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映像作品とクラシック音楽 第32回『スター・ウォーズ』(中)

2021-09-03 08:16:10 | 映像作品とクラシック音楽
クラシック音楽が印象的な映像作品について語るシリーズ第32回…と言いながら、スター・ウォーズの音楽について無駄に熱く語るシリーズの第二回です。
前回はオープニングテーマのこととロンドン交響楽団のこと語っていたら、やっとルークが出てきたくらいのところまで語って終わりにしてしまいました。
今回はルークの旅立ちからデススター脱出までのドタバタ場面におけねジョン・ウィリアムズの音楽について書いてみます。


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【『スターウォーズ』における音楽の使い方4 --二つの太陽のシーン--】

ルークが惑星タトゥイーン名物の二つの太陽の夕日を見る時にかかるオビワンのテーマがとても物悲しくて好きなのですが、このシーンに関しては前編の記事にコメントをくれた、スター・ウォーズ超好きな私の友人にして映画監督トモダチでもある「丈治」さんが素晴らしい解説を寄せたので、それを引用いたします。

---「丈治」さんのふたつの太陽シーンの解説・引用---

そしてベルーおばさんの「ルーク!」の声で振り向いて、真っ青な青空の下、白い砂の中にぽっかり空いた蟻の穴倉のような住居に駆け寄るのが本作のヒーロー。チェニジアロケで実際の観光名所を使ったとライナーノートに記述されていました。
そのときにルークのテーマがソロのように牧歌的にゆったりとかかるのが素敵です。

そして、すったもんだの挙句、お目当ての機能を持ったロボット2台を手に入れたオーエンおじさん宅ですけど、ルークは「都市ステーション(わはは)」に行く予定だったのを、ロボット整備に回され、ちょっとむくれ気味。
さらに夕食の席では、今年こそアカデミーへ行く予定だったのに、来年も農場(水分凝結?)にいてくれとおじさんに強制的に引き止められます。
怒りとやるせなさの収まらないルークは住居の外へ飛び出し、砂を蹴りながら夕日のさす地平線を見つめ、冒険心を募らせるのです。

この夕日が実は2重太陽で、ルークの生活が縛られている辺境の惑星タトゥーウィーンの砂漠地帯は、このような大きな太陽二つによって形成されているのだと、一瞬で理解させてしまうほどのセンスオブワンダーだったのです。
巨大な太陽が地平線に沈んでいく圧倒的な構図。
この衝撃は忘れられません。
そこへ徐々にクレッセンドで盛り上がる「正義の軍隊」(当時のLPレコードでの原題)のテーマ曲。壮大なオーケストラによって、セリフのない本場面でもルークの葛藤する心情を高らかに謳いあげていくのです。
この曲こそフォースを象徴する、スターウォーズのもう一つのテーマとして今後時あるごとに盛り込まれ、活用されていくのでした。

---引用終わり---

ちなみにウィリアムズはこのシーンでルークのテーマを奏でたかったのですがルーカスがオビワンのテーマ(正義の軍隊のテーマ)をと強く望んだらしいです(LPレコードのサントラの曲目解説による)。
なお、現在では「フォース」という呼び方が定着していますが、LPレコードでは「正義の軍隊」、映画の字幕では「理力」などと訳されておりました

ところでこの映画のテーマにウィリアムズが用意したテーマはざっと以下の通り

ルークのテーマ
 ⇒メインタイトルテーマでもある
オビワンのテーマ(もしくはフォースのテーマ)
 ⇒全シリーズを通じて使われる悲しげなテーマで、むしろ滅亡したジェダイ騎士団を偲ぶテーマという感じで使われる
レイアのテーマ
 ⇒レイアの登場シーンで主に使われるテーマ。なぜかエピソード5、6ではあまり使われない
帝国軍のテーマ
 ⇒有名な帝国のマーチとは別のもっと陰湿な印象のテーマ。
デススターのテーマ
 ⇒そのころ帝国軍は…的な感じの場面転換時に使われるブリッジ曲
反乱軍のテーマ
 ⇒主に反乱軍やルークたちが活躍する戦闘シーンにかかる曲。エンドタイトルの最初と最後にファンファーレ的にも使われる
ジャワ族のテーマ
 ⇒ジャワ族のためのテーマ

何を言いたいかと言えば1作品のためにこんなに沢山のテーマを書いたのはジョン・ウィリアムズといえども珍しいということです。
細かいこと言えばサンドピープルのテーマ、プレス機のテーマ、さらに「酒場のバンド」なんかも入れていいかもしれません
それくらいこの作品の時は作曲家としてノリにノッていたことがうかがえます。


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【『スターウォーズ』における音楽の使い方5 --酒場のバンド--】
さてまた話は端折ってモスアイズレー宇宙港にて、オビワンとルークが惑星アルデラーン(これもアルデラーンなのかオルデラーンなのか記憶が微妙です)にR2D2を運ぶための船を探すため、宇宙のならず者が集まる酒場に入るところです。
ここで私の大好きな曲がかかります。酒場で宇宙人のバンドマンたちが演奏している陽気なジャズナンバー、曲名は「酒場のバンド」です。これもジョン・ウィリアムズが作曲しています。ソプラノサックスにスチールドラムに電子加工されたベースと、ウィリアムズらしくない響きですが、めちゃくちゃ楽しそうに録音しているのが目に浮かぶ名曲です。
この場面でも私の好きな「間」があります。
ルークがガラのわるい宇宙人にからまれてオビワンがライトセーバーでそいつの片腕をぶった斬ります。悲鳴をあげる宇宙チンピラ。バンドマン(の異星人)たちは演奏を止めてそちらをチラと見て、そして何事もなかったように演奏を再開します。このバンドの途切れる「間」がなんともいえず好きです。
余談ですが、グレッグ・モットーラ監督の2011年作品『宇宙人ポール』という映画がありまして、様々なSF映画へのオマージュにあふれた傑作コメディなんですが、その中で主人公たちが旅の途中で立ち寄るバーの中で、このスター・ウォーズの「酒場のバンド」がかかっていて、そういう小ネタも楽しい映画でした。


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【『スターウォーズ』における音楽の使い方6 --すったもんだのファルコン号発進--】
話は戻ってオビワンとルークはハン・ソロというハンサムな宇宙海賊を雇います。
ジェダイマスターのオビワンでさえこの男が後に鞭を片手に巨大な岩につぶされそうになりながらナチスと戦うことになる運命までは感じ取ることができませんでした。
そして心躍る大冒険にいよいよ出発というミレニアムファルコン号発進シーンですが、そんなワクワク感とは程遠いハラハラする出航となり音楽がまた盛り上げます。
発進準備をしているミレニアムファルコン。ぼろ船だとルークに言われますが、インディじゃなくてハン・ソロは「光速の1.5倍出るんだぜ」といきなり相対性理論を無視した自慢をします。
そうするとオビワンたちを見つけた帝国の突撃兵がドックになだれ込んできて、修羅場を何度もくぐってきたであろうハン・ソロは帝国兵たちに一言も発せずにまず自分の銃を出して発砲します。(ハン・ソロは撃たれる前に撃つ男じゃなきゃダメなんです!!ハン・ソロが酒場で賞金稼ぎを撃つシーンが後にCGで加工されて撃たれてから撃つように修正されたのは、私をはじめ多くのハン・ソロ・ファンが怒りに震えました)
音楽は奇襲であることを表現してストリングスが不意に激しく、そこになぜかオビワンのテーマを重ねてきます。ダダダっと船内に駆け込み緊急発進するファルコン号。ブラスが激しく鳴って帝国兵の見上げる中を宇宙に向けて飛び立ちます。
しかし音楽はまだ鳴りやまずティンパニとストリングスが不安感をあおる中、衛星軌道上で待ち構えていたスターデストロイヤーの攻撃にさらされるファルコン号。オビワンのテーマが鳴る中でハイパースペース航行の計算をコンピューターにさせるハン・ソロ。計算なんかいいから早くとせかすルークに、ハン・ソロは計算なしでハイパースペースに入ったら星にぶつかるかブラックホールに吸い込まれるぜとバカな若造に教えてあげています。
カットがスターデストロイヤーを映す特撮ショットになるとブラスが高鳴り、ファルコン号の船内になると不安げにアレンジされたオビワンのテーマに切り替わる映像とのシンクロもお見事な中、やっと計算完了。ハイパースペースに突入するファルコン号を描く音楽は華やかなファンファーレではなく、前途多難な冒険を暗示するかのように不安げに盛り上げて、そのままデススターのテーマに引き継いで、モフターキン総督(ピーター・カッシング!!)がレイア姫の見てる前で惑星アルデラーン大爆破ショーを始める場面に続きます。


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【『スターウォーズ』における音楽の使い方7 --レイア救出--】
そしてまた話は端折ってレイア救出のくだりの音楽も好きです。
牢獄の管理ルームに帝国兵に偽装して入るルークとハンが、管理室の兵士を皆殺しにする場面ではやってることの残虐さなど微塵も感じさせない華やかなファンファーレが鳴り響きます。景気よく鳴るブラス、ルークのテーマも盛り込んでヒーローたちの活躍を描きます。
戦い終わってルークがもたもたとレイアの独房を探している間にハンが指令室の通信に答えて「あー、来ないでください、放射能漏れがあって危険です」とかなんとか言ってる時は音楽は低音のストリングスが静かに危機感をあおり、嘘をつくのがめんどくさくなったハンが通信機にビーム一発くらわせて「うるせえ」と吐き捨て、「ルーク!敵さんやってくるぞ!」と叫ぶと、独房を探すルークの後ろ姿に重ねて反乱軍のテーマが鳴り響きます。
カットかわってレイアの独房内になるとレイアのテーマが奏でられます。間にオビワンのシーンを挟んでから、独房の外での帝国兵との銃撃戦。激しい戦闘曲の合間にレイアとハンの「出会いの印象はサイアク!!」的恋愛映画をほうふつとさせる会話になると音楽はテンションを下げて木管でコミカルに反乱軍のテーマを奏でます。その後レイアがお上品なお姫様らしさをかなぐり捨ててビームガン乱射しながら廃棄物用チューブに飛び込むところはまた激しい戦闘曲、ルーク、チューバッカ、ハンと続いてチューブに飛び込むところは次第に音楽をスローにしながら厚みを重ねて、ハンが飛び込んだところでドーーーンと終わります。
つづけてプレス機のシーンとなりここの曲もいいんですが、先は長いので端折りましょう

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【『スターウォーズ』における音楽の使い方8 --デススター脱出--】
さて色々あってデススターからの脱出のくだり。
トラクタービームに捉えられてスペースドックに係留されているファルコン号のところにたどり着くルークたち。見張りの兵の目をかいくぐってどうやってファルコン号に乗ろうかと思案していると…なんか知らんけど見張りの兵たちがファルコン号のそばをはなれて何かの見物に興じだします。
こいつはちょうどいいぜと、レイア姫御一行、3人と1頭と2台はファルコン号に乗り込むのですが、一番後ろを歩いていたルークが兵たちの視線の先を見ると、我が目を疑う光景が…
なんとオビワン・ケノービが、若い頃はユアン・マクレガーみたいにカッコよかったオビワン・ケノービが黒づくめの男とライトセーバーで決闘をしているではないですか!
そんなルークの視線に気づいたオビワンがニヤリと不敵な笑みを浮かべるところから音楽が流れ始めます。
オビワンは、この状況では若い奴らが自分を見殺しにできずせっかくの脱出のチャンスが潰れてしまうことを恐れたのでしょう。
静かにオビワンのテーマが流れる中で目を閉じベイダーに対して無防備な姿勢になります。
ベイダーは、いつぞやはよくも溶岩の中にぶっこんでくれたなとか、パドメが怪獣に引っ掻かれてヘソ出し衣装になった時エロそうな目で見てたの知ってるぞとか、そんなことを思ったかどうかは知りませんが、バッサリとにっくきオビワンを斬って捨てます。
この時にかかるのがなぜかレイアのテーマなんですね。ウィリアムズが言うには一番ドラマチックなシーンだから一番ドラマチックに盛り上がる曲にしたのだそうです。
ベーーン!!と叫ぶルーク(ベンってのはオビワンがタトゥイーンで使っていた偽名です)
レイアのテーマが奏でられる中怒りの銃撃をするルーク。
すると突如ルークの心に声が響きます。「走れ!ルーク!」
純真なルークは疑問に思わず走り出すのですがオーケストラは力強く反乱軍のテーマを奏でます。そしてファルコン号はデススターを脱出。
音楽は途切れずに、悲しみに沈むルークをレイアが慰めるときに静かにオビワンのテーマを奏でます。けど悲しんでる暇を与えてくれるほど帝国軍はいい奴らじゃありません。
ハン・ソロがルークに、そろそろ来る頃だぜ、とかなんとか言って銃座につきます。音楽は勇壮とも不安とも違うむしろ戦闘を前にワクワクを煽るような曲になります。ルークも銃座について戦闘準備。そしてコックピットのレイアの「Here, they come!」を合図に場面も音楽も戦闘モードになります。
4機のタイファイターが追撃してきました。こっからはほとんどビデオゲーム感覚で対空砲を右に左に上に下にと動かしてこざかしい戦闘機を攻撃するハンとルーク。
音楽は本作中もっともノリノリで奏でられる「反乱軍のテーマ」。でもただかき鳴らすだけでなくハン・ソロが一機撃ち落とした時にいい感じに盛り上がりルークも一機落としてハンとちょろっと会話するところで金管を下げたりとニクいくらいにカット割りとシンクロしています。
さらに残った二機を片付けるわけですが、最後の一機をハン・ソロが撃墜した時のタイファイター爆発ショットは、CGがなかった時代の特撮爆発ショットの中では映画史上もっとも美しくかっこいいショットだと思います。
そのショットに対してウィリアムズは無駄にブラスやストリングスを鳴らすことはせず、パーカッションだけで彩って楽しい戦闘シーンも音楽も終わります。
ハリソン・フォードがぷうっと息をはいて、映画的にも一息ついたことが感じ取れます。
タイファイターとのドッグファイトシーンの曲は、のちにエピソード6でランド・カルリシアンがファルコン号でデススターに突入するシーンや、エピソード8でレイの乗るファルコン号が洞窟内を飛び回るシーンなどでも流用されます。ウィリアムズにとってこの曲は「反乱軍のテーマのアレンジ」というより「ファルコン号のテーマ」なのでしょうね

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などとまた空気を読まずに熱めに語りましたが、長くなってきたので今回はこの辺で
次回は、デススターとの最終決戦からエンディングの音楽について語ります!!

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