チェリストのヨーヨー・マさんと言えば、クラシックのことをそんなに知らない人でも知ってるクラシック界のスターの1人じゃないかと思います。
クラシックにとどまらない音楽界での活躍があるからそれくらい有名なのだと思いますが、私らサントラ好きにとっても非常に愛着のある数々のサントラ名盤を彩ってこられた方です。
今回はヨーヨー・マさんの名盤サントラを紹介してみたいと思います。
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「セブン・イヤーズ・イン・チベット」(1997)
作曲ジョン・ウィリアムズ
私がはじめてヨーヨー・マさんのサウンドに接したのは『セブン・イヤーズ・イン・チベット』のサントラでした。(私の音楽知識の8割は映画きっかけで知ったものです。)
監督はジャン=ジャック・アノーです。音楽については『ラ・マン』ではガブリエル・ヤーレ、『薔薇の名前』『スターリングラード』ではジェームズ・ホーナーと組むなど特定の人と長く組むというよりは大物を使いまくる傾向のある方です。
ブラッド・ピットが実在した冒険家ハインリッヒ・ハラーを演じ、ハラーがチベットで過ごした7年間で育んだダライ・ラマとの友情を描きます。中国軍によるチベット侵略の場面も重厚に描かれており、チャイナマネーに忖度しまくる現在のハリウッドでは制作できない映画です。
音楽はジョン・ウィリアムズでした。念のため言うと、ボンベ咥えたでかい魚が爆発する映画や、宇宙で黒マスクの人がお父さんだった映画とか、ハンサムな男がドイツ兵をムチで打つ映画とかで有名な作曲家です。
なんとなく東洋が舞台の映画だから東洋系のミュージシャンを起用したのかな…と思ってました(『シンドラーのリスト』でユダヤ人のバイオリニストを起用したような感じで)。
しかしこの映画より前にヨーヨー・マのためのチェロの純音楽(後述)を書いてたりしていたので、単純にヨーヨー・マに惚れていたが故の起用だったのですね。
7分にも及ぶテーマ曲はJW渾身の作品という感じがして時々ふと聴きたくなる曲です。
ヨーヨー・マにとっても本格的な映画サントラ参加は初めてだったのではないでしょうか。映画音楽とクラシックの橋渡し役としての彼の重要な転機となるアルバムだと思います。
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『SAYURI』(2005)作曲ジョン・ウィリアムズ
ジョン・ウィリアムズに愛されたヨーヨー・マのもう一つのJW映画作品が『SAYURI』(原題『メモワール・オブ・ゲイシャ』)です。
ロブ・マーシャル監督、チャン・ツィーイー、コン・リー、ミシェル・ヨー、ケン・ワタナベ、コウジ・ヤクショ、カオリ・モモイらが出演する京都の芸者の物語です。
90年代中盤から2000年代後半にかけて、変にクラシカルな響きを追求し出して、どこか鼻につく感じがしないでもなかったJWですが、そんな時期の中では『SAYURI』の音楽は群を抜いて素晴らしかったと思ってます。
ヨーヨー・マばかりか、『シンドラーのリスト』で組んだバイオリンのイツァーク・パールマンもソリストに招聘するという巨匠だからできるワガママも見事に功を奏しています。エンドクレジット曲のヨーヨー・マのチェロとパールマンのバイオリンが変わるがわる入ってくるリズミカルかつ美しい調べは絶品です。
『太陽の帝国』のころのこれ見よがしな和風テイスト(あれはあれで狙いなのはわかってますが)ではなく、オリエンタルなメロディと西洋音楽が違和感なく溶け合い、美しさに昇華しています。ヨーヨー・マとパールマンの演奏によるところも大きいでしょう。なんとなく日本というより中国っぽい響きに聞こえなくもないですが、出演陣が出演陣なだけに映画では違和感ないです。
もともとスピルバーグが撮る予定の映画で、色々あって監督が交代したものの、音楽はその流れでJWが残留したのでしょう。正直いうと脚本も酷くJWもそこまで乗らなかったのじゃないかと想像しますが、彼はきっと開き直って好きなミュージシャンと好きなように音楽を作ることを楽しんだのでしょう。
女優陣のなんか変だけど豪華さでは申し分ないキャスティングと、JWの素晴らしすぎる音楽のおかげで大作感が出てまあまあ楽しめた映画ではありました。映画は初見以来改めて見返す気も起こらないような、まあ良くて凡作ですが、サントラはかなりのヘビロテで聞き返しました。
余談ですが、スピルバーグが『SAYURI』を撮る予定だったころ黒澤明にどう撮るべきかと相談したら、黒澤は日本の女優を使って日本語で撮るべきだとアドバイスしたそうです。ところが監督がロブ・マーシャルに変わると中国の女優が英語を喋る奇怪な映画になってしまいました。
といってもまあ、この頃は日本映画はアニメ以外はハリウッドから見向きもされていなかった頃ですし日本の女優で国際的に名の通る人などほぼいなかった時期ですから、仕方ないかなとも思います。
と言ってもコン・リーやミシェル・ヨーと並んでも貫禄負けしてなかった桃井かおり姐さんはすげーなと思いました。
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「ヨーヨー・マ・プレイズ・ザ・ミュージック・オブ・ジョン・ウィリアムズ」(2002)
こちらはジョン・ウィリアムズの純音楽のアルバムで、彼がヨーヨー・マのために書いたチェロのための曲を集めたアルバムです。
94年にセイジ・オザワ・ホールこけら落とし記念演奏会のためにヨーヨー・マを想定して作曲したのが「チェロ協奏曲」で、それは『セブン・イヤーズ・イン・チベット』を遡ること3年前年でした。(『シンドラーのリスト』で5度目のアカデミー賞を受賞したのが93年。スピルバーグがSFからヒューマンに本格的に移行したころでJW的にも転機だったころですね。この頃からJWはクラシカルな響きにこだわり始めます)
すっかりヨーヨー・マに魅せられたJWは彼のための曲を立て続けに作曲。その際の94年から02年の間の純音楽4つを聴けます。
この流れでの『セブン・イヤーズ・イン・チベット』だったのですね。『サユリ』はその流れ(JW的YYMブーム)での集大成と言えるでしょう。
しかし、このアルバムに収録されている曲を他の指揮者が録音した盤というのはタワレコのオンラインショップを探す限りは全く見当たらず、クラシック界隈ではさほど人気のある曲というわけではなさそうです。
ヨーヨー・マありきの曲だし、コンサートにヨーヨー・マを呼ぶんだったらシューマン とか名曲やる方が客を呼べそうだし…わからないじゃないです。
「あのジョン・ウィリアムズの」をつけないと興味持ってくれなさそうな曲ですし、さりとてジョン・ウィリアムズっぽい曲(スターウォーズとかE.T.とか)を期待すると肩透かし感は否めません。
とは言え、チェロ協奏曲の第一楽章のなんとも宇宙的スケールを感じる盛り上がり、ティンパニがドコドコとうなるSF映画音楽のようなノリ(『A.I.』のテーマに少し似てます)は流石JWって感じで、聞いてて気持ちが上がります。ただ2、3、4楽章と力尽きていくように沈んでいく展開は、JWファン的には興味深いですが一般受けするかというと…
しかしJWとYYMの抜群の信頼感を感じるのと、数少ないJWの純音楽作品、映画を離れると驚くほど沈鬱気味なまるで武満徹みたいなJWを知ることができたりしてファン的には必聴の一枚です。
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ヨーヨー・マのサントラ代表作『グリーンデスティニー』と、名盤「ヨーヨー・マ・プレイズ・エンニオ・モリコーネ」についても書きたかったのですが、長くなってきたので次回に
そんなところでまた、映画とクラシック音楽で会いましょう!!