なことが書いてありました。


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【『スターウォーズ』における音楽の使い方2 --M2 冒頭の帝国対反乱軍シーン--】
M1が終わったと見せかけ音楽は切れ目なくM2に移行しますから映画で聞いていると1曲のように感じます。
場面は反乱軍の宇宙船の内部に。警報が鳴り響き、兵士たちがあわただしく走っています。音楽は弦楽器とティンパニが不安げなリズムを刻む中ホルンとバイオリンが反乱軍のテーマを奏でています。
C3POとR2D2もひょこひょこ歩いています。カットがかわって宇宙船の全体を見せる特撮カットの時だけブラスを高らかに鳴らして、また船内のカットに戻ると弦楽とティンパニになります。こういう画面の変化とシンクロした音楽こそウィリアムズの真骨頂です。
兵士たちが搭乗デッキと思しき場所に集結し、冷や汗を垂らしながらドアに銃を向けています。そうすると音楽がふと途切れて、宇宙船の外からガコンガコンガシャーンと機械的な音が響いてきます(たぶんスターデストロイヤーの宇宙船捕獲装置的なやつに捕まった音でしょう)。するとドアがバシバシと火花を散らし始め、あわせて音楽も再開し、ストリングスがドアから吹き出る火花のように激しく不安定に、そしてついにドアが破られて帝国の真っ白い鎧の突撃兵が突入してくると、マリンバやらブラスやらが戦闘の激しさを表現します。多勢に無勢で撤退する反乱軍兵たちの姿には反乱軍のテーマを重ねます。

そして死体のほかは誰もいなくなった搭乗デッキに黒ずくめの人物がゆっくりと入ってきます。そう、ダースベイダー卿であります。
当然このカットでは例の有名な、「帝国のマーチ別名ダースベイダーのテーマ」がかか…らないんですね、これが。
なぜならば有名な帝国のマーチは、この映画の続編「帝国の逆襲」で初めて作曲されます。
だから、スター・ウォーズをエピソード1から順に観てやろうとした人たちは、中間のエピソード4での帝国マーチの不在に一抹の寂しさを感じるのです。
90年代に特撮シーンをCGに差し替えたスター・ウォーズ特別版が制作された時、77年当時はオミットされたシーンがいくつか復活し、それらのシーンのためにジョン・ウィリアムズが追加作曲をするという情報が入り、するってえとエピソード4の楽曲を帝国マーチ付きの楽曲に差し替えるんじゃねえんですかい?!とスター・ウォーズサントラファンはざわついたのですが、流石にそこまでの差し替えはされませんでした。
個人的には一度公開したものをいじるのはあまり好きではないので良かったです。


ちなみに、『ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は、「エピソード4版帝国テーマ」と、有名な「帝国マーチ」の両方が聞ける音楽的にもシリーズの橋渡しとなるものでした。『ローグワン』でのエピソード4版帝国テーマはダースベーダーがマスクを装着する場面にかかっていたと思います。『ローグワン』の音楽はマイケル・ジアッチーノで、かなりのスターウォーズフリークでもあるのでしょう。JWの代わりいつでもできまっせ!アピールだったのかもしれません。


【『スターウォーズ』における音楽の使い方3 --砂の惑星タトゥイーンにて--】
さて話が長くなったので一挙に端折って惑星タトゥイーン(タトゥイーンなのかタトゥーインなのか未だによく分かってないんですが)でC3POとR2D2がケンカ別れした後のシーンに飛びます。
最初にメインタイトルテーマが始まる前の1~2秒の間がいい、と書きましたが、スター・ウォーズには私の好きな1~2秒の「間」が他にもいくつかあります。
砂漠の惑星の谷間を進むR2は突如目の前に現れたジャワ族(ロボット狩りで生計を立てているらしい)にショックガンみたいの撃ち込まれて、バシバシ電流が流れてからバターンと倒れます。
この倒れた後の1~2秒の無音の「間」が好きです。
そして、その「間」に続けてジャワ族のテーマが流れてきます。ジャワ族の声と後のエピソード6で登場するイウォーク族の声が同じに聞こえるのは効果音技師のベン・バートさんの手抜きかもしれませんが聞き流してあげてください。
ジャワ族のテーマはどこかほっこりしつつも、イウォーク族のテーマのように媚びを売ってる感がなくて好きです。

そしてジャワ族のトレーラーが人間にロボットを売りつけようととある農園にやってきますと、そこでやっと我らが主人公ルーク・スカイウォーカーの登場です。
ウィリアムズはルークのテーマを弦楽とホルンと木管でシンプルに牧歌的にアレンジした曲でみんなの主人公ルークを出迎えます。

…と、まだ映画が始まって20分くらい、ハンソロもオビワンもまだ出てきていないのに、さすがに長くなりすぎたので、続きは次回に…今後もがんばってデススターが吹っ飛んでルークたちが勲章もらうところまで進めたいと思います!!

それではまた、素晴らしい映画と音楽でお会いしましょう!!

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