最近明治維新に関する本が多い。その多くは、明治維新の再評価を訴えるもので、内戦の勝者である薩長の立場から近代を捉えた歴史観に異を唱えるものである。すると当然、司馬遼太郎の明治維新肯定論も反論の対象になる。本書の副題は「日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト」で、腰巻のコピーをすべて拾うと次の通り、曰く、御所を砲撃し、天皇拉致まで企てた吉田松陰と長州テロリストたち。偽りに満ちた「近代日本」誕生の歴史。今も続く長州薩摩社会。「維新」「天誅」をとなえた狂気の水戸学が生んだ「官軍」という名のテロリスト。「明治維新」という無条件の正義が崩壊しない限り、この社会に真っ当な倫理と論理が価値をもつ時代が再び訪れることはないであろう。以上。
明治維新の思想的バックボーンとなった水戸学とは、江戸時代水戸藩で興隆した、国学・史学・神道を基幹とした国家意識を特色とし、藩主徳川光圀の「大日本史」編纂に由来するが、幕末の尊王攘夷運動に大きな影響を与えた。藤田東湖や会沢正志斎らが国家の大義を説き、その遂行のためにはテロも許されると言った。「国体」「維新」「英霊」等々、これらの言葉は彼らの著書に出典がある。テロ肯定の考え方は昭和の2・26事件を誘発し、太平洋戦争に繋がり、大きな悲劇を生んだ。著者はテロリズムによって生まれた明治政府の再評価を促すべく、水戸学の批判、「大日本史」を編纂した水戸光圀批判を展開している。
さらにテロ集団に討伐された会津藩をはじめとする佐幕勢力に対する残虐行為は夙に有名だが、これは明治政府の瑕疵として糾弾されるべきだろう。徳川慶喜の弱腰が批判の的になることが多いが、視点を変えれば別のストーリーも可能だ。とにかく明治維新・大政奉還万歳という司馬史観からの脱却が大事と説く。著者は司馬遼太郎の大学の後輩で、言いにくいのだがと断ってはいるが。
ところで今、長州閥の政治の悪弊が頂点に達している。現内閣の集団的自衛権の行使を閣議決定してアメリカの手下になって戦争協力しようとしている首相と副総理は山口県の選出議員である。150年前の内戦の勝利者の子孫に今また苦しめられていることを思うと、今さらながらに維新の罪を感じざるをえない。であるから、例の「靖国史観」も薩長(官軍)の立場から捉えられたもので、その点をしっかり押さえておかないと失敗する。現に官軍に弓を引いた西郷隆盛は祀られていない。
この問題を中国哲学の素養をもとに解説したのが『靖国史観』(小島毅 ちくま学芸文庫)で、話題の「維新」「国体」「英霊」等の水戸学のテクニカルタームを出典も含めて詳しく解説しており、非常に参考になる。小島氏も「靖国」をめぐる歴史認識がめちゃくちゃだと言い、その元凶は「明治維新」にあると断定している。吉田松陰がテロリストだということになると、今放送中のNHKの大河ドラマ「花燃ゆ」の視聴率低下もうなずける。地元の萩市も気勢があがらないだろう。長州閥の現政権にも暗い影を落とすような気がする。
明治維新の思想的バックボーンとなった水戸学とは、江戸時代水戸藩で興隆した、国学・史学・神道を基幹とした国家意識を特色とし、藩主徳川光圀の「大日本史」編纂に由来するが、幕末の尊王攘夷運動に大きな影響を与えた。藤田東湖や会沢正志斎らが国家の大義を説き、その遂行のためにはテロも許されると言った。「国体」「維新」「英霊」等々、これらの言葉は彼らの著書に出典がある。テロ肯定の考え方は昭和の2・26事件を誘発し、太平洋戦争に繋がり、大きな悲劇を生んだ。著者はテロリズムによって生まれた明治政府の再評価を促すべく、水戸学の批判、「大日本史」を編纂した水戸光圀批判を展開している。
さらにテロ集団に討伐された会津藩をはじめとする佐幕勢力に対する残虐行為は夙に有名だが、これは明治政府の瑕疵として糾弾されるべきだろう。徳川慶喜の弱腰が批判の的になることが多いが、視点を変えれば別のストーリーも可能だ。とにかく明治維新・大政奉還万歳という司馬史観からの脱却が大事と説く。著者は司馬遼太郎の大学の後輩で、言いにくいのだがと断ってはいるが。
ところで今、長州閥の政治の悪弊が頂点に達している。現内閣の集団的自衛権の行使を閣議決定してアメリカの手下になって戦争協力しようとしている首相と副総理は山口県の選出議員である。150年前の内戦の勝利者の子孫に今また苦しめられていることを思うと、今さらながらに維新の罪を感じざるをえない。であるから、例の「靖国史観」も薩長(官軍)の立場から捉えられたもので、その点をしっかり押さえておかないと失敗する。現に官軍に弓を引いた西郷隆盛は祀られていない。
この問題を中国哲学の素養をもとに解説したのが『靖国史観』(小島毅 ちくま学芸文庫)で、話題の「維新」「国体」「英霊」等の水戸学のテクニカルタームを出典も含めて詳しく解説しており、非常に参考になる。小島氏も「靖国」をめぐる歴史認識がめちゃくちゃだと言い、その元凶は「明治維新」にあると断定している。吉田松陰がテロリストだということになると、今放送中のNHKの大河ドラマ「花燃ゆ」の視聴率低下もうなずける。地元の萩市も気勢があがらないだろう。長州閥の現政権にも暗い影を落とすような気がする。