竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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子を発たす立夏の駅の草の丈  石井直子

2019-05-06 | 今日の季語



子を発たす立夏の駅の草の丈  石井直子

今日は「立夏」。子を「発たす」とあるから、遠くの地に行く子を、駅まで見送っている母親の句だ。この時季だから、おそらく大型連休を利用して帰省していた子が、普段の生活の場に戻っていくのだろう。新入社員かもしれないし、大学生かもしれない。べつに永の別れではないのだから、「見送りなんて大袈裟だよ」くらいは言われたろうが、そうもいかないのが母心である。私の勤め人時代の同僚も、そんな母親を持っていた。今度子が戻ってくるのは、夏季休暇のときだ。日頃は気にもとめない「駅の草」に気がついた作者は、次に会えるときにはこの草の丈もずいぶんと伸びているだろうと、早くもその日を待ちかねているようだ。この「丈」は子供の生長の様子にかけられていて、夏めいてきた季節の明るい別れにふさわしい発語と言えるのでなかろうか。『新版・俳句歳時記』(雄山閣出版・2001)所載。(清水哲男)

【立夏】 りっか
◇「夏立つ」 ◇「夏に入る」 ◇「夏来る」
二十四節気の1つ。暦の上、また俳句ではこの日から夏となる。

例句 作者

プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ 石田波郷
ばりばりとシーツを開く立夏かな 櫂 未知子
毒消し飲むやわが詩多産の夏来る 中村草田男
おそるべき君等の乳房夏来る 西東三鬼
あつと云う間の九十年や夏来る 尾村馬人
紙飛行機遠くまで飛び夏に入る 河野玲子
葱生姜茗荷青紫蘇夏来たる 藤田弥生
立夏とよ大石狩に雪すこし 千葉 仁
夏立つや母乳ゆたかに溢れしめ 木下妙子
蓋あけて干す旅鞄立夏なり 三部斗志夫