ー目が覚めたら見知らぬ部屋にいて、自分が誰なのか思い出せない。ポケットの中のスマホを手にしても、パスワードが思い出せない。
ここまではよくある記憶喪失もの。ソン・ホンギュ作家の短編、「記憶をなくした者たちの都市」では、町中の人間たちが同時に記憶を失い、戒厳令の敷かれた都市を描きます。
やっとたどり着いた自分の家では、妻と娘が待っていますが、みな記憶はなく、ぎこちなく過ごします。
夫婦には実は息子がいて、今回の事件で亡くなったと聞いても、記憶にない息子の死は実感できず、悲しみもわいてきません。
交通事故で死にそうな娘を前に、彼は父親として2人の思い出を語ります。
思い出などないのですが、彼女を記憶していること、思い出を共有していることが、娘を安心させます。
私が私である、というアイデンティティは私の記憶の中にだけあるのではありません。私一人が記憶をなくしたとして、「あなたはこういう人だ」と言ってくれる多くの関係の中で形作られていくのでしょう。
と、いうことをはっとさせられる短編でした。
今回の『李箱文学賞作品集』では、これが一番面白かったです。
だれだれちゃんのママ、とか、奥さんとか呼ばれるのは正直面倒くさいのですが、そんな関係が私とこの社会をつないでくれているのかもしれません。
ちょうど、小説の発生は個人の発生がなんとか・・・という本を読んでいた時期だったので、個人と記憶について深く考えさせられました。
拙訳があります。読んであげる~、という方は個人的にメールをください。
ぜひメールで送って下さい。お願いします。
来てないみたいです。
もう一度gmailかhanmailで送ってもらっていいですか。