重大な関心を持って(2010.11.3日作)
(この文章は2010年に書いたものですが、この国、日本に於ける政治の無能状態、無責任さは現在に於いてもほとんど変わっていないと思い、掲載します。
当時の政権は安部政権ではありませんでしたが、敢えてどの政権だったかは書きません。現在日本に於ける政治状況は、結局、どの政権であっても同じだと思うからです)
「重大な関心を持って見守ってゆく」
「これからも 常に重大な関心を持って見守ってゆく」
「重大な関心を持って見守り
何か事があれば 必要な対策の手を打つ」
「常に重大な関心を持って監視してゆく」
「これからも 重大な関心を持って見守り
必要な時には断固 処置を取る」
「重大な監視の下 必要性があれば即座に対処する」
「現在の状況は 実体とは掛け離れている
必要な時には 断固対処する」
有言実行 その実行の伴わないままに
国を治める者達が手も無く
この言葉を連発している間にも
この国は日毎に痩せ細ってゆく
大小様々な企業は泥沼に引き摺り込まれ
円高の深みに嵌まり込み 四苦八苦している
平成二十二年 2010年 十月現在
これがこの国の姿 実体なのだ
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サーカスの女(6)
「だけど心配御無用、結果を篤(とく)と御覧(ごろう)じろだ、ねえ。いいかい。お立合い ! この指先に付けたこの薬。よく見ていなよ。これをこうして、ちょいと付ける。ほら ! これでマムシの毒も平気の平左。後は野となれ、山となれ、だ。あたしの知った事っちゃあないよ。お母さん、嘘じゃないよ。嘘だと思ったらお天道様に聞いてみな。あたしゃあね、今日一日だけ、ここでこうして商売している訳じゃないよ。三百六十五日、今日はあっちの祭り、明日はこっちの祭りって、毎日こうして薬を売って歩いているんだ、ねえ。その度に命を落としていたんじゃ、幾つあっても足りないよ。いいかい。この薬があってこそだ。この薬があってこそ、あたしゃあこうして毎日、マムシの毒にも平気の平左、生きている。ねえ。いいかい、みなさん。お立合い ! 切り傷、腫れもの、吹き出物、恋の病に疳の虫、病や怪我に数々あれど、治らぬものは一つもない ! 治らぬものがあったなら、いいかい。お代はいらないよ。そっくり頭を揃えて返してやるよ。あたしゃねえ、いいかい。金儲けのためにこんな事をしいるんじゃあないよ。人助けのためなんだ。分かるかい。さあさあ、ねみなさん、買ってきな。早い者勝ちだよ。このハマグリに一杯入って一つが十円。今時、アンパン一つ買ったって幾ら取られる ? 考えてみりぁ、安いもんだよ。そうだろう、え ? はい、そっちのおばちゃん、幾つ ? 一つでいいの ? 遠慮しなくたっていいんだよ。ものは幾らでもあるんだからね。はい、はい、はい、そっちのおじさん」
「買ってみようか ?」
良二がいかにも欲しそうに言った。
「おらあ、いんねえ」
高志が言った。
信吉は懐具合がさびしくなるのを恐れてその場を離れた。
「だけっど、凄(す)げえもんだなあ。マムシにれ食っががれで(食いつかれ)もあんともねえんだがんなあ」
春男が感に堪えたように言った。
「去年は確か、日本刀で腕ば切ってやってだど思おけっどなあ」
忠助が言った。
「あらあ、ガマの油売りだっぺえよ」
高志が言った。
「あの親父だったど思おけどなあ」
忠助はなおも疑い深く言った。
彼等はそれからいろいろな店を見て廻った。ある店では戸板の上に放したモルモットを売っていた。色の浅黒い、眼つきのきつい女が煙草を吸いながら店番をしていた。時折り、群れを離れたモルモットを素手で掴んでは元に戻していた。
縁台将棋をやっていた。羽織袴を付け、肩の辺りまで髪を伸ばした六十歳ぐらいの男が店の者だった。この男を負かせば将棋代はタダになった。負ければ幾らかの代金を取られた。顔に縦じわの深い、鼻の高い老人はいかにも物に動じない風情で悠然と構えていた。
高志と忠助が将棋を好んだ。二人はなかなか対戦中のその場を離れようとはしなかった。信吉も嫌いではなかったが、途中で飽きてしまうとその場を離れた。
初めから興味のなかった春男と良二、義雄は人群れを離れた場所にしゃがみ込んでいた。疲れたのか、三人ともが黙りこくっていた。
信吉は彼等の傍へ行った。サーカス小屋の方からジンタの音が聞こえて来た。「天然の美」を演奏していた。
「あっ、サーカスの音が聞こえる」
信吉は立ったまま言った。
「うん」
と、春男が退屈そうに言った。
「行ってみねえが ?」
信吉は言った。
「うん、そうだなあ。行ってんべえが」
春男がたいして気乗りもしないふうに言った。
「おらあ、アンパンば買って来(く)べえ」
義雄が言った。
他の三人も真似をした。
四人はそれぞれアンパンを頬張りながらジンタの聞こえて来る方へ足を向けた。
サーカス小屋は境内を裏口から出た広場に小屋を張っていた。
材木を組み合わせて骨組みを造り、テントを絡ませただけの粗末な小屋だった。風が来るとテントの合わせ目から中が覗けた。
ちょうど入れ替え時だった。ピエロの格好をした男達が、入り口の横の櫓(やぐら)の上でジンタを演奏していた。
曲は「サーカスの唄」に変わった。
小屋を出る人、入る人で入り口は混雑していた。
入り口から中を覗いた時、中には相当数の客が入っていた。かなり広い空間だった。
天井が高かった。
舞台の上に網が張られていた。向こう側に空中ブランコが二台、揺れることもなくぶら下がっていた。
綱渡り用らしい網も張り巡らされていた。
淡い照明に舞台が浮き出ていた。その深い奥にライオンか馬かの火潜り用らしい輪も置かれていた。
時折り、半裸体のような衣装の女達や、タイツに身を包んだ男達が舞台を行き交った。
舞台に近い椅子席の六、七割が観客で埋まっていた。
入り口の切符売り場の前では、頭の禿げあがった中年男が声を嗄らして呼び込みをしていた。
信吉は思わず気持ちが引き込まれてゆくような感覚を覚えて、
「へえって(入って)んべえが」
と言っていた。
良二は信吉と頭を揃えて中を覗いていたが、聞こえなかったのか答えなかった。
振り返ると、春男と義雄が半分口を開け、「サーカスの唄」を演奏するピエロ達を見ていた。
信吉は二人のそばへ行った。同じように櫓の上のピエロ達を見上げた。
黙って聞いていると、「サーカスの唄」の哀調を帯びたメロディーが華やかさの中にも、何か、遠く果てしないものを感じさせて信吉を夢の世界へ誘った。
ピエロ達のお道化た造りは陽気で楽しかったが、信吉は彼等が見知らぬ街々を旅しながら、こんな風にして一生懸命生きているのだと思うと、なぜか胸が熱くなるものを覚えて、喉元に込み上げて来るものを意識した。
櫓の上ではピエロ達の演奏が終わり、入れ替わりに黒いタキシードに蝶ネクタイの男が出て来た。
男はすぐに眼の前のマイクに手を掛け、見上げる人々に語り掛けた。
「さて、皆様。次は当一座の誇りますスター、春風京子さんをご紹介致しましょう。開幕までの短い時間ですが、春風京子の歌でどうぞお楽しみ下さい。
場内はそろそろ満員で御座います。当一座の大サーカスを御見物の方々はお早く御入場下さいますよう、お願い致します。
では、春風京子さんどうぞ。
唄は、果てしない大陸をさ迷う男の哀感を唄った、岡晴夫のヒット曲「男一匹の唄、男一匹の唄」で御座います」
タキシード姿の男はそう言うとスマートな身のこなしでテントの中に消えた。
赤いドレスに身を包んだ眼の醒めるようにきれいな女性が代わって登場した。
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takeziisan様
有難う御座います
連休御感想、全く御同感です
お写真、相変わらず美しく
お見事です。最近は外出も少なく
自然に触れる機会もあまりありませんので
このようなお写真を拝見しますと、少なからず
自然に触れ得たような気がして気分が和みます
今後も宜しくお願い致します
デジブック、さぞ、残念であり、心残りな事と
お察し致します。他人事ではない気がします