すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「雪の降る光景」第3章13

2008年05月24日 | 小説「雪の降る光景」
 アネットとクラウスが来た日の夜遅くに、その日の公務を終えたボルマンが病室に顔を出した。今日1日の各方面からの報告書を私に手渡し、彼は、先ほどクラウスが座っていたイスに座った。
「君の妹さんたちが来た時、私もちょうどドクターに用があってここに来ていたんだ。」
ボルマンは私の反応を見ているのか言葉を切ったが、私はそれに気づかない振りをして身を起こし、身なりを整えた。
「君の病状についていろいろ聞かれたよ。」
「例えば、どんなふうに?」
私は、今度は渡された報告書を読み始める振りをした。
「兄さんの検査の結果はどうだったんですか、退院はいつ頃になりますか、私たちに何かできることは、・・・。」
「それで、君は何と答えたんだ?」
私は報告書に目を通しながら彼の返事を待った。
「君自身は、・・・そういうことは一度も聞かなかったな。」
私は一瞬手を止めてボルマンの方を向いたが、彼は手を組んで顔を下に向けたままだった。
「ボルマン、君は、妹の質問に、何と答えたんだ?」
「君だ!君のことだ!なぜ私に聞かない?なぜ私を問い詰めんのだ!」
急に感情的になった彼とは逆に、私は異常なほど事務的だった。
 彼が急に声を荒立てた理由を私は知っていた。彼は恐れているのだ。自分と同等の地位と自分よりほんの少し大きな権力と総統からの絶大な信頼と総統への絶大な愛情を持った自分より10歳以上も年下の男。自らの手を血に染めて穏やかな顔で他人の心臓を引きちぎり握りつぶす。そしてハーシェルを罠にはめ、なぶり殺しにした。彼はそんな私を恐れ、ひどくびくついていたが、私にはそんな彼の姿がひどく滑稽に見えた。


(つづく)

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