[70点](65点はエンニオ・モリコーネの音楽に敬意を表して)
映画が始まって最初に映るのは雪原と雪を頂いた高山の風景ショット。
そこにエンニオ・モリコーネの重々しい音楽が重なる
風景ショットが3カットか4カット続いた後、雪をかぶった野ざらしのキリスト像が映る。この辺からメインテーマ曲がかかり、ティンパニやドラムスがリズムを刻む中低音を利かせたオーケストラが短いフレーズを繰り返していく。苦悶の表情のキリストからカメラはゆっくり動いてはるか遠くから雪道の中を駆けてくる駅馬車がカメラを横切るまでをワンカットで描く。
タランティーノ映画はいつもオープニングにメインタイトルシークエンスがあって、タイトルだけ出してさっさと物語に入ることが好まれる最近のハリウッド映画の風潮などお構いなしだ。
いつもはタランティーノがチョイスした「センスのいい曲」をたっぷり聴かせるのだけど、今回は違う。エンニオ・モリコーネの音楽を聞かせるためにある。
モリコーネのクレジットでの表記もOriginal Music by~だったか、Original Score by~だったか、ともかくOriginalがついていたと思う。
これまでもタランティーノは映画内でちょいちょいモリコーネのマカロニウェスタン音楽を使ってきたが今回は既成曲じゃない、Originalなんだ、と誇らしげに宣言する。
本編になるとサミュエル・L・ジャクソンの演説がえんえん繰り広げられてあまり音楽的見せ場がないので、こういう所でモリコーネを楽しませようとそんなところかもしれない。
オープニングタイトルでもう一つタラさんがやたら強調していたのが、この映画70mmフィルムで撮ったんだぜ、すげーだろなところ。
撮影監督ロバート・リチャードソンの名前より先に70mmフィルム使った表記を出してくる。
70mm映画といえば古い映画で申し訳ないけどやっぱ「アラビアのロレンス」が真っ先に思いついて、スペクタクル超大作向けのメディアなのだと認識している。
ところがタラさんの「ヘイトフルエイト」はオープニングこそ70mmを活かした広大な風景描写だが、いざ本編が始まると狭い小屋の中で演説してばっかで、いったい70mmで何がしたかったんだと突っ込みたくもなる。実はそのへんも嘘つきばかりの登場人物に交じって監督タラさんも観客をだましにかかる手口だったのかもしれない。
それでもところどころに入るフラッシュバック的な場面での広大な風景とそこに
かぶさるモリコーネの音楽はとても素敵だ。
いつもファーストショット、そしてファーストシーンは大事だと考えるのだが、「ヘイトフル・エイト」の場合モリコーネの音楽と70mmだすごいだろしかないようなオープニングって気がしてしまった。実際映画もそれしかないような感じだったからあんなもんでいいのかもしれないが
野ざらしの朽ちたようなキリスト像は象徴的で、場所を意識させる装置としても機能していてうまいけど、そこにあんま深読みするのも逆にカッコ悪い気がするのでスルーする。
映画自体は先にも書いたように狭い小屋で喋り倒すだけの映画で、正直退屈を感じで仕方なかった。
サミュエル・L・ジャクソンが将軍の息子との思い出を語るところからの撃ち合いはちょっとしびれたけど。
全部喋って謎解き、喋って説明ってとても映画的な方法ではないと思うけど、そういう普通はやらないことをやり続けて評価され人気のある監督だということはわかっており、彼以外のだれもこんなおしゃべり犯罪映画を作れないと思うと、彼は小津やキューブリックのような置換不可能な映画人であることは認めざるを得ない。
しかし3時間もあるんだからもっとモリコーネの音楽を堪能できる場面を作ってほしかった。
ほらレオーネを思い出してみろよ。こういうこと言うと何だけどレオーネはモリコーネのためにただ4分間も墓場をウロウロするだけの長い長いシーンを作ったじゃないか(ゴールドのエクスタシーっていうモリコーネ史上ナンバーワンのスコアがかかるんだ)
などと言いつつも、ジェニファー・ジェイソン・リーが鉈を使って脱出・逆襲を試みる場面のサスペンス&アクション描写はモリコーネの真骨頂だったし、リンカーンからの手紙(ワケあり)を朗読するシーンの美しすぎるトランペットの調べもまた紛れもないモリコーネ節であった。
「レザボアドッグス」以来ずーっとタランティーノに面白みを感じてこなかった私だが、すべてはモリコーネをアカデミー賞ホルダーにするためだったんだと思うと彼の全フィルモグラフィを評価しようと思った。
授賞式でクィンシー・ジョーンズからエンニオの名が呼ばれ、同じく候補者だった84歳のジョン・ウィリアムズに祝福の抱擁をうけ、ややおぼつかない足取りでステージに向かい、総立ちの会場を観て言葉に詰まる老巨匠の姿が私的にはアカデミー授賞式の最大の感動シーンであった。
そんな場面を作ってくれたタランティーノありがとう。
まあ、カート・ラッセルの血の吐き方とか超ウケたし、殺しのエクスタシー感はまあまあ感じたけどね
長いよ
ヘイトフル・エイト
監督・脚本 クエンティン・タランティーノ
撮影 ロバート・リチャードソン
音楽 エンニオ・モリコーネ
出演 サミュエル・L・ジャクソン、ジェニファー・ジェイソン・リー、カート・ラッセル
アカデミー受賞式にて。ジョン・ウィリアムズ(左)とエンニオ・モリコーネ(右)。素晴らしい画だ!!
映画が始まって最初に映るのは雪原と雪を頂いた高山の風景ショット。
そこにエンニオ・モリコーネの重々しい音楽が重なる
風景ショットが3カットか4カット続いた後、雪をかぶった野ざらしのキリスト像が映る。この辺からメインテーマ曲がかかり、ティンパニやドラムスがリズムを刻む中低音を利かせたオーケストラが短いフレーズを繰り返していく。苦悶の表情のキリストからカメラはゆっくり動いてはるか遠くから雪道の中を駆けてくる駅馬車がカメラを横切るまでをワンカットで描く。
タランティーノ映画はいつもオープニングにメインタイトルシークエンスがあって、タイトルだけ出してさっさと物語に入ることが好まれる最近のハリウッド映画の風潮などお構いなしだ。
いつもはタランティーノがチョイスした「センスのいい曲」をたっぷり聴かせるのだけど、今回は違う。エンニオ・モリコーネの音楽を聞かせるためにある。
モリコーネのクレジットでの表記もOriginal Music by~だったか、Original Score by~だったか、ともかくOriginalがついていたと思う。
これまでもタランティーノは映画内でちょいちょいモリコーネのマカロニウェスタン音楽を使ってきたが今回は既成曲じゃない、Originalなんだ、と誇らしげに宣言する。
本編になるとサミュエル・L・ジャクソンの演説がえんえん繰り広げられてあまり音楽的見せ場がないので、こういう所でモリコーネを楽しませようとそんなところかもしれない。
オープニングタイトルでもう一つタラさんがやたら強調していたのが、この映画70mmフィルムで撮ったんだぜ、すげーだろなところ。
撮影監督ロバート・リチャードソンの名前より先に70mmフィルム使った表記を出してくる。
70mm映画といえば古い映画で申し訳ないけどやっぱ「アラビアのロレンス」が真っ先に思いついて、スペクタクル超大作向けのメディアなのだと認識している。
ところがタラさんの「ヘイトフルエイト」はオープニングこそ70mmを活かした広大な風景描写だが、いざ本編が始まると狭い小屋の中で演説してばっかで、いったい70mmで何がしたかったんだと突っ込みたくもなる。実はそのへんも嘘つきばかりの登場人物に交じって監督タラさんも観客をだましにかかる手口だったのかもしれない。
それでもところどころに入るフラッシュバック的な場面での広大な風景とそこに
かぶさるモリコーネの音楽はとても素敵だ。
いつもファーストショット、そしてファーストシーンは大事だと考えるのだが、「ヘイトフル・エイト」の場合モリコーネの音楽と70mmだすごいだろしかないようなオープニングって気がしてしまった。実際映画もそれしかないような感じだったからあんなもんでいいのかもしれないが
野ざらしの朽ちたようなキリスト像は象徴的で、場所を意識させる装置としても機能していてうまいけど、そこにあんま深読みするのも逆にカッコ悪い気がするのでスルーする。
映画自体は先にも書いたように狭い小屋で喋り倒すだけの映画で、正直退屈を感じで仕方なかった。
サミュエル・L・ジャクソンが将軍の息子との思い出を語るところからの撃ち合いはちょっとしびれたけど。
全部喋って謎解き、喋って説明ってとても映画的な方法ではないと思うけど、そういう普通はやらないことをやり続けて評価され人気のある監督だということはわかっており、彼以外のだれもこんなおしゃべり犯罪映画を作れないと思うと、彼は小津やキューブリックのような置換不可能な映画人であることは認めざるを得ない。
しかし3時間もあるんだからもっとモリコーネの音楽を堪能できる場面を作ってほしかった。
ほらレオーネを思い出してみろよ。こういうこと言うと何だけどレオーネはモリコーネのためにただ4分間も墓場をウロウロするだけの長い長いシーンを作ったじゃないか(ゴールドのエクスタシーっていうモリコーネ史上ナンバーワンのスコアがかかるんだ)
などと言いつつも、ジェニファー・ジェイソン・リーが鉈を使って脱出・逆襲を試みる場面のサスペンス&アクション描写はモリコーネの真骨頂だったし、リンカーンからの手紙(ワケあり)を朗読するシーンの美しすぎるトランペットの調べもまた紛れもないモリコーネ節であった。
「レザボアドッグス」以来ずーっとタランティーノに面白みを感じてこなかった私だが、すべてはモリコーネをアカデミー賞ホルダーにするためだったんだと思うと彼の全フィルモグラフィを評価しようと思った。
授賞式でクィンシー・ジョーンズからエンニオの名が呼ばれ、同じく候補者だった84歳のジョン・ウィリアムズに祝福の抱擁をうけ、ややおぼつかない足取りでステージに向かい、総立ちの会場を観て言葉に詰まる老巨匠の姿が私的にはアカデミー授賞式の最大の感動シーンであった。
そんな場面を作ってくれたタランティーノありがとう。
まあ、カート・ラッセルの血の吐き方とか超ウケたし、殺しのエクスタシー感はまあまあ感じたけどね
長いよ
ヘイトフル・エイト
監督・脚本 クエンティン・タランティーノ
撮影 ロバート・リチャードソン
音楽 エンニオ・モリコーネ
出演 サミュエル・L・ジャクソン、ジェニファー・ジェイソン・リー、カート・ラッセル
アカデミー受賞式にて。ジョン・ウィリアムズ(左)とエンニオ・モリコーネ(右)。素晴らしい画だ!!