個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■、最悪:■□□□□□]
90年代の終わりから00年代初頭にかけてブイブイいわせていた人気スターのベン・アフレック。最近落ち目でぱっとしなかった彼が自ら監督を買って出て撮りあげた映画「アルゴ」。
アカデミー賞で監督賞候補にもならなかったのは、やっかむ人も多かったのか、単にアン・リーやスピルバーグと比較して演出力が足りないと判断されたのか。
監督賞候補にならない作品は作品賞とれないジンクスを破って見事にアカデミー作品賞を受賞。正直グッド・ウィル・ハンティングのころからイモくさい役者だと思ってきたのですが(でも「トータル・フィアーズ」の彼はいいな)、そんな彼が本作でオスカー受賞(作品の監督・主演)と華々しい肩書きをもらってトップに返り咲きました。
で、映画は70年代にイランで起こった革命で、現地で孤立したアメリカ人を助けるためにCIAが仕掛けた奇想天外な作戦を描くもの。実話をもとにしているというから面白い。
もちろん「これは実話である」という映画が全て実話だった試しは映画史に一回もないので、事実とあそこが違う、ここが変とか突っ込むのはやめて脚色の妙を楽しまねばなりません。
ちょっと深いな…と感じるのは、単純に「悪い国イラン」から「不幸なアメリカ人を助け出せ」という物語にしていないところです。
冒頭でイラン近代史を駆け足で説明し、米英が石油利権のためパーレビをイランの国王にしたこと。そのパーレビのしたい放題の独裁にイラン国民が怒ったこと。たとえ独裁者でもアメリカの味方なら守るといいきる人たちが亡命してきたパーレビを受け入れたこと。中東に対してアメリカが行ってきた罪悪も、イラン国民が怒る理由もきちんと提示しています。
国際政治に善も悪もなく単に国益の問題にすぎず、それをマスコミ等を使い善であることを強調しようとする。
そんな泥臭い外交の世界で末端の人たちが苦労する、これを物語の軸にしていることでただの娯楽映画とは一線を画しています。
アメリカ人の味方をしたイラン人女性のメイドが、ラストでイラクに入国するのですが、ここにも善とか悪とか、敵とか味方なんて、まやかしみたいなもんだという作り手の皮肉が感じられます。
とにもかくにもカナダ大使の私邸にかくまわれている米国市民6名をカナダの映画スタッフということにして脱出させる作戦が展開されます。
ニセ映画企画だとばれないように、主人公のCIA局員はハリウッドの映画プロデューサーたちを抱き込んで、まずはハリウッドの映画業界に新作映画制作を信じ込ませようとします。
大々的な制作発表会見まで開きハリウッドの業界誌にも広告をぶって、さてロケハンだといって候補地であるイランをスタッフが視察にきたという設定。
終盤のイランを脱出できるのか否かのところは手に汗にぎります。あと一歩で失敗とかバレそうになる様々なトラブルやピンチが、クロスカッティングで同時並行で展開され、文字通り心臓はバクバクし手に汗握ります
ただしいかにもハリウッド的に脚色されたであろうピンチの連鎖に、逆に作為的なものを感じてしまうのも事実。
もちろん映画は編集というものが介在するので、実際は数十分から数時間の時間差で発生した複数のアクシデントをいかにもスレスレで発生していたようにフィルムを切り刻むのは映画屋ならば絶対にやるべきこと。そこは単純にうまいとほめるべきでしょう。
それでも私はやっぱり、終盤よりも前半におけるSF映画「アルゴ」制作をでっちあげるため、大物ぶった映画プロデューサーとつるんで、ハリウッド中をだますくだりの方が好きです。
70年代の無駄にハデハデな割にチープ感あふれるSF衣装や宇宙生物の姿に、ハリウッド愛があふれています。
大ぼらをふくのが得意ないかがわしいプロデューサーがとても魅力的です。華々しいパーティを開いたり、度胸とハッタリで脚本の映画化権を強引に買い取ったり、映画業界にいそうな山師ぶりがよく出ています。
(左ジョン・グッドマンと中アラン・アーキンのうさんくささ最高)
何も撮らないくせに大物ぶってる奴はハリウッドに大勢いる、とそのプロデューサーは語ります。
実際に映画業界って、何も仕事していないように見えるのにやたら高額なギャラをせしめていく人が多いんでしょう。
例えば本作でプロデューサーとしてクレジットされているジョージ・クルーニーですが、彼は何か仕事したのでしょうか。
勝手にベン・アフレックとジョージ・クルーニーのこんな会話を想像します。
「おいベン、俺はいったい何をしたらいい?」
「ジョージ、あんたは何もしなくていいよ。ただしパーティには必ず来てくれ。あんたがいるだけで製作費が集まるんだよ」
(右ジョージ・クルーニーさんはプロデューサーとしてオスカーを受け取ったものの、スピーチは一言もなしでした)
*********
スタジオゆんふぁ制作の自主映画
罪と罰と自由
日本芸術センター映像グランプリ受賞
ダマー映画祭inヒロシマ 入選
上映情報
2013年1月26日~27日 神戸芸術センター
2013年1月27日 商店街映画祭ALWAYS松本の夕日
2013年2月9日~10日 いわきぼうけん映画祭
********
ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン
↑この度、「ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン」を選出しました。映画好きブロガーを中心とした37名による選出になります。どうぞ00年代の名作・傑作・人気作・問題作の数々を振り返っていってください
この企画が講談社のセオリームックシリーズ「映画のセオリー」という雑誌に掲載されました。2010年12月15日発行。880円
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
[6段階評価 最高:■■■■■■、最悪:■□□□□□]
90年代の終わりから00年代初頭にかけてブイブイいわせていた人気スターのベン・アフレック。最近落ち目でぱっとしなかった彼が自ら監督を買って出て撮りあげた映画「アルゴ」。
アカデミー賞で監督賞候補にもならなかったのは、やっかむ人も多かったのか、単にアン・リーやスピルバーグと比較して演出力が足りないと判断されたのか。
監督賞候補にならない作品は作品賞とれないジンクスを破って見事にアカデミー作品賞を受賞。正直グッド・ウィル・ハンティングのころからイモくさい役者だと思ってきたのですが(でも「トータル・フィアーズ」の彼はいいな)、そんな彼が本作でオスカー受賞(作品の監督・主演)と華々しい肩書きをもらってトップに返り咲きました。
で、映画は70年代にイランで起こった革命で、現地で孤立したアメリカ人を助けるためにCIAが仕掛けた奇想天外な作戦を描くもの。実話をもとにしているというから面白い。
もちろん「これは実話である」という映画が全て実話だった試しは映画史に一回もないので、事実とあそこが違う、ここが変とか突っ込むのはやめて脚色の妙を楽しまねばなりません。
ちょっと深いな…と感じるのは、単純に「悪い国イラン」から「不幸なアメリカ人を助け出せ」という物語にしていないところです。
冒頭でイラン近代史を駆け足で説明し、米英が石油利権のためパーレビをイランの国王にしたこと。そのパーレビのしたい放題の独裁にイラン国民が怒ったこと。たとえ独裁者でもアメリカの味方なら守るといいきる人たちが亡命してきたパーレビを受け入れたこと。中東に対してアメリカが行ってきた罪悪も、イラン国民が怒る理由もきちんと提示しています。
国際政治に善も悪もなく単に国益の問題にすぎず、それをマスコミ等を使い善であることを強調しようとする。
そんな泥臭い外交の世界で末端の人たちが苦労する、これを物語の軸にしていることでただの娯楽映画とは一線を画しています。
アメリカ人の味方をしたイラン人女性のメイドが、ラストでイラクに入国するのですが、ここにも善とか悪とか、敵とか味方なんて、まやかしみたいなもんだという作り手の皮肉が感じられます。
とにもかくにもカナダ大使の私邸にかくまわれている米国市民6名をカナダの映画スタッフということにして脱出させる作戦が展開されます。
ニセ映画企画だとばれないように、主人公のCIA局員はハリウッドの映画プロデューサーたちを抱き込んで、まずはハリウッドの映画業界に新作映画制作を信じ込ませようとします。
大々的な制作発表会見まで開きハリウッドの業界誌にも広告をぶって、さてロケハンだといって候補地であるイランをスタッフが視察にきたという設定。
終盤のイランを脱出できるのか否かのところは手に汗にぎります。あと一歩で失敗とかバレそうになる様々なトラブルやピンチが、クロスカッティングで同時並行で展開され、文字通り心臓はバクバクし手に汗握ります
ただしいかにもハリウッド的に脚色されたであろうピンチの連鎖に、逆に作為的なものを感じてしまうのも事実。
もちろん映画は編集というものが介在するので、実際は数十分から数時間の時間差で発生した複数のアクシデントをいかにもスレスレで発生していたようにフィルムを切り刻むのは映画屋ならば絶対にやるべきこと。そこは単純にうまいとほめるべきでしょう。
それでも私はやっぱり、終盤よりも前半におけるSF映画「アルゴ」制作をでっちあげるため、大物ぶった映画プロデューサーとつるんで、ハリウッド中をだますくだりの方が好きです。
70年代の無駄にハデハデな割にチープ感あふれるSF衣装や宇宙生物の姿に、ハリウッド愛があふれています。
大ぼらをふくのが得意ないかがわしいプロデューサーがとても魅力的です。華々しいパーティを開いたり、度胸とハッタリで脚本の映画化権を強引に買い取ったり、映画業界にいそうな山師ぶりがよく出ています。
(左ジョン・グッドマンと中アラン・アーキンのうさんくささ最高)
何も撮らないくせに大物ぶってる奴はハリウッドに大勢いる、とそのプロデューサーは語ります。
実際に映画業界って、何も仕事していないように見えるのにやたら高額なギャラをせしめていく人が多いんでしょう。
例えば本作でプロデューサーとしてクレジットされているジョージ・クルーニーですが、彼は何か仕事したのでしょうか。
勝手にベン・アフレックとジョージ・クルーニーのこんな会話を想像します。
「おいベン、俺はいったい何をしたらいい?」
「ジョージ、あんたは何もしなくていいよ。ただしパーティには必ず来てくれ。あんたがいるだけで製作費が集まるんだよ」
(右ジョージ・クルーニーさんはプロデューサーとしてオスカーを受け取ったものの、スピーチは一言もなしでした)
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スタジオゆんふぁ制作の自主映画
罪と罰と自由
日本芸術センター映像グランプリ受賞
ダマー映画祭inヒロシマ 入選
上映情報
2013年1月26日~27日 神戸芸術センター
2013年1月27日 商店街映画祭ALWAYS松本の夕日
2013年2月9日~10日 いわきぼうけん映画祭
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ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン
↑この度、「ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン」を選出しました。映画好きブロガーを中心とした37名による選出になります。どうぞ00年代の名作・傑作・人気作・問題作の数々を振り返っていってください
この企画が講談社のセオリームックシリーズ「映画のセオリー」という雑誌に掲載されました。2010年12月15日発行。880円
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
日本国内で開催される映画祭の一覧を作りました。
地方の小さい映画祭まで、できるだけ集めました。
私自身、映画の製作に携わっている人の話を聴くのがたいへん好きです。
昨年は、古湯の映画祭と湯布院記録映画祭に参加しました。
よろしければご利用ください。
http://www.ajisai.sakura.ne.jp/~tabi/rink/01eigasai.htm
現在はラオスとの国境沿いのタイの田舎に住んでいます。
映画祭に合わせて、日本に行きます。