学力と階層 苅谷剛彦 朝日新聞出版
最近の学力テストの成績の開示をめぐって、教育委員会と首長が対立するという構図がマスコミの話題となっている。そもそもこの学力テストを始めた中山前文部大臣なる人物の胡散臭さは、あの辞任劇を見ても明らかなのだが、某知事は文部大臣の「日教組の強い地域の学力は低い」という暴言を、真理をついているなどと持ち上げたものだから、一挙に論争に火が点いた。今、日本国中、学力テストの成績をどう上げるかという、非常に矮小な議論が横行して、教育の本質が忘れられようとしている。知識のみが学力であるという考え方に押されがちの昨今だが、見えない学力をどう保証するかという視点は忘れてはいけない。小学生がお受験のために、夜の9時、10時まで塾で勉強するという状況は、確かにおかしい。そういう連中が、難関大学のほとんどを占有して、この国の中枢を支配するという構図はほんとうに寒気がする。
著者によれば、家庭的背景が学力に大きな影響を及ぼすことは確かで、階層が上位になればなるほど、勉強時間が増えるということをデータをもとに分析している。これがひいては義務教育の機会は平等に保たれているかという議論に発展する。子どもは親と地域を選べない、これらは所与のものとして存在する。当然その中には格差がアプリ・オリなものとして存在している。これらの問題一つとっただけで、議論の難しさは実感できる。早寝・早起き・朝ごはん・百マス計算で解決できるような浅薄なものではないのだ。最近の教育議論は問題を単純化しすぎており、危惧すべき状況と言える。著者は深い学識によって、教育の綻びをどう修正したらいいかを第五章で示唆してくれている。どこかのアホな知事が、「オレが日本の教育を変える」とほざいているようだが、この本を読んで勉強せい。