「あぁ、そうだ。忘れていたよ。さっきドクターが、念のために全身の精密検査をしたいと言っていたよ。」
「ボルマン、私はどこを撃たれたんだ?」
ボルマンは、呆れ顔で優しく笑顔を向けた。ボルマンも私も、握った右手を引くタイミングを探りながら会話を続けていた。
「弾丸は、左肩、心臓の上辺りを貫通した。その傷と右足首の骨折、打撲など、少なくとも約2ヶ月の入院になるとドクターは言っていたが。」
「そうはいかないよ。次に君が見舞いに来てくれる日には必ず退院するつもりだ。」
ボルマンは堪えきれず、笑い声を上げ、それをきっかけに、私は握手を解いた。
「全く、君の体力と精神力にはいつも驚かされるよ。・・・で、私は次に、いつ来れば良いんだ?」
「・・・2週間後だ。」
ボルマンの笑顔はまだ続いていたが、彼は少し悲しそうにつぶやいた。
「君を敵に回すなんて、ハーシェルも馬鹿な真似をしたものだな。」
彼はコートに袖を通しながらそう言い残し、病室を出て行った。
ハーシェルのことは相変わらず私の頭から離れることは無かったが、第一のステージが計画通りに終わったことで、とりあえず今は休息を取ることにした。今病室を出て行ったボルマンが、別室でドクターと密談をしていることは予想もしていなかった。
「それで、さっきの話だが・・・。」
「えぇ、まだ確かなことではありませんが。」
「しかし、よりによって癌とは・・・。」
「ボルマンさん、お気持ちはわかります。ですから先ほど申し上げたのです。今すぐに手術すべきだと。」
「ドクター、確かに私は、友人として彼を気の毒に思っているし、1日でも長く生きるために、できる限りのことをしてやりたいと思っている。しかし、私はナチスなのだよ、ドクター。」
「私も一応、その端くれとしてこの病院に勤めているんですが。」
「ドクター、私だけが特別なのではない。もし、彼と私の立場が入れ替わったとしても、彼は君に同じことを言うだろう。」
「しかしボルマンさん、それはあまりにも・・・。」
「我々はそのうちに、後の時代に生きる人々に感謝されるようになるだろう。投薬も何もせず自然に放置したままの癌細胞の成長を正しく把握することこそ、それを阻止するための薬を作り出すための第一歩なのだからな。」
「ボルマンさん、そんな立派な大義名分があるのなら、彼もナチスの一員としてこのような判断をしたあなたを責めたりはしないでしょうに。」
「そうだ。今、彼に、彼の体が癌に蝕まれている事実を話しても、彼は決して動揺したり、私を責めたり、薬の副作用を受け入れてまでも延命することに賛成したりはしないはずだ。」
「では、なぜ?」
「彼が自分の病名を正しく認識したら、彼の生命力は、自らその病気を治してしまうのだ。」
「そんなばかな!いくら強い人間でも、治癒力がそこまで・・・。」
「彼はそうなのだ。彼が恐れるのは自分の死ではない。自分が人間に戻ること、つまり、ナチスとしての自分の死、だ。」
「ボルマンさん、あなたは、そんな彼が恐いんじゃないですか?」
「そう、正直、私は彼が恐いのだ。自分の死を恐れない彼の存在が恐ろしくてたまらないし、彼の存在に、総統や我々ナチスへ影響を及ぼしてほしくない。そして、そんな彼の死を、この目で見届けたいのだ。」
「彼を抹殺する良い機会だ、というわけですね?」
「・・・そう思ってもらって結構だ。では、よろしく頼むよ、ドクター。」
(つづく)
「ボルマン、私はどこを撃たれたんだ?」
ボルマンは、呆れ顔で優しく笑顔を向けた。ボルマンも私も、握った右手を引くタイミングを探りながら会話を続けていた。
「弾丸は、左肩、心臓の上辺りを貫通した。その傷と右足首の骨折、打撲など、少なくとも約2ヶ月の入院になるとドクターは言っていたが。」
「そうはいかないよ。次に君が見舞いに来てくれる日には必ず退院するつもりだ。」
ボルマンは堪えきれず、笑い声を上げ、それをきっかけに、私は握手を解いた。
「全く、君の体力と精神力にはいつも驚かされるよ。・・・で、私は次に、いつ来れば良いんだ?」
「・・・2週間後だ。」
ボルマンの笑顔はまだ続いていたが、彼は少し悲しそうにつぶやいた。
「君を敵に回すなんて、ハーシェルも馬鹿な真似をしたものだな。」
彼はコートに袖を通しながらそう言い残し、病室を出て行った。
ハーシェルのことは相変わらず私の頭から離れることは無かったが、第一のステージが計画通りに終わったことで、とりあえず今は休息を取ることにした。今病室を出て行ったボルマンが、別室でドクターと密談をしていることは予想もしていなかった。
「それで、さっきの話だが・・・。」
「えぇ、まだ確かなことではありませんが。」
「しかし、よりによって癌とは・・・。」
「ボルマンさん、お気持ちはわかります。ですから先ほど申し上げたのです。今すぐに手術すべきだと。」
「ドクター、確かに私は、友人として彼を気の毒に思っているし、1日でも長く生きるために、できる限りのことをしてやりたいと思っている。しかし、私はナチスなのだよ、ドクター。」
「私も一応、その端くれとしてこの病院に勤めているんですが。」
「ドクター、私だけが特別なのではない。もし、彼と私の立場が入れ替わったとしても、彼は君に同じことを言うだろう。」
「しかしボルマンさん、それはあまりにも・・・。」
「我々はそのうちに、後の時代に生きる人々に感謝されるようになるだろう。投薬も何もせず自然に放置したままの癌細胞の成長を正しく把握することこそ、それを阻止するための薬を作り出すための第一歩なのだからな。」
「ボルマンさん、そんな立派な大義名分があるのなら、彼もナチスの一員としてこのような判断をしたあなたを責めたりはしないでしょうに。」
「そうだ。今、彼に、彼の体が癌に蝕まれている事実を話しても、彼は決して動揺したり、私を責めたり、薬の副作用を受け入れてまでも延命することに賛成したりはしないはずだ。」
「では、なぜ?」
「彼が自分の病名を正しく認識したら、彼の生命力は、自らその病気を治してしまうのだ。」
「そんなばかな!いくら強い人間でも、治癒力がそこまで・・・。」
「彼はそうなのだ。彼が恐れるのは自分の死ではない。自分が人間に戻ること、つまり、ナチスとしての自分の死、だ。」
「ボルマンさん、あなたは、そんな彼が恐いんじゃないですか?」
「そう、正直、私は彼が恐いのだ。自分の死を恐れない彼の存在が恐ろしくてたまらないし、彼の存在に、総統や我々ナチスへ影響を及ぼしてほしくない。そして、そんな彼の死を、この目で見届けたいのだ。」
「彼を抹殺する良い機会だ、というわけですね?」
「・・・そう思ってもらって結構だ。では、よろしく頼むよ、ドクター。」
(つづく)