人間国宝 文化功労者 日本芸術院会員
「神谷町!!」
歌舞伎座の舞台で芝翫さんが登場すると、きまってそんな大向うがかかったものだ。
東京では役者が住んでいる町名を云うのが慣例だとしても、芝翫さんに掛る「大向う」には、昔からの"ならわし”が今も息づいている。
歌舞伎界を支えた名女形が逝った。 83歳だった。
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ことし9月1日に新橋演舞場で出演した「秀山祭九月大歌舞伎」の淀君が最後の舞台になった。
それも初日だけの舞台で、2日目以降は長男の福助が代役を務めた。
淀君は驕慢で、気位が高く、女王のような風姿は芝翫さんにピッタリの役だった。
二男の橋之助が裸武者を演った当時から、芝翫さんの淀君を見ているから、半世紀ちかく芝翫の淀君と付き合ったことになる。
古風で、「位」と「気品」とを兼ね備えた女形は、芝翫さんのほかに知らない。
丸本歌舞伎は云うに及ばず、世話もの、書きものなど、数々の名舞台を見てきた。
いずれも品と格のある舞台であった。
『九段目』の戸無瀬、『十種香』の濡衣、『盛綱陣屋』の微妙、『道明寺』の覚寿。
世話ものでは『文七元結』の角海老の女将、書きものでは『お江戸みやげ』のお辻など。
芝翫さんの名舞台を挙げれば、月並みな言葉ですが、枚挙にいとまがありません。
また芝翫さんは大の競馬好きで知られています。
入院中に100円で買った馬券が最後は80万円になったという。
勘三郎(←娘婿)さんたちに「お前たちには3000円しかやらないよ!!」といったそうだ。
「ケチだね」と勘三郎さん。
これをきいて私は『お江戸みやげ』で芝翫さんが扮したお辻というケチ婆さんを連想した。
12月の「京の顔見世」で、お辻をこんどは三津五郎さんが務める。
新しくなる歌舞伎座の開場、孫勘太郎さんの勘九郎襲名を控えて、芝翫さんの口上を楽しみにしていたのに残念でなりません。
どうぞ天上界でゆっくりおやすみください。そしてこれからの歌舞伎界を見護ってやってください。 合掌
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