動物村では美しく色付いていた木の葉が木枯らしに吹き飛ばされて、いよいよ冬の気
配が漂い始めました。冬眠をしない動物村の住民たちにとって、雪が積もる冬は食料の
確保が難しく、空腹と寒さに耐えなくてはならない辛い季節です。でも仲良し3人組の
子供たちはそんなことには無頓着で、寒空の中を、今日も元気に走り回っています。
ミミ :ねえねえ、聞いて。長老に面白い遊びを教えてもらったの。一緒にやろうよ。
コン太:何という遊びなの?
ポン吉:本当に面白いのかい?
ミミ :あのね、「お芝居」といって、自分とは別のものになりきってお話をするみ
たい。
コン太:お芝居って何?なりきるって、よくわからないな。
ポン吉:僕も分からないよ。例えば僕がコン太になるのかい?なれるわけないじゃない
か。
ミミ :う~ん、説明するのが難しいな。あっ!長老だ。長老に直接、説明してもらう
のが手っ取り早いな。長老!
長老 :よっ!仲良し3人組はいつも元気だな。
ミミ :この間、教えてもらった「お芝居」をみんなでやってみたいんだけど、うまく
説明できないの。長老から説明してくださいな。
長老 :おお、いいとも。皆は大雪で外に出られない時など、両親から昔話を聞かせて
もらうよね。そんな話の登場者になったつもりで演じるのがお芝居だよ。
コン太はどんな話がお気に入りなのかい?
コン太:僕は「カチカチ山」が好きだな。ポン吉のことを思い出して笑っちゃうんだ。
ポン吉:ひどいな。俺はあんな悪いことはしないぞ。でも演じるってどういうこと?
長老 :芝居の筋書きに従って体を動かしたり、セリフを言うことだよ。
コン太:えっ、セリフって何?
長老 :登場者が声を出して言う言葉や文章をセリフっていうんだ。
ミミ :ねっ、面白そうでしょう。私がお姫様をやるから二人は家来になってよ。
コン太:そんなの嫌だよ。僕がネコで、二人はネズミになって逃げるっていうのはどう?
ポン吉:ずるいな、二人共。自分だけ良い役をやるなんて許さないよ。
長老 :これこれ、ケンカはだめだよ。今夜、3人のセリフを考えておこう。暗くなっ
てきたから、今日はこれで解散じゃ。早くお家にお帰り。また明日、会おうな。
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ミミ :長老、セリフはできた?私は何の役?キレイな女の子の役がいいな。
長老 :ミミは希望通り、美人の役だぞ。今日のお芝居の題名は「かぐや姫」。
おじいさんが偶然に、竹やぶで見つけた小さな女の子が美しい娘に成長して、
たくさんの若者たちから結婚を申し込まれるのじゃが、その子はもともと月の
住人だったので、お迎えが来て、月へ帰っていくという話じゃ。
コン太はおじいさん、ミミはかぐや姫、ポン吉はかぐや姫をお嫁さんに欲しい
と家に訪ねてくる若者の役をやってもらうことにしよう。
わしは話の進行係り。わしが指を差したら、それぞれの役柄のセリフを言うん
だ。どうだ、うまくできるかな?
コン吉:面白そうだけど、僕はおじいさんだよね。どうやったらおじいさんになれるの?
長老 :本当のおじいさんになるんじゃなくて、声と仕草でおじいさんらしく演じるん
じゃ。
ポン吉:僕はどんな感じの若者を演じればいいの?
長老 :ちょっと威張った感じで話すといいな。
長老 :これから、それぞれの役柄のセリフを教えるから覚えるんだぞ。話す順番は
わしが指示するから、それに従ってくれればいいんじゃ。
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こうして、長老と3人組は「かぐや姫」の芝居に夢中になりました。
そしていよいよ、かぐや姫が月に帰って行くシーンです。
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コン太:(おじいさんになって)
かぐや姫よ~、月に帰っても元気に暮らすのじゃぞ~。
ポン吉:(若者になって)かぐや姫!私のことを忘れないでくださいよ。
ミミ :(かぐや姫になって)皆さんもお元気で。さようなら、さようなら。
長老 :いや~、よかった、よかった。みんな、とても上手だったな。
おや?ミミが泣いているぞ。どうしたんだい?
ミミ :何だか、本当にサヨナラをしたみたいになって悲しくなったの。
あらっ!空からも白い涙が落ちてきたわ。
ポン吉:アッ、雪だ!
コン太:ホントだ。初雪だ!わ~い、今年も雪ダルマを作るぞ。
ポン吉、滑り台も作ろうね。
ミミ :私もやる~、絶対、去年より大きいのを作ろうね。
長老 :やれやれ、この変わり身の速さが、仲良し3人組の特技じゃのう。
初雪か!村の住民に冬支度を急ぐように伝えねばならん。これから、しばらく
は困難な日々が続くな。動物村のみんなが無事に春を迎えることを祈るばかり
じゃ。さて、わしも帰るとするか。