ポトスライムの舟 津村記久子 講談社
第140回 芥川賞受賞作で、「十二月の窓辺」を同時掲載した作品集。三十前の契約社員が主人公(ナガセ 29歳)で、目標は世界一周クルージングの旅行代金をためること。彼女は工場に勤めながら、友人のカフエの手伝いやパソコンの講師もしている。母と二人暮しで、その家に友人が子連れで居候と、女ばかりが登場してつつましい日常が淡々と描かれる。ポトスはその日常のありようの象徴と思われる。貧しいが生きがいのある日常だ。
宮本輝の評は「つつましやかに生きている女性の、そのときどきのささやかな縁によって揺れ動く心が、清潔な文章で描かれていて、文学として普遍の力を持っている」と最大級の賛辞を贈っている。私はこの小説を読んで、会社内の上司と部下の関係、仕事の内容が分かって大変参考になった。言って見れば、現代版「女工哀史」「蟹工船」ではないかと思った。派遣社員の虐げられた状況はまさにそれだと思う。一応現代的な、会社勤めという装いを凝らしているが、搾取され、虐げられるという意味では変わらない。しかしそれが、体制批判、社会批判に向かわずに、少ない給料をこつこつ貯めて、世界一周したいというのがなんとも健気だ。女性ばかりが登場するというのも、今風と言えば今風。内向きの絆ばかりが描かれていて、なんとなく息苦しい。芥川賞はほんとにこれでいいのでしょうか?