木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

鬼、河童に濁流の水飲まされるー13

2007年03月29日 | 一九じいさんのつぶやき
 「どうだ?」 
 じいさんは、相変わらず煙をくゆらせながら、俺の顔を見た。
 「どうだ、って言われても・・・・」
 こんな話くらいで江戸時代には河童がいたとは信じられない。
 「与太話だろう、って顔に書いてあるぜ。まあ、この件で喜んだのは例の瓦版屋くれぇで、実際にその場に居合わせた者でさえ、今見たのはなんだったんだろうととまどった。でも、水しぶきもあげねえで泳いでいくことは人間にはできねえし、向こう岸には屋形舟の船頭がずっと水の中を注視していた。人間なら息を継ぐためにどこかに浮かんでこなくてはならねえ算段だが、どこにも浮いてこなかったようだ。するてぇと、やっぱりあれは河童だったと判断するしかねえ・・・」
 「現代ではドルフィンっていうんですが、足ひれをつけて、時代劇の忍者のように筒かなにかで呼吸していたとすれば説明できるんじゃないですか?」
 「河童は屋形舟の方向に泳いでいった。その屋形舟はゆるやかとはいえ、上流に位置していた。その足ひれとやらをつけても、流れに逆らうには結構バタバタしなくてはならねえんじゃねえかな。まあ、いい。話を進めるぜ。実はわっちは時の北町奉行小田切土佐守とつながりがあって、その配下で市井の情報収集などを行っていた。わっちも筆だけじゃ食えなかったから必死だったわけだ。それで、この件も同心佐々木助次郎の手助けをするように言われたんだ。江戸の三大いなせ
と言われた定町廻りの旦那と強面の岡っ引き岩徳とつれだって歩く姿は、なんていうか、自分も強くなったような気がしたもんだ。そいつらと、例の河原へ行ってみると、お約束ごとのように、そこには緑色の手形がついている。わっちにはそれがなにか気になった。そこでその緑色のものの臭いを嗅いでみることにした・・・・」