私は書庫を建てるほど本を持っていないが、蔵書が一万冊を超えると書庫は必要だろう。田舎暮らしならいざ知らず、東京などの都市生活者が書庫を建てるのは経済的にも負担がかかり大変だ。立花隆氏のねこビルは有名だが、氏は本の整理等に秘書を雇っているくらいだから桁違いの蔵書量だ。松原氏は東大教授で経済学の先生だが、杉並区・阿佐が谷に10坪ほどの土地を購入して書庫を建てるまでの経過を記したものである。堀部氏は若手の建築家で、松原夫人がカフエーを開くときに店の建築を依頼した人である。こう書くと、都会のインテリ夫婦が、新進気鋭の建築家に書庫の建設をいたいして、その出来が素晴らしいものになったという最近よくある自慢話かと思われるが、ちょっと違う。
それは書庫に仏壇を備え付けるという、一見奇異な取り合わせの中で、松原氏の人生が語られるというしくみになっていることだ。氏はもともと神戸の出身で、祖父が商売で成功して財をなし、幼少期はおぼっちゃまとして過ごし、灘中・高から東大へ進んだ。祖父の自慢で、溺愛されたが、一方で父との折り合いが悪く、家運も傾いたこともあり、父の晩年は絶好状態であったようだ。その辺の確執が赤裸々に語られており、結構な家でも中に入ればいろいろあるんだなあと思わせる。故郷を離れて生活している田舎の長男が、父や母そして家をどうするかというのは松原氏ならずとも悩ましい問題である。田舎へ帰れない以上、親の死後はその家を処分してということになるのだろう。氏が書庫に仏壇をというのは、地方の長男としての責務と考えたのだろう。
東大教授といえども給料が飛び抜けて高いわけでもなく、書庫建設を巡って経済的に苦しい側面もちらほら見えて共感を呼ぶ。著者の人柄が表れていて交換が持てる。家を継ぐのもそう簡単ではない。
それは書庫に仏壇を備え付けるという、一見奇異な取り合わせの中で、松原氏の人生が語られるというしくみになっていることだ。氏はもともと神戸の出身で、祖父が商売で成功して財をなし、幼少期はおぼっちゃまとして過ごし、灘中・高から東大へ進んだ。祖父の自慢で、溺愛されたが、一方で父との折り合いが悪く、家運も傾いたこともあり、父の晩年は絶好状態であったようだ。その辺の確執が赤裸々に語られており、結構な家でも中に入ればいろいろあるんだなあと思わせる。故郷を離れて生活している田舎の長男が、父や母そして家をどうするかというのは松原氏ならずとも悩ましい問題である。田舎へ帰れない以上、親の死後はその家を処分してということになるのだろう。氏が書庫に仏壇をというのは、地方の長男としての責務と考えたのだろう。
東大教授といえども給料が飛び抜けて高いわけでもなく、書庫建設を巡って経済的に苦しい側面もちらほら見えて共感を呼ぶ。著者の人柄が表れていて交換が持てる。家を継ぐのもそう簡単ではない。