goo blog サービス終了のお知らせ 

竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

色町にかくれ住みつつ菖蒲葺く 松本たかし

2019-05-08 | 今日の季語


色町にかくれ住みつつ菖蒲葺く 松本たかし

季語は「菖蒲葺く(しょうぶふく)」で夏。端午の節句に、家々の軒に菖蒲を挿す風習だ。いまではまず見られないが、邪気を除き火災を免れるためとされたようである。掲句には、短編小説の趣がある。何かの事情から、普通の生活者としては立ち行かなくなった。いわゆる「わけあり」の人になってしまった。「色町」は夜間こそにぎわうところだが、昼間は人通りも少なく、まず誰かが訪ねてくる心配もない。おまけに近隣に暮らす人たちは、立ち入られたくない事情のある人が多い。だから、お互いに素性などを詮索したりはしない。「かくれ住む」には絶好の場所なのである。しかし、かくれ住んでいるからといって、完全に世を捨てているわけではない。どこかに、健全な市民社会への未練が残っている。その未練が「菖蒲葺く」に端なくも露出していると、作者は詠んでいる。たまたま、昼間の色町を通りかかった際の偶見だろう。だから、その家の人が「わけあり」かどうかは、本当はわからないのだ。が、なんとなくそう感じさせられてしまうのが、色町の醸し出す風情というもの。偏見だと、目くじらを立てるほどのことでもないだろう。『新日本大歳時記・夏』(2000)所載。(清水哲男)

【花菖蒲】 はなしょうぶ(・・シヤウ・・)
◇「白菖蒲」 ◇「黄菖蒲」 ◇「菖蒲園」
シベリア原産のノハナショウブを原種として、観賞用に品種改良された。江戸系、肥後系、伊勢系に分けられ、江戸系は比較的簡素で群生させて鑑賞するものが多い。藍、紫紺、紅紫、白、絞りなどがあり白か薄紫に濃い紫の脈の走るものが特徴。肥後系は花が大きく切花、鉢物に向く。伊勢系は花弁に繊細なひだや折り目がある優しい姿が特徴。ヨーロッパ原産の黄菖蒲もある。

例句 作者

終りなきごとくに雨や花菖蒲 大木あまり
女傘借りて見てをり花菖蒲 清水基吉
黄菖蒲や姿川には姿橋 大野静枝
つむる眼の中まで晴れて白菖蒲 櫛原希伊子
川はゆく菖蒲の花の耳映し 久保田慶子
白菖蒲剪つて水音をまとひけり 雨宮きぬよ
羽化終へしばかりのさまの花菖蒲 楠戸まさる
菖蒲見の人にまじりて禰宜そちこち 松本たかし