神経回路(練習)(2020.8.1日作)
習う という事は
神経回路を 繋ぐ作業
神経回路が繋がれば
無意識裡にも 事は運ぶ
失敗に失敗を重ね
如何にしても出来なかった事が ある日
突然 出来るようになる
その日まで 見えなかったものが ある日
突然 見えるようになる
失敗に失敗を重ねている その間
神経回路は少しずつ 伸びている
ある日 突然 それが一つに繋がる
作業は完成する 後の作業は
回路の保全 補強 強靭堅固な
地盤を築く事
作業を怠れば
神経回路は錆び付いて来る
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その夏(1)
一
太陽は暑かった。炎天下に雲の影一つなかった。八月の校庭の白い砂が眩しかった。
百メートルのスタートダッシュを繰り返す伊藤信次の額に、頬に、首筋に、汗が流れた。焦げ茶の練習用パンツも、ブルーのランニングシャツも汗に濡れて、褐色の肌に張り付いた。
「もっと腰を高く、頭から突っ込むように出るんだ。おまえのはヨッコラショって、肥えたご(肥桶)でも担いで出てゆくようなもんだ」
体育主任の清水先生の声も熱を帯びた。
伊藤信次、中学生生活、最後の夏だった。
信次の胸には燃えたぎるものがあった。
信次に取ってこれは、復讐だった。今年十月に行われる郡の中学校対抗陸上競技大会、この機会を逃せば、永久に汚名を雪ぐ機会はないのだ。
信次には、なんとしても勝ちたいという思いが強かった。
相手は彗星のように信次の前に現れた。
今年、五月初め、春の中学生選抜陸上競技大会で信次はこの相手に、思わぬ不覚を取っていた。信次は暫くは自分の敗北が信じられなくて茫然としていた。
白浜中学、伊藤信次、中学一年当時から郡内に知れ渡った名前だった。
一年生の春の大会で信次は三年生をも破って、まず最初の陸上競技大会の優勝を果たしていた。以来、年二回の競技大会で今年の春まで、その栄冠を他人に渡した事は一度もはなかった。それが今年の春、自分にも信じ兼ねる敗北を帰していた。
信次は悔し涙を流す事さえ忘れていた。総てが夢の中の一瞬の出来事でしかなかったような気がしていてならなかった。しかし、それは紛れもない事実だった。
その年の夏休み、陸上競技部合宿には男子十二名の生徒が参加していた。
午前十一時過ぎ、間もなく午前の練習が終わろうかという頃になって、三人の警官が校庭に入って来た。
警官達は校門を入った左手隅で三十分以上も何かを調べていた。
警官達が帰り、練習が終わった後、清水先生が教員室に戻るとみんなは、興味津々、そこへ行ってみた。そこには "姦 "とらしく読める字が砂の上に残されていた。
「あにが、あっただべえがなあ」
少年達はその字の意味が分からなくて口々に言った。
その日、午後一時過ぎになると、村の駐在所の巡査が教員室を訪れた。
教員室には清水先生と理科の木崎先生がいた。
「昨夜(ゆんべ)校庭で、あにが変わったような事があったのには、気が付かながったですかねえ」
初老の黒縁メガネをかけた巡査は言った。
「さあ、別に・・・・」
合宿の責任者の清水先生は言った。
「女の人の悲鳴とが、人の騒ぐような声とが」
巡査は聞きづらい事を口にする口調だった。
「いや、何も・・・・何かあったんですか ?」
清水先生は、何故、そんな事を聞くのか、と訝し気な表情で聞いた。
「いや、てえした事ではねえんだけどもね」
巡査は言葉を濁した後、協力を得るためには真相を打ち明けた方が良いと判断したらしかった。
「実はね、ゆんべ二時過ぎに、校庭の門の脇で三人の男達に襲われたっつう女がいでね。そっで、ちっと、調べでるような訳なんですよ」
巡査は言った。
清水先生はその言葉で、午前中からの出来事の一切を理解したらしかった。だが、先生に取っては不快な話しには違いなかった。
「それが、うちの生徒達だって言うんですか」
と、些か気色ばんで先生は言った。
「いやいや、そういう事ではねえ。何しろ、相手は三人の " 若者 "だっつう事だがら。そっだもんで、そういう騒ぎがあった事に合宿ばしていて気が付かなかったがどうが、あにが、裏付げが欲しいど思ってね」
巡査は言い訳がましく言った。
「でも、そんな事には全く気付きませんでしたね。なにしろ生徒達は昼間の練習で疲れていますんで、ぐつすり寝込んじゃいますから」
清水先生も機嫌を直して穏やかに言った。
「そうりぁ、そうでしょうな」
巡査は納得したように言ってから、その事件が、被害者自身からの届け出に依るものだと説明した。そして、本署に連絡すると三人の係官が来て、今、その裏付け調査中なのだ、とも言った。
噂が村中に広がるのは速かった。
合宿を伴った競技の練習は午後三時からも行われた。その練習には、村の青年団の選手達も参加した。青年団には青年団で、また別の競技大会が控えていたのだ。
青年団の連中は、早くも広まった噂をもとに、信次達、中学生の前でも臆面もなく前夜の出来事を口にした。
「" やられだ "っつうのは、どごのアマッ子(女)だ ?」
「ほら、あの中里の鍛冶屋の嫁だっつう話しだ」
「ああ、あのアマが」
青年団の連中は手に負えない事を話す時の口調で言った。
「やった者達の見当は付いたのが ?」
「いや、ぜんぜん見当が付かねえらしい。第一、そんな夜中に県道ばうろうろしてる人間なんていねがったっつうもん」
「村の内の事だもん、すぐに見当は付くはな」
「そうだよ」
中学生達は、静かな村には珍しい出来事に興味をそそられたまま、聞くともなく聞き耳をたてていた。
その夜、保健室を急改造した合宿部屋で、中学生達は噂に夢中になった。性への好奇心と、潜在意識の中にうごめく欲望が彼等を眠らせなかった。
清水先生は九時の消灯時間と共に、宿直室に引き上げていた。
「中里の鍛冶屋の嫁って、どんな女だ ?」
少年達は信次に聞いた。
合宿仲間の少年達の中では信次だけが中里だった。
「知んねえよ。そんな女」
信次は電燈の消された部屋の中で布団の上に転がったまま、面倒くさそうに言った。
「あんだって、人の嫁が夜中になんがほっつぎ歩いでいだのがなあ」
「親父ど寝でりゃあいいのになあ」
一人がませた冗談を言って、みんなが笑った。
信次の心には動揺するものがあった。
" 鍛冶屋の嫁 " と呼ばれる女を信次はよく知っていた。
県道沿いの、お寺の前の家が" 鍛冶屋 "だった。信次が朝、学校へ行く時にはその家の横を通らなければならなかった。昔、鍛冶屋をやっていたという事で、今でもそう呼ばれていた。三十歳の一人息子と、その母親、嫁の三人暮らしだった。そして、その嫁のある種の評判は、中里にかかわらず、村の中でも若い者達の間では話題になっていた。
信次もその評判は耳にしていた。近所ゆえに顔を合わせれば挨拶もした。大柄で男好きのする丸顔の美人だった。
信次は他の皆んなが明かりの消された部屋の中で布団に横たわったまま、騒々しく騒いでいる中で一人、黙りこくり、その女の顔を思い浮かべていた。
二
秋本つね代が駐在所に駆け込んだのは、その日の朝、七時過ぎだった。
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takeziisan様
いつもお褒めのお言葉を戴きまして
恐縮しきりです
有難う御座います
読み巧者のtakeziisan様であるからこそ
嬉しさも倍増します
小説の背景 そうです
疎開していた当時の記憶を基にしています
大きな背景は借りていますが 細部は創作です
祖母の家の描写は事実です
祖母は豪農で近所にも一目置かれていた家に
嫁いだのですが その相手が酒で身代を潰してしまい
一気にどん底に突き落とされてしまいました
家も祖母が自分一人が住めればという思いで
近所の手伝いをしながら自力で建てたものです
昔の人で字は読めなかったのですが
とても聡明な人でした
紅孔雀 懐かしい曲ですが
井口小夜子が唄っていたんですね
知りませんでした
井口小夜子と言えば戦前の歌謡曲ばかりが
思い出されますので
カラス瓜の花 きれいな花ですね
こういう花が咲くとは知っていましたが
こんなにじっくり見るのは初めてです
昨夜、家では月下美人が開きました
御存知の通り 今朝はもうしぼんでいます
白馬三山 相変わらずのお写真
その美しさを充分 堪能出来ます
登山靴の破れ
わたくしは旅行中にやはり普通の靴の底が
剥がれてしまい 雨の中で難渋した経験があります
その時の事を思い出しました
まあ 歳を重ねて来ると色々の事がありますね
くれぐれもお体を大切に
少しでも元気でいたいものですね