病院の帰り、いつものように近くの図書館へ。
模様替えをしたらしく、いつもの書架にいつものジャンルの本がなかった。そのかわり、外国語の本コーナーがあり、英語以外の本がいろいろ。中国語に混じって日本語も。その中に、森瑤子の文庫本があった。「女ざかり」
バブル期にたくさんの小説を書いて、五十代で急逝した著者。あれほど人気だったのに、これまで彼女の本は読んだことなかった。この一冊がいかなる経緯でカナダの場末の図書館に流れついたのか?そっちのほうに興味があって、借りてみた。
なるほどこういう小説だったのか。
彼女は作り上げられたイメージと裏腹に、古風な尽くすタイプの女性だったのだな。定職のない外国人の夫と子供三人を食べさせるために女一人で稼ぐのは、さぞ苦しかったろうに。そんなことはおくびにも出さず、優雅で華やかな生活の幻想を作りあげ、最後までそのように生きてみせた。明治の女のような、ものすごく芯の強い女性。
若い死を悼むファンが多かったが、しかし、もし彼女が長生きしていたら幻想的生活はどこかで必ず破綻していただろう。短かったからこそ、鮮やかな印象を残して一陣の風のように消え去り、ほんとうの姿を見せずにすんだ。
もう二十年も昔の、風のひとであった。
模様替えをしたらしく、いつもの書架にいつものジャンルの本がなかった。そのかわり、外国語の本コーナーがあり、英語以外の本がいろいろ。中国語に混じって日本語も。その中に、森瑤子の文庫本があった。「女ざかり」
バブル期にたくさんの小説を書いて、五十代で急逝した著者。あれほど人気だったのに、これまで彼女の本は読んだことなかった。この一冊がいかなる経緯でカナダの場末の図書館に流れついたのか?そっちのほうに興味があって、借りてみた。
なるほどこういう小説だったのか。
彼女は作り上げられたイメージと裏腹に、古風な尽くすタイプの女性だったのだな。定職のない外国人の夫と子供三人を食べさせるために女一人で稼ぐのは、さぞ苦しかったろうに。そんなことはおくびにも出さず、優雅で華やかな生活の幻想を作りあげ、最後までそのように生きてみせた。明治の女のような、ものすごく芯の強い女性。
若い死を悼むファンが多かったが、しかし、もし彼女が長生きしていたら幻想的生活はどこかで必ず破綻していただろう。短かったからこそ、鮮やかな印象を残して一陣の風のように消え去り、ほんとうの姿を見せずにすんだ。
もう二十年も昔の、風のひとであった。