最近読んだ中国関係の本の中では、『中国 とっくにクライシス なのに崩壊しない〝紅い帝国〟のからくり』(何清漣・程暁農 ワニブックス新書)と並んで面白かった。1980年代以降の中国共産党の内幕が鮮やかに描かれていて、なぜ彼等が軍拡の道をひたすら歩むのかがよくわかった。
習近平政権が打ち出した「中華民族の偉大な復興」というスローガンは、著者によれば江沢民政権が編み出したサバイバル術(排外的ナショナリズムの利用)の踏襲で、腐敗撲滅運動も自分の政敵をターゲットにした者に限られ、肝心の江沢民の上海閥の腐敗を一掃するまでには至っていない。というのも、習近平は江沢民のお陰で国家主席になったからだ。
著者は言う、1990年代以降の共産党が起こしたナショナリズムは「近代=屈辱」という歴史認識で、普遍的価値観(人権・自由等)という概念を「侵略者」と結びつけることで、その概念にいかがわしいイメージを付着させ、それを相対化しようとする試みの産物であった。固有の伝統文化、過去の屈辱、外敵の存在、民族全体の国際的地位、体面といった点ばかりが強調され、「普遍的価値」という言葉が政権によって禁句と定められている昨今の官製ナショナリズムは「民族の利益」という大義名分のなかに個人の利益を埋没させる全体主義のにおいを強く漂わせていると。まことに正しい指摘と言わざるをえない。このナショナリズムを煽る裏には、共産党幹部の深刻な腐敗とそれに伴う格差問題がある。特に農民に対する地方幹部の搾取は革命前よりひどいのではないかと思わせる。歴代の王朝で農民の反乱によって倒れたものがいくつもあるということを肝に銘ずる必要がある。農民を侮ってはいけない。この内部矛盾を解消するために愛国主義教育がなされ、反日・反米運動のようにそとに敵を作るという流れが出来上がった。経済発展で豊かになった人々は中間層となって民主化の旗手となるだろう、そしてそれが共産党の一党独裁にNOを突きつけるのではないかという西側の思惑は脆くも潰えた。それは地位利用によって富をえた人々は共産党のお陰でそうなったと思うがゆえに擁護こそすれ、批判の対象にはなりにくいからだ。したがって健全な市民層はここでは育っていない。
この辺の事情を著者は次のようにまとめている、結局、富の分配・再配分のシステムを抜本的に改める努力を先送りし、そこから生じる不満の矛先を排外的なナショナリズムの発揚によって国外に向けさせるという党内既得権益派の場当たり的な方策は、論理的に言えば、自らの手で自らの首を絞めるような行為に等しく、政権の長期安定性に対する不安定要因の種を自らまいたことを意味すると。誠に手きびしいが真実だ。『中国 とっくにクライシス なのに崩壊しない〝紅い帝国〟のからくり』でも、共産党資本主義の悪弊を列挙して警告していたが、現実に、この腐敗とそれに起因する格差問題をどうするのか真剣に考えないと共産党の未来はない。台湾併合とか言ってる内に大陸の方が崩壊してしまう可能性はある。
よって中国の軍拡は内部矛盾を隠す手段であるから、党の軍隊である解放軍の待遇改善と装備充実について手抜きができない。また西側からの武器輸入は無理なので、勢いロシアから時代遅れのものを輸入して改良する意外に手がない(空母遼寧はその典型)。しかしアメリカとその同盟国の戦力に比べて劣るものの、威嚇・恫喝・牽制の手段としての効果があるので兵器を量産しなければならない。そして兵器は共産党の既得権益派の手中にある巨大軍需産業にとっては恵みの雨で、国営企業を支配している共産党の幹部に大金がはいることで、軍拡を支える結果となっている。すべて原因は共産党が利権団体になっていることで、しかも自浄能力ゼロの状態だ。共産主義本来の「等しからざるを憂う」という思想はどこへ行ったのか。
最後の著者の言葉、「共産党に自己変革能力はあまりなく、矛盾山積の共産党が支配する中国との安定した共存関係の構築は難しい」は日本の外交にも警鐘を鳴らしている。今の日本で中国と堂々と渡り合える政治家はどれくらいいるのだろう。心配だ。
習近平政権が打ち出した「中華民族の偉大な復興」というスローガンは、著者によれば江沢民政権が編み出したサバイバル術(排外的ナショナリズムの利用)の踏襲で、腐敗撲滅運動も自分の政敵をターゲットにした者に限られ、肝心の江沢民の上海閥の腐敗を一掃するまでには至っていない。というのも、習近平は江沢民のお陰で国家主席になったからだ。
著者は言う、1990年代以降の共産党が起こしたナショナリズムは「近代=屈辱」という歴史認識で、普遍的価値観(人権・自由等)という概念を「侵略者」と結びつけることで、その概念にいかがわしいイメージを付着させ、それを相対化しようとする試みの産物であった。固有の伝統文化、過去の屈辱、外敵の存在、民族全体の国際的地位、体面といった点ばかりが強調され、「普遍的価値」という言葉が政権によって禁句と定められている昨今の官製ナショナリズムは「民族の利益」という大義名分のなかに個人の利益を埋没させる全体主義のにおいを強く漂わせていると。まことに正しい指摘と言わざるをえない。このナショナリズムを煽る裏には、共産党幹部の深刻な腐敗とそれに伴う格差問題がある。特に農民に対する地方幹部の搾取は革命前よりひどいのではないかと思わせる。歴代の王朝で農民の反乱によって倒れたものがいくつもあるということを肝に銘ずる必要がある。農民を侮ってはいけない。この内部矛盾を解消するために愛国主義教育がなされ、反日・反米運動のようにそとに敵を作るという流れが出来上がった。経済発展で豊かになった人々は中間層となって民主化の旗手となるだろう、そしてそれが共産党の一党独裁にNOを突きつけるのではないかという西側の思惑は脆くも潰えた。それは地位利用によって富をえた人々は共産党のお陰でそうなったと思うがゆえに擁護こそすれ、批判の対象にはなりにくいからだ。したがって健全な市民層はここでは育っていない。
この辺の事情を著者は次のようにまとめている、結局、富の分配・再配分のシステムを抜本的に改める努力を先送りし、そこから生じる不満の矛先を排外的なナショナリズムの発揚によって国外に向けさせるという党内既得権益派の場当たり的な方策は、論理的に言えば、自らの手で自らの首を絞めるような行為に等しく、政権の長期安定性に対する不安定要因の種を自らまいたことを意味すると。誠に手きびしいが真実だ。『中国 とっくにクライシス なのに崩壊しない〝紅い帝国〟のからくり』でも、共産党資本主義の悪弊を列挙して警告していたが、現実に、この腐敗とそれに起因する格差問題をどうするのか真剣に考えないと共産党の未来はない。台湾併合とか言ってる内に大陸の方が崩壊してしまう可能性はある。
よって中国の軍拡は内部矛盾を隠す手段であるから、党の軍隊である解放軍の待遇改善と装備充実について手抜きができない。また西側からの武器輸入は無理なので、勢いロシアから時代遅れのものを輸入して改良する意外に手がない(空母遼寧はその典型)。しかしアメリカとその同盟国の戦力に比べて劣るものの、威嚇・恫喝・牽制の手段としての効果があるので兵器を量産しなければならない。そして兵器は共産党の既得権益派の手中にある巨大軍需産業にとっては恵みの雨で、国営企業を支配している共産党の幹部に大金がはいることで、軍拡を支える結果となっている。すべて原因は共産党が利権団体になっていることで、しかも自浄能力ゼロの状態だ。共産主義本来の「等しからざるを憂う」という思想はどこへ行ったのか。
最後の著者の言葉、「共産党に自己変革能力はあまりなく、矛盾山積の共産党が支配する中国との安定した共存関係の構築は難しい」は日本の外交にも警鐘を鳴らしている。今の日本で中国と堂々と渡り合える政治家はどれくらいいるのだろう。心配だ。