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母の日の常のままなる夕餉かな 小沢昭一
句集『変哲』より、69年5月作。あの小沢昭一である。評者にとっては困った時の「変哲(小沢昭一の俳号でもある)」頼み。変哲の句を出せば安心できるのだ。「母の日」といっても特別なことをするというわけではない(大体そんなもの昔はなかった)、いつもと同じ夕餉につき黙々と食べる。この句には見えない母が曲者ですな。同居の老母かもしれないし、子供たちの母、すなわち作者の老妻かもしれない。その方がむしろ味わい深い。「母の日」は、今年は本日十日。常日頃、92歳の母を老人ホームに入れたきりで、電話一本かけもしない親不幸息子の評者であるが、今年はお見舞にでも行こうかしら。(井川博年)
【母の日】 ははのひ
5月の第2日曜日。アメリカのメソジスト協会に起り、全世界に広まる。母に感謝する日。
例句 作者
母の日や鼻緒の固き母連れて 恩田秀子
子にまかす母の日なにもせぬ疲れ 島村比佐子
わが炊きし仏飯母の日の母に 澤田緑生
母の日の島を遠目に足浸す 吉田鴻司
母の日の水中に皿滑走す 磯貝碧蹄館
母の日や働く母のほか知らず 西 美知子
母の日の風のどこかに子守歌 林 昌華
母の日も身の置きどころ文机 殿村菟絲子