本書は、西洋絵画の巨匠とその名作を紹介するYouTubeチャンネル『山田五郎 オトナの教養講座』にアップした動画の中から、印象派とその関係する画家の部分をまとめたものである。私はこの動画のフアンで、山田氏の博識と説明の周到さにいつも感心している。時折混ざる大阪弁もご愛敬というか気さくな感じがあって、この番組の人気の要因になっていると思う。年譜によれば、氏はもともと東京生まれだが、小学生の時父上の仕事の関係で西宮市に移り、その後中学高校時代を豊中市で過ごし大阪弁をマスターしたらしい。
西洋絵画に関する啓蒙的な本で先駆的なものは、高階秀爾氏の『名画を見る眼1・2』(岩波新書)だろう。最近カラー版の改訂版が出たが、今読んでも50年前の古さは感じない。残念ながら高階氏は10月17日に92歳で逝去された。次にこの分野で西洋絵画の普及に功績のあった人と言えば、中野京子氏だろう。絵画をめぐる人物と歴史をわかりやすく説明して大変な人気だ。中野氏の成功以後、西洋名画に関する本が爆発的に増え、特に新書市場をにぎわせている。そして最近は「印象派」に関するものが相次いで出版されている。本書や『旅する印象派』(富田 章 東京美術)などがそれだ。因みに富田氏は高階氏の弟子で、10月30日の朝日新聞朝刊に追悼文を書いておられる。
さて本書に戻り中身を概観すると、イギリスで印象主義を先取りしていたターナーにはじまり、ミレー、クールベ、マネ、ブーダンら写実主義者を経て、印象派の中核を担ったバジール、モネ、ルノワール、シスレー、ピサロ、ドガ、カサット、モリゾ、カイユボットとスーラ、ポスト印象主義のセザンヌ、ゴーガン、ゴッホと、計18人を紹介している。どの画家のエピソードも面白く、作品が沢山紹介されているので、読んでいて楽しい。冒頭のターナーについては、夏目漱石の『坊ちゃん』で有名だ。坊ちゃんが教頭の赤シャツ、美術教師の野だいこと釣りに行き、松を眺める場面。「あの松を見給え、幹が真直で、上が傘のように開いてターナーの画にありそうだね」と赤シャツが野だにいうと、野だは「全くターナーですね。どうもあの曲がり具合ったらありませんね。ターナーそっくりですよ」と心得顔である。ターナーとは何のことだか知らないが、聞かないでも困らないことだから、黙っていた。ーーーーー。赤シャツと野だが話題にしたターナーの作品は「金枝」(1834年)で確かに赤シャツの言う通りの図柄である。私は少年時代からこの部分が好きで、漱石ってなんと洒脱な作家なんだろうと彼のフアンになった。野だの太鼓持ち的なお追従と赤シャツのぺダンティックなターナー発言。まさに江戸落語の世界だ。漱石はロンドン留学中にターナーの画を何度も見たのであろう。本当に教養がある。この資質は田舎者の森鴎外には残念ながらない。ターナーの「ラム城 日の出」や「緋色の日没」などは明らかにモネの「印象 日の出」を先取りしている。
取り上げられた18人の画家のエピソードはそれぞれの画家の人生をたどって作品との有機的関係を読者に提示する。その中で多くの優れた考察が味わえる。中では上記のモネの項が個人的には面白かった。モネははじめ人物画を描いていたが、その後それをやめて修行のように睡蓮ばかり描き続けたが、それはなぜかという問題。著者の回答は、本書で確認してもらいたいが、人間の感情をガチっとつかんでいてさすがと思わせるものであった。本書はいわば18篇の短編小説集のようなもので、おまけに絵画作品も目で味わえるので、読んでいて楽しい。
最近の「オトナの教養講座」で山田氏は自身がガンであることを発表された。どこの由来のガンかは不明だが、肝臓や骨に転移しているとのこと。私は大いにショックを受けたが、放射線治療の効果で元気を取り戻したことを聞いて少し安堵した。ガンとの戦いは大変だが、頑張って欲しい。そして今まで通りあの軽妙な語り口で博覧強記ぶりを発揮して欲しい。
西洋絵画に関する啓蒙的な本で先駆的なものは、高階秀爾氏の『名画を見る眼1・2』(岩波新書)だろう。最近カラー版の改訂版が出たが、今読んでも50年前の古さは感じない。残念ながら高階氏は10月17日に92歳で逝去された。次にこの分野で西洋絵画の普及に功績のあった人と言えば、中野京子氏だろう。絵画をめぐる人物と歴史をわかりやすく説明して大変な人気だ。中野氏の成功以後、西洋名画に関する本が爆発的に増え、特に新書市場をにぎわせている。そして最近は「印象派」に関するものが相次いで出版されている。本書や『旅する印象派』(富田 章 東京美術)などがそれだ。因みに富田氏は高階氏の弟子で、10月30日の朝日新聞朝刊に追悼文を書いておられる。
さて本書に戻り中身を概観すると、イギリスで印象主義を先取りしていたターナーにはじまり、ミレー、クールベ、マネ、ブーダンら写実主義者を経て、印象派の中核を担ったバジール、モネ、ルノワール、シスレー、ピサロ、ドガ、カサット、モリゾ、カイユボットとスーラ、ポスト印象主義のセザンヌ、ゴーガン、ゴッホと、計18人を紹介している。どの画家のエピソードも面白く、作品が沢山紹介されているので、読んでいて楽しい。冒頭のターナーについては、夏目漱石の『坊ちゃん』で有名だ。坊ちゃんが教頭の赤シャツ、美術教師の野だいこと釣りに行き、松を眺める場面。「あの松を見給え、幹が真直で、上が傘のように開いてターナーの画にありそうだね」と赤シャツが野だにいうと、野だは「全くターナーですね。どうもあの曲がり具合ったらありませんね。ターナーそっくりですよ」と心得顔である。ターナーとは何のことだか知らないが、聞かないでも困らないことだから、黙っていた。ーーーーー。赤シャツと野だが話題にしたターナーの作品は「金枝」(1834年)で確かに赤シャツの言う通りの図柄である。私は少年時代からこの部分が好きで、漱石ってなんと洒脱な作家なんだろうと彼のフアンになった。野だの太鼓持ち的なお追従と赤シャツのぺダンティックなターナー発言。まさに江戸落語の世界だ。漱石はロンドン留学中にターナーの画を何度も見たのであろう。本当に教養がある。この資質は田舎者の森鴎外には残念ながらない。ターナーの「ラム城 日の出」や「緋色の日没」などは明らかにモネの「印象 日の出」を先取りしている。
取り上げられた18人の画家のエピソードはそれぞれの画家の人生をたどって作品との有機的関係を読者に提示する。その中で多くの優れた考察が味わえる。中では上記のモネの項が個人的には面白かった。モネははじめ人物画を描いていたが、その後それをやめて修行のように睡蓮ばかり描き続けたが、それはなぜかという問題。著者の回答は、本書で確認してもらいたいが、人間の感情をガチっとつかんでいてさすがと思わせるものであった。本書はいわば18篇の短編小説集のようなもので、おまけに絵画作品も目で味わえるので、読んでいて楽しい。
最近の「オトナの教養講座」で山田氏は自身がガンであることを発表された。どこの由来のガンかは不明だが、肝臓や骨に転移しているとのこと。私は大いにショックを受けたが、放射線治療の効果で元気を取り戻したことを聞いて少し安堵した。ガンとの戦いは大変だが、頑張って欲しい。そして今まで通りあの軽妙な語り口で博覧強記ぶりを発揮して欲しい。