クラシックにとどまらない音楽界での活躍があるからそれくらい有名なのだと思いますが、私らサントラ好きにとっても非常に愛着のある数々のサントラ名盤を彩ってこられた方です。
前回に引き続きヨーヨー・マさんの名盤サントラを紹介してみたいと思います。
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『グリーン・デスティニー』(2000)作曲タン・ドゥン
台湾のアン・リー監督によるハリウッドにワイヤーアクションブームを起こしたいわゆる「武侠映画」の傑作です。(香港映画だとその遥か前から普通にやってたアクション演出だったのですが…ワイヤーアクションなら1993年のツイ・ハーク監督、リー・リンチェイ主演『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』とかの方がもっと面白いけどなぁぁ)
この当時の欧米で名の知れた中華圏映画人のキャスト・スタッフを総動員した映画で、当時の「中華圏」映画界の威信をかけたような大作でした。アカデミー賞でも作品賞、監督賞など主要部門で候補になり、結局主要部門は『グラディエイター』と『トラフィック』がわけあったのですが、外国語映画賞、撮影賞、美術賞、そして作曲賞の4部門をかっさらっていったのは決して中華贔屓だからではなく本作の実力でした。
私見ですが撮影、美術、作曲に関しては最大のライバルだった『グラディエイター』と比較しても受賞文句なしの素晴らしさでした。
(ただチョウ・ユンファを心から愛する私としては、彼がどう見ても様になってない剣術の師範役で、終始ニヤニヤしてるだけで演技的な見せ場もなく、めんどくせえからベレッタ二丁持って撃ちまくれよ!とフラストレーション溜まったりして作品についてはあまり評価してません。まあ、ミシェル・ヨー姐さんとチャン・ツィイーの壮絶バトルシーンは面白かったですけどね。アン・リーの中華圏作品なら『ラスト、コーション』の方をはるかに推します。)
作曲はタン・ドゥン(譚盾)で中国の現代クラシックの巨匠で、この作品の後チャン・イーモウ監督の『HERO 英雄』の音楽も担当します。
余談ですが『HERO』ではイツァーク・パールマンをソリストに起用していてなんとなく、タン・ドゥンはジョン・ウィリアムズを追いかけてるのかな?と思ったりしました。
話を戻して『グリーン・デスティニー』の音楽の素晴らしさは、タン・ドゥンの作曲家としてのセンスだけでなく、ソリストとして全編を彩ったヨーヨー・マの功績も大きいです。
サントラのほぼ全曲でチェロを美しく奏で、チャイナポップスな主題歌でもチェロのソリストとして伴奏に参加しています。
日本では映画主題歌っていうと劇伴音楽と似ても似つかないロックソングを最後に取ってつけてきてげんなりさせられること多いですが(そのせいでB'zもミスチルもサザンも嫌いになりかけるほどです。彼らのせいじゃないですが)、グリーン・デスティニーはクラシカルな劇伴と、ポップス調の主題歌をヨーヨー・マのチェロの音が見事に橋渡しをする事で映画全体のサウンドに統一感を与え、なんなら感動の余韻まで堪能させてくれる見事な仕事っぷりでした。まあ、主題歌もタン・ドゥンが作曲してるってのもありますが
このサントラもクラシックファンにもオススメできるサントラ名盤です。
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「ヨーヨー・マ・プレイズ・エンニオ・モリコーネ」
こちら、映画のサントラとはちょっと違う、企画ものアルバムです。
映画音楽史に名を残す巨匠中の巨匠エンニオ・モリコーネが自作曲をヨーヨー・マのためにチェロをフィーチャーした曲に編曲し、モリコーネ指揮で、もちろんヨーヨー・マのチェロで録音したアルバムです。
トルナトーレ監督メドレーでは『ニュー・シネマ・パラダイス』などお馴染みの曲がチェロで聴けます。セルジオ・レオーネ・メドレーでも超名曲「ゴールドのエクスタシー」のオリジナルだと女性スキャットだったところがチェロに置き換わり、あるいはオリジナルではパンフルートの音色が印象的だった『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』がやはりチェロの音色で楽しめたりと、モリコーネサウンドを飽きるぐらい聞きまくった人にも新たな魅力を発見できる素晴らしい内容です。
「ガブリエルのオーボエ」のオーボエのメロディがチェロになってたりするとその曲名どうなの?と疑問に感じなくもないですが、全曲サントラとは違う美しさを楽しめます。
2020年にモリコーネが他界した時、ヨーヨー・マはトリビュートとして『ニュー・シネマ・パラダイス』の演奏を自身のSNSでアップしていました。
https://twitter.com/yoyo_ma/status/1280182274206633985?s=21
https://twitter.com/yoyo_ma/status/1280182274206633985?s=21
この演奏も素晴らしいです。
恋人たちの曲が、亡くなったモリコーネを悼んでむせび泣くような、それでいて最後は在りし日を想ってつい微笑んでしまうような、ヨーヨー・マの想いが1分20秒の中に凝縮されているようです。
この2人がガチで映画サントラ作る機会がなかったことが残念でなりません。
そんなところで、また映画とクラシック音楽で会いましょう!!