

私は今年の春から庭の片隅で家庭菜園を始めました。雑草がはびこった一画を掘り
起こし、培養土や肥料を混ぜて土作りをしたあと、トマト・ナス・キュウリなどの苗を
植えました。
いよいよ今日は待ちに待った収穫の日。ハサミを持って畑に向ったところ、何やら話
し声が聞こえてきたので、そっと近づき耳を傾けてみました。
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トマト :ナスさんとキュウリさん、葉っぱは私と同じ緑色なのに、どうしてナスさん
の実は紫色で、キュウリさんは緑色なの?赤くならないと子孫が残せない
と聞いているんだけど・・・
ナス :トマトさん、私はあなたのきれいな赤色がうらやましいわ。形も丸くて、
とてもかわいいわね。
キュウリ:私はトマトさんも、ナスさんもうらやましいの。ナスさんは大きな水滴の
ような形でとても素敵よ。私たちの仲間は味気ない真っ直ぐか、
変に曲ったりとかの不揃いで、ひとつも自慢できるものがないのよ。
トマト :とんでもない。キュウリさんには枝をつかむツルがあるから、風が強くて
も倒れない丈夫さがあるじゃないの。
私にはとてもマネができないところね。
ナス :ところでさっき、トマトさんは「赤くならないと子孫が残せない」と言っ
てたけど、どうして赤くならなきゃいけないの?
トマト :私は花の時は黄色で、実に変わるときは葉と同じ緑色なの。ここまではキュ
ウリさんと一緒ね。でも成長して熟してくると「リコピン」という色素を
身体に一杯作って、赤色に変化するのよ。
目立つ赤色に変化して鳥や動物に食べてもらい、種を遠くへ運んでもらう
ためなの。だから、どうしてナスさんやキュウリさんは赤くならないのか
な?って、いつも不思議に思ってるのよ。
ナス :トマトさんが赤くなる理由は分かったわ。私が紫色なのは「ナスニン」とい
う色素を持っているからなの。私は紫外線に弱くて、ナスニンが無いと病
気になってしまうのよ。余分な話かもしれないけれど、太陽の光を遮断し
て光があたらないまま大きくなると白いナスになるの。
でも、戸外で成長するためには紫外線にあたらない訳にはいかないでしょ。
だから、紫外線から身を守るためにナスニンを作って紫色になるの。
そういえば、あなた達と違って花の色も紫ね。
キュウリ:なるほど、なるほど。ねえ!私は最初から最後まで緑色だと思われているよ
うだけど、熟すと黄色になるのよ。知ってた?
トマト :エッ!じゃ~、どうして緑色で収穫されるの?それに熟すとなぜ黄色なの?
熟したら私と同じ赤色になるんじゃないの?
キュウリ:緑色で収穫される理由ね~。じつを言うと、私たちはある時期まで黄色く
熟した状態になってから、果物感覚で食べられていたの。
だけど、甘いマクワウリなどが出てきたので、野菜として作られるように
なったのよ。シャキシャキ感が結構好評なの。
緑色の姿でしか皆さんと会う機会がないので緑色と思われているけど、
これはしかたないわね。
私が黄色になるのはトマトさんのように鳥に見つけてもらうためではな
いのよ。成長を自分でやめるからなの。成長をやめると葉緑素を作らな
くなって黄色になるのね。枯れてしまう前のお色直しってとこかな?
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これを聞いて、私は納得しました。トマトの赤、ナスの紫そしてキュウリの緑色には
それぞれ、野菜なりの理由があったのですね。
収穫の手が少し鈍りましたが、思い切ってハサミでチョキン、チョキン。