
姉:あのネェ~、お願いがあるの。聞いてくれる?
妹:イヤだ!イヤだ!私にとってお姉さんのその言葉は危険信号だわ。これまで何度も
痛い目にあったから、今日はきっぱりと断ります。
姉:まだ何も話してないじゃない。あなたは私の妹でしょ。困っている姉を見過ごすな
んてことはできないわよね。私はあなたが赤ちゃんの時、おしめを何度も取り替え
てあげたのよ。
妹:また、いつものセリフね。残念ながら、私の記憶にはございません。一応、話だけ
は聞いてあげる。でも断るからね。
だって、私のお気に入りのセーターを貸したらコーヒーをこぼしてシミだらけにし
たし、3日前には私の靴を履いて出かけて、ヒールを折ってしまったわ。
だから“何かを貸して”という相談だったら絶対にお断りよ。
姉:過去のことは持ち出さないの。でも私の話を聞いてくれるのね。実は今度の日曜日、
初デートなのよ。 ♪こまっちゃうな、デートに誘われて♪
妹:その歌、コマーシャルで聴いたような気がするわね。だけど、本当にデートなの?
信用できないな。誰とどこへデートに行くの?ちゃんと答えられる?
姉:答えられるわよ。当たり前じゃない。相手は小学校時代に同じクラスだった平田君
よ。場所は駅前のファミレス。
妹:平田さんなら知ってるけど、彼がお姉さんをデートに誘うとは思えないな。それに
場所がファミレスって、ちょっと変よ。
姉:あら、変かしら?8年ぶりに開くクラス会について、話をしたいって言ってたわ。
妹:やっぱりね。それはクラス会の打ち合わせで、他にも何人か同級生が来るんでしょ。
デートとは言えないわよ。
姉:厳しいことを言わないで。私はデートのつもりで行くんだから。
妹:ふ~ん、じゃあ、デートってことにしておくか。ところで、お願いって何なの?
姉:よくぞ聞いてくれた。私の部屋に洋服を並べてあるの。どれを着て行けばいいか、
相談に乗ってくれないかな?
妹:そういう話なら喜んで相談に乗るわ。私のほうがおしゃれのセンスはいいからね。
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妹:あら、いやだ。ここに並んでいるのは私の物ばかりじゃない。いつの間に並べたの?
姉:私、陸上部だから持ってるのはジャージばかりで、デートにふさわしいオシャレな
洋服が無いのよ。貸したくない気持ちはわかるけど、お願い、そこをなんとか。
妹:また、いつもの口癖だ。貸さないって、さっき言ったでしょ。
姉:あなたは本当にセンスがいいわね。ここにある服はどれも素敵よ。将来、ブティッ
クを開けば、きっと千客万来だと思うな。特にこの淡いブルーのワンピースは上品
で、初デートの洋服としては最高よね。私が着ても似合いそうじゃない?
妹:フフフ、お姉さんにほめられると嬉しいな。おっと、待った!お姉さんのほめ殺し
には用心しなくちゃ。アブナイ、アブナイ。
姉:借りるのは今回限りにするから。ネェ、お願い。ついでなんだけど、そこにある
バッグはこのワンピースにピッタリだから、これもなんとか貸してくれないかな?
姉の初デートを応援してよ、貸してくれないと、本当にこまっちゃうの、グスン。
妹:得意のほめ殺しと泣き落としの術で攻めてきたか。そのワンピースはまだ一度も着
ていないのよ。また汚されたら大変だから、やっぱりイヤよ。
姉:そこをなんとか!ついでにバッグもなんとか!私のお願いを聞いて!
妹:姉の初デートか~。いつも私の弱いところを突いてくるのよね。
今回も、また何かをしでかしそうな予感がするわ。困ったお姉さんだこと。
う~ん、わかった。貸してあげる。ア~、言っちゃった。
姉:ありがとう!やっぱり持つべきものは優しい妹よね。デートの帰りに、駅前のお店
であなたの好きなクッキーを買ってきてあげるね。
妹:はいはい、美味しいクッキーをお待ちしていますよ。でも、お願いだから、食べ物の
シミをつけたりしないでね。気をつけてよ。
姉:心配いらないわ。
妹:その一言も、私を不安にさせるってことに全く気付いていないのね。ア~ァ。