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デジャヴ [監督:トニー・スコット大先生]

2007-04-29 20:27:05 | 映評 2006~2008
【個人的評価 ■■■■■□】(■□□□□□:最悪、■■■■■■:最高)

毎回毎回とんでもない映画を作る予測不可能というか期待通りにして予想以上の男トニー・スコット。これほど新作が楽しみな監督が他にいるだろうか。
ことに90年代後半からはマジハズレなし。作る毎に面白くなっていき、作家としての面白さでは凡庸俗物な兄貴から数光年彼方先まで飛んでいる。今作は盟友デンゼルとやたら恰幅の良くなった盟友バルキルらと共にさらなる飛躍を遂げる。
まずオープニング。台詞はほとんど無いが、後半の伏線となるに決まっているような力強く美しく印象的な映像が連なる。テンポのいいカッティングで紡がれるのは、笑い喜び楽しむ顔・顔・顔・・・。喧噪と照りつける日差し。生きることの歓びを謳いあげているような、兄貴なら「ポエティック」と感嘆するだろう数分間はやがて、爆弾の発見に伴い正邪の振幅が激しくなりそして悲劇的な映像へと・・・・
映像自体のコントラストの強烈さと正負の物語上のコントラスト。このデンゼルもバルも登場しないオープニング数分間だけで大満足状態。こんなすげーオープニング撮れる奴、世界に五人といないよ。
ところが・・・この後の展開は世界で五人どころか一人もやろうとしない凄まじいものだった。

正攻法のサスペンス演出を堪能させたオープニングの後、ようやくお待ちかねの大スターが登場。デンゼル・ワシントンさんだ。アカデミーの主演賞と助演賞を一回ずつ受賞したことのあるまぎれも無い名優だ。ハーバード卒っぽい設定がよく似合うインテリっぽい役者だが、私たちは忘れていない。「リコシェ」を。「悪魔を憐れむ歌」を。「バーチュオ・シティ」を。彼のくそマジメかつテンション高い演技は、バカ映画でこそ光り輝くことを忘れていない。そんな彼の特性を理解しつつもちゃんとマジメな方向に導いていたのがエドワード・ズウィック(「グローリー」「戦火の勇気」「マーシャル・ロー」)とトニー・スコット(「クリムゾン・タイド」「マイ・ボディガード」)だ。
トニーは若気の至り「トップガン」のおちゃらけを無かったことにしようと兄貴っぽくマジメ路線を進むかに見えたが、前作「ドミノ」で『たかが映画』の境地に達してしまったらしい。正々堂々と実力の全てを叩き込んでバカ映画を作ることを決意したようである。
そのが決心が着いたとき、気がつけばほんとはバカの似合うデンゼルと懇意になっており、元トム・クルーズのライバルで元バットマンのバル・キルマーが冗談みたいにぶくぶくになっていて、これまでの彼の映画人生は全てこの「デジャヴ」のためにあったのかも知れない!!!
マジメ作家への未練を断ち切るための素晴らしすぎるオープニングの後は、あり得ないくらいバカバカしい物語を照れること無く悪びれず堂々と全力で撮りあげていく。
偶然作られてしまった4日半前を覗き込めるタイムマシン。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドクの失敗発明品みたいなデザインで、大山のぶ代さんの声で「過去覗き見ヘルメット」とでも言って欲しいアイテム。
「フレンチ・コネクション」や「LA大捜査線・狼たちの街」や「シカゴ・コネクション 夢見て走れ」や「RONIN」なんかで極上カーチェイスをしこたま観てきたカーチェイス・マニアな私でさえ、あり得ねーと度肝抜かされる「4日半の時間差カーチェイス・現代は大騒動」
生物をタイムスリップさせたら心臓が停止してしまう・・・だから救急病院を選んでゴー・トゥ・パスト!!ふざけてんのかスコット弟!!!でもお前は最高だ!!!デンゼルの心臓マヒっぽい演技も最高だ!!!
タイムパラドックスなんてめんどくせーよとばかりに神妙な面持ちで語られる都合のいい時空理論!!
トニー映画に常識なんて通じない。時間を飛び越え悪党と対決。やはり来たかとクローネンバーグばりの反復シーンはクライマックスのカウントダウンに連動し嫌が応にも盛り上がり、ついつい興奮の挙げ句悪党との決着においてはバカだな俺と判っちゃいるけど涙は抑えられない。
だがトニー映画は悲しいままでは終わらない

丸ごとオープニングの反復なクライマックスなんだから再登場して当然のヒーローの姿にまた涙
「話しても信じてもらえそうにない時は?」
「何度でも試すさ」
今度はイーストウッドばりの台詞反復。

SFとサスペンスとアクションと、Bな映画への愛がぎっしりつまり、そこから新たなクラシックを作り出したトニー・スコットの豪腕に涙と拍手が止まらない思いだ。

「カトリーナ」により未曾有の被害を被ったニュー・オーリンズが舞台となっている本作だが、その都市を使う必然は少なくとも物語の上では全くない。
しかしトニー映画をレベルアップさせるのは、湿気が高く日差しが強く温度が高く、衛生環境の悪い血でのロケーションだ。デートスポットになりそうなお洒落でこぎれいな場所など似合わない。異臭が漂いハエが飛び回っていそうな汚らしい場所ほど、トニー演出にはもってこい。わざとらしいテンションの高さも、目にうるさいチカチカ処理も、ロケの力で「有り」になってしまう。トニーの映像は昔からちょっとお洒落ではあるが、掃き溜めみたいな場所に行けば行くほどお洒落度がアップする。
トニーにはビバリーヒルズよりスラムの方が似合う。
そこに来て、町全部が廃墟となったようなニュー・オーリンズ。
ここまでひどかったのか・・・と記録映像的にも有意義ながら、その景観は申しわけないくらいに映画「デジャヴ」の物語にマッチしていた。ハリケーンの被害を受ける前からニュー・オーリンズでロケすることは決まっていたし、撮影断念も見当されたらしい。しかしあの参上を目の当たりにしてむしろ映像派トニーは燃えたのではないだろうか?
この街のために出来ることは何だろうかと考え、そこで撮り上げることだと思ったのか。だからといってことさらに災害を強調せず、物語にも絡めず、そのままのストーリーで撮り上げて、結果それは見事ににトニー節として結実した。
ニュー・オーリンズへの感謝と誠意はもちろん忘れず、エンドクレジットの短い文章はかえって胸にせまる。
退かぬ媚びぬ省みぬ。トニーに後退はない。

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