遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉 248 新宿物語(4) ナイフ 他 雑感七題

2019-06-23 15:30:23 | つぶやき
          雑感七題(2019.6.10ー12日作)

  (1) 身近な人や名前に親しんだ人々の死を知るのは
    哀しく 怖い事だ
    自分の生きている空間 土地が少しずつ
    失われ 削り取られてゆくような気がする

  (2) 人間には
    生きなければならない などという  
    決定的理由などない
    生きているから生きている
    それだけの事だ
        生きる理由は自分自身が見付け出し
    創り出すものだ
    その理由を見付け出し得た者だけが
    有意義 豊かな人生を送る事が出来るだろう

  (3) あなたはこの世界に於いて完全に自由だ しかし
    自由はあなただけが持つ特権ではない
    人間 誰もが等し並に持つ持つ権利だ
    その権利を侵す権利は誰にもない
    人は他人との共存の中でのみ生きられる

  (4) 腹に一物(企み)を抱く人間は決して空威張りはしない
    謙虚な人間を装うものだ また
    妙に居丈高な人間は しばしば
    弱みを隠し持っている
    内面に確かな一つの命題を持つ人間は 決して
    周囲の状況に左右されず、右往左往する事はない

  (5) この国の報道機関(マスコミ)の欠点 愚かさ
    独自の価値観 指標を持たないという事
    総てが付和雷同 ミーハー追随でしかない

  (6) 世の中には唯一絶対などというものは
    人(または生命)が死ぬという事実を除いて外に
    何もない 
    自信家は自分の主義主張が唯一絶対だと思い込みがちだが
    誤謬というものだ

  (7) 国が授与する勲章は長い歳月 
    他人には見えない所で地道に努力し
    人の為に尽くして来た人たちを発掘し                      
    その人たちにこそ 与え 与えられるべきものだ
    社会の第一線で華々しく活躍し それなりに
    社会的名誉、地位 名声 報酬を得て来た人たちに
    今更ながらに与える必要などないものだ
    それらは虚栄 虚飾 の
    飾り物以外の何物でもない


         --------


(3)

 少年院では良次は模範的でさえあった。あらゆる事柄に他人事のような感覚しか持てない良次には、総てがどうでもいいように思えて、してもしなくても同じ事だった。ただ、そんな中でも良次は、義父に思いを馳せる時には、身内の奥深い所から湧き上がって来る煮えたぎる激情に捉われて、自分を抑え切れなくなっていた。義父への激しい憎悪を募らせ、絶対に復習してやる、と心の内に誓っていた。結局、お母さんもあい奴に殺されたんだ !
 その義父は良次が少年院を出た時には、だが、行方が分からなくなっていた。母と居た住居を引き払い、何処かへ移り住んでいた。良次は張り詰めていた心の支えを失ったような思いで途方に暮れた。

        3

 良次は工場へは出なかった。自分が本心で何を望んでいるのか、自分自身でも分からなかった上に、最初に工場を訪ねた時の年を取った工員達の冷たい、刺すような眼差しや、いかにも迷惑げな社長の顔が眼に浮かんで来て、良次の気持ちを萎えさせた。
 良次は日中、ほとんど話し声の聞こえない四畳半の部屋に閉じこもったまま、人中へ出て行く事もしなかった。
 藤木幸造が訪ねて来たのは、四日目の午後だった。
「工場へ電話をしたら、出ていないって言うんで、心配して来てみたんだ」
 藤木幸造は不機嫌な顔で言った。
「お腹をこわして出られなかったんです」
 良次は咄嗟の判断で嘘を言った。
「そうか。それなら仕方がないが、で、どうだ、具合は ? 良くなったか ?」
「いや、まだ少し」
 良次は眼を伏せたまま言った。
「突然の環境の変化で、馴れないせいかも知れない。社長の方へはわたしの方から電話をしておくけど、良くなったらすぐに出るんだぞ」
 藤木幸造は良次の生活ぶりを探るように部屋中を見廻して言った。
「工場に出る前にわたしの方へ電話をくれるといい。わたしから社長に話すから。その方が君も気兼ねが少なくて済むだろう」
 良次は素直に頷いた。

 良次はその後も、工場へは出なかった。三日が過ぎた夕方、良次の心には重苦しく不安が伸し掛かって来た。このまま工場に出ないでいたら、また、藤木幸造が訪ねて来るのではないか。その時にはなんて言えばいいのか ?
 同じ言い訳が通用するとは思えなかった。
 都合の良い言い訳も思い浮かばなかった。
 結局、藤木幸造と顔を合わせないようにするしか方法はないように思えた。
 翌日、良次は、なぜか、今日にも藤木幸造が訪ねて来るのではないか、という訳もない強い強迫観念に取り付かれて、朝食を済ますと早々に部屋を出た。
 午前九時前だった。
 無論、工場へ行く気はなかった。藤木幸造から逃れる事のみを考えた。
 中野駅前の繁華街へ行くと、地元にいる事の不安から逃れるために、国電の路線地図を頼りに新宿までの切符を買った。
 新宿は良次に取っては初めての街だった。
 電車を降り、ホームの階段を降りた途端に良次は、その巨大さと複雑さにうろうろした。改札口さえ見付けられずに、何度も同じ場所を行ったり来たりした。
 その日、良次は終日、新宿の街を歩き廻わった。夕方になっても、藤木幸造が待っているかも知れないと思うと、帰る気にはなれなかった。
 午後十時過ぎになって繁華街の人込みも薄れて来るようになると、ようやく帰路に着く気になった。
 翌日も同じように部屋を出た。藤木幸造から逃れる事だけが目的だった。だが、良次は無意識の内に新宿の街に魅せられてもいた。地下商店街のきらめくばかりの華やかさ、歌舞伎町の様々な飲食店やゲームセンター。ネオンサインの交錯する街頭の引きもきらない群衆の波。藤木幸造の眼から逃れるには最適の場所に思えた。
 その日も良次は、深夜まで新宿の街をさ迷い、初めてゲームセンターにも入り、終電車で帰った。
 翌朝、良次は七時過ぎにドアを叩く音で眼を醒ました。一瞬、藤木幸造に踏み込まれたか、と緊張した。だが、「石川さん、石川さん」と呼ぶ声は藤木幸造の声ではなかった。
 良次は布団から抜け出すとドアを細めに開け、覗いた。管理人が立っていた。
「昨日、藤木の親父さんが来て、用事があるから外出しないようにっていう事でしたよ」
 六十歳過ぎの痩せ型の管理人は咎めるような眼差しで、ドアのすき間から覗き見をする良次を見て言った。
「何時ごろ来るって言ったんですか?」
 良次は怯えて聞いた。
「さあ・・・昨日は十時頃来たけど」
 管理人は曖昧だった。
「分かりました。どうもすいません」
 良次は取り敢えず、管理人には丁寧な言葉を返して言ったが、気持ちは落ち着かなかった。無論、藤木幸造には金輪際、会う積もりはなかった。と同時に、良次は冷静に考えた。もうこのまま、この部屋に住み続けるわけにはゆかないだろう・・・・。
 その朝、良次は食事も採らないままに部屋を出た。再び、この部屋に帰る積もりはなかった。自分が規則を破り、追跡される身になる事は分かっていた。それでも、あの小さな工場で、工員たちや社長の白い眼差しに見詰められながら生きてゆくよりは、ずっといいように思えた。それに、あの新宿の華やかな街の中でなら、誰にも知られず、ひっそりと生きてゆく事も出来るのではないかという気がした。
 この時良次は初めて、自分が自分らしく、自由な人生を生きてゆけるのではないかと考えた。
 


       kyukotokkyu9190様

       フォロー有難う御座います。感謝申し上げます。
      わたくしも早速、登録させて頂きます。
      今日まで存知上げなかったのですが、とても奇抜な構成で
      興味深く拝見させて頂きました。
       有難う御座います。まずは、御礼まで。