以下は前章の続きである。
見出し以外の文中強調は私。
●自衛官には 残業手当や休日手当がない
平和ボケという言葉は余り使いたくないが、森友問題に翻弄される日本の政治がいかにお粗末なのか、という意味で読み応えがあったのが月刊『正論』4月号に掲載された、橋下徹氏と三浦瑠麗氏の対談であった。
「お花畑ニッポンの中心で徴兵制を語る」と題する対談の中で橋下氏は徴兵制について、こう反対する。
《僕は雇用の流動性と同様、兵隊の出入りも自由にさせた方が軍の質は高まると思っているんです。優秀な兵隊に去られてしまうのではないかという不安があれば、雇う側に「良い組織にしなければいけない」という意識と責任感が芽生えるからです。逆に徴兵制で、黙っていても兵隊が入ってくるような状況では、軍は各兵隊を大切に扱わないでしょう。旧大日本帝国軍がそうでした。だからPKO(国連平和維持活動)が拡大していく時代に自衛官でいるのが嫌だと感じる隊員は、すぐにでも辞めて転職すればいい。こうした志願制のリスクを前提に、それでも自衛隊を何とか維持させていくのは政治の役割であり、むしろ兵士と文民がころころ入れ替わる回転ドア状態が本当の文民統制ではないですかね)
橋下氏は戦前の話をしているが、政府が自衛官を大切に扱っていないという意味では、今も同じだ。
本欄でも何度も指摘したが、自衛官の雇用環境は厳しく、優秀な人材を確保しにくい状況なのだが、そうした現実を知る政治家は少ない。
国防ジャーナリストの小笠原理恵氏はこう指摘する。
《対北朝鮮のミサイル防衛で配備されているPAC13やイージス艦は、ミサイルが発射されてもされなくても、「その可能性がある」ということで今この瞬間もずーっと24時間体制で警戒を続けています。PAC-3には護衛がついていますが、当然彼らも24時間対応です。私たちがその存在を忘れている間も、自衛官は絶えず空の異変を警戒し守りについてくれているのです。しかし、そんな自衛官の給料は下がり続け、今ではとうとう民間企業平均を下回るようになりました。自衛官には残業手当や休日手当はありません。さらに、今年4月には現給保障もなくなり給料が下がる予定です》(日刊SPA!2018年2月3日)
北朝鮮のミサイル迎撃で24時間勤務で奮闘する自衛官たちは、この4月から給料を減らされるのだ。
そもそも自衛官には残業手当はなく、特別勤務の手当も時給にすれば僅か百円(!)程度の場合もある。
それでも自衛隊が維持できていたのは、自衛官の熱烈な使命感と幹部自衛官の努力のおかげなのだ。
自衛隊の地位向上のために憲法に自衛隊を明記する動きがあるが、こうした実態をもっと国民にアピールすべきだろう。
小笠原氏はこう続ける。
《自衛官には残業手当や休日手当はないのですが、仮にコンビニの平均時給の892円を通常勤務の8時間以外の16時間分もらえるとしたら、金額は1万4272円になります。これに対してミサイル対応の自衛官がもらえる手当は1日あたり1000円です。いくらなんでも少な過ぎると思いますが、これまでは0であったことを考えればこれでも改善であり前進なのです。不発弾の信管除去作業という最も危ない作業をする人ですら、平成22年までは作業手当が1日あたり5200円でした。これが最近やっと上がって1日あたり1万400円に改善されました》
現時点でも、尖閣・南西諸島、対馬海峡、北方領土と三方面で脅威が高まっているにもかかわらず、自衛官が足りないため、事態に対応できているとは言い難い。
事業計画は予算の裏付けがあってこそ意味がある。
いくら素晴らしい防衛計画の大綱を作成したところで、防衛予算を増やし、自衛官の待遇改善などの措置を取らない限り、大量の離職者が生まれ、自衛隊はいずれ内部崩壊に追い込まれることになるだろう。
月刊『正論』の対談で橋下氏はこう続ける。
《戦争状態になった時は国会議員を交代で戦地に送り込む仕組みを導入したらいいんですよ。政治家は自分の身に本当の危険が生じてから初めて物事を真剣に考える生き物なので、戦場に立つ危険を負えば、威勢のイイことは言わなくなりますよ》
*私は、これに例えばNHK・watch9の有馬と桑子などのキャスターたちや彼等と同調している評論家たちも加えるべきだと確信する*
政治家の習性を知る橋下氏ならではの提案だが、戦争状態になった時では遅すぎる。
災害出動や不発弾処理、ミサイル監視業務などに、与野党の政治家全員に参加を義務付ける仕組みを作るべきだろう。
自衛隊の現場を知ってこそ文民統制も可能となる。
特に生命の危険がある不発弾処理などに1日、1万400円の追加手当を払っていいので、参加させたらよい。
日本を守るために日々自衛官がどのような苦労をしているのか、その給料がいかに少ないのか、いかに劣悪な職場環境なのか、政治家は体感すべきだ。
そうすれば、森友問題で大騒ぎすることがいかに愚かなことか、少しは理解できるだろう。
なお、月刊『正論』4月号に掲載された、北朝鮮の漂着船に関する惠谷治氏と荒木和博氏の原稿は必読だ。