遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(332) 小説 雪の降る街を(5) 他 永遠と今 時は待たず

2021-02-14 12:54:47 | つぶやき
         永遠と今(2021.1.20日作)


 夢見たものは幻
 現実 得た果実は 
 手の中から こぼれ落ちてゆく
 総ては
 真夏の陽差しの中の
 逃げ水
 命の宿した時間の終わりは・・・・・
 無

 今は永遠
 永遠は今
 生は空
 今を生きる
 生き切る

          


          時は待たず

 時は待たず
 遠い彼方へと
 今を運び
 記憶の奥の深い闇へ
 連れ去って逝く
 
 この世の総ては
 夢幻 逃げ水
 蜃気楼



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           雪の降る街を(5)

 成り行きは分からなかった。その時、光男はもう一人の仲間と雪子を追っていた。
 男勝りの雪子は手強い相手だった。それでも男二人の共同戦線には、さすがの雪子も抗し切れずに背中を見せて逃走した。
 積雪は早くも膝下を埋める程になっていた。
 その時、不意に何処からか、雪子の援軍が現れた。三人の援軍は光男の後になった仲間を取り押さえると、寄ってたかって雪の中に押し倒した。だが、必死になって逃げる雪子はその出来事には気付かなかった。光男だけが知っていた。その、三人の女性軍団から逃れためにも光男は、なおも夢中で雪子を追った。
 雪子は更に逃げた。光男は追った。激しい行動に興奮した神経は、二人の行動を極限にまで高めているようだった。遂には疲労困憊した雪子が足を止めた。と同時に雪子は居直ったように振り向くと、両手に一杯の雪を掻き集め、光男に向かって投げ掛けて来た。
 光男も持っていた雪の玉を雪子に投げ付けた。
 雪子は息を切らし、笑い声と共によろけながら身を避けた。
 逃走に全力を使い果たした雪子は力が半減しているはずだったが、それでもなお、気丈だった。光男が一人だと知ると敢然と立ち向かって来た。
 だが結局は、男と女の体力の差と共に、逃走による疲労が雪子の力を奪っていた。雪子は再び、背中を見せて逃げ始めた。そして今度は、息が続かず、逃げ遂せないと知ると障害物を盾にしようとした。校庭の隅の野球用バックネットの裏に逃げ込んだ。
 光男はなおもそこまでも雪子を追い掛けた。興奮した神経が光男の行動を駆り立てていた。
 その時だった。不意に光男は何かに足を取られて、雪の中に顔からのめり込んだ。アッと思う間もなかった。一瞬の出来事だった。バックネットを支える雪の中に埋まった支柱に、足を取られていた。
 それを見ていた雪子は手を叩き、甲高い笑い声を上げるのと共に咄嗟に逆襲に出て来た。両手に一杯、雪を抱え込むと光男に近付き、横たわった身体の上に滅茶苦茶に掛けて来た。更に手で杓い上げながら休む暇もなく掛け続けて来た。
 光男は雪に埋もれそうになって、必死に身をよじりながら逃れ、なおも雪を掛け続けて来る雪子を取り押さえようした。
 しばらくそうして揉み合っているうちにとうとう光男が雪子の手を捉えた。
 雪子は笑いながらのうちにも、必死にもがいてなお、その手を振り解こうとした。
 そうして二人が揉み合っているうちに思いがけず、雪子が何かのはずみで身体の均衡を失った。途端に雪子は光男の上に倒れ込んで来て二人の身体は降りしきる雪の中、積もった雪の上で重なり合った。
 幼い二人はだが、それでもなお、互いの攻防に余念がなかった。縺れ合い、争い合っているうちに、今度は急に雪子が動かなくなった。光男にもそれはすぐに分かって、急に静かになった雪子に不審を抱きながら雪子を見た。
 何があったのか ?
 雪子を見つめる光男の顔のすぐ側には雪子の顔があった。
 雪子はその光男の顔を見つめ返した。
 二人の視線が重なり合った体と共に一つになった。
 同時に光男はその時、自分の身体の上に重なり合っている雪子の肉体の柔らかな感触を自分の肉体の上に感じ取っていた。雪子の柔らかな乳房の感触、腹部の息遣い、それを意識するのと共に光男は、息を呑む思いで身体を堅くしていた。
 無論、動かなくなった雪子もそれを意識していたに違いなかった。
 雪子はそれでもなお、光男の体の上に身体を重ね、光男を見詰めたままで動かなかった。その眼が光男に何かを語り掛けて来ているようにも思えた。
 しかし、それもまた、突然だった。雪子は一瞬の呼吸の間のあと、不意に思い付いたように光男の身体の上から自分の身体を引き離すと、そのまま物も言わずに背中を見せて走り去って行ってしまった。
 後に残された光男には総てが一瞬の間の出来事でただ、呆然としているだけだった。暫くは降りしきる雪の中で雪の上に横たわったままでいた。
 
 光男が教室に戻った時には、みんなは既に戻っていた。
 そのみんなは雪に濡れた顔や頭、手足を拭きながら頬を紅潮させ、盛んに互いの様子を真似して笑い合っていた。
 光男は雪子との思わぬ出来事に胸をドキドキさせながらひっそりと、仲間の一隅に紛れ込んだ。話しに夢中になている誰もが光男を気に掛ける事はしなかった。暫く経って安江が突然、
「あれ、雪ちゃんは ?」
 と言った。
「雪子 ? 知んねえ」
 男子生徒の一人が言った。
「帰ったんじゃないの ?」
 女子生徒の一人が言った。
「だってえ・・・・」
 普段、雪子と一緒にいる事の多い安江には納得し兼ねる事だった。
 光男は雪子がそこに居ない事にもそれまで気付かなかった。
 安江が雪子の机を調べると雪子の鞄はなかった。
「雪ちゃん、帰ったんだあ」
 安江が言った。
「何時、帰ったのかねえ。ついさっきまで、雪合戦してたのに」
 一人の女生徒が言った。
「うん」
 安江も言った。
 光男はみんなからは少し離れた場所にいて、胸の動悸を速めながら無言で小さくなっていた。
 光男には雪子が誰と顔を合わせる事もなく、一人でそっと帰ってしまった事の理由と意味が分かるような気がした。普段の人付き合いの良い雪子にしては考えられない事だった。

 翌朝、光男は教室へ入って雪子と顔を合わせるのが不安だった。雪子がどのような反応を見せて来るのか ?
 光男は何故か自分が、雪子という人間の深い所まで知ってしまったような気がしていて落ち着かなかった。
 光男が教室に入った時、雪子は既に来ていた。何時もと変わらない様子で机に向かっていて、光男が教室に入って行った事にも気付かなかった。



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          takeziisan様

          有難う御座います
          今回もブログ 楽しく 懐かしく
          拝見させて戴きました
          昭和三十年代 何処の地方に於いても
          余り変わりませんね 仰る事の総てが
          わたくしの居た地方にも当てはまります
          深い共感と共に拝見させて戴きました
           汽車の時間 一時間に一本 良い方です
          わたくしの方では二時間に一本でした しかも
          駅まで行くのに一時間は掛かりました
          それが終戦後まだ年月も経たない あの頃の
          世の中の状況だったのではないでしょうか
          「アセクラシクテ」面白い言葉ですね
          初めて知りました
          昔 わたくしの居た地方でもメジロを
          飼うのが流行りまして 夢中になった事もあります
           相変わらずの雑木林などの美しいお写真
          堪能させて戴きました
           有難う御座いました



          桂蓮様

          有難う御座います
          今回 新作が見えませんでしたので
          改めて過去のお作を再読させて戴きました
           「いじめなのか 拒絶なのか」
          世の中には人の心の読めない人間が
          多すぎます 政治家然り 経済界人然り
          あるいは教師 諸々の指導者 
          自分は偉いと思っている
          名前ばかりの人間が多すぎます
           余り世間の噂に惑わされない方が良いようです
          それには自分をしっかり 確立する事ですが
          これにはまた、余程の努力を必要とします でも
          自分を生きる為には 仕方のない事では
          ないのでしょうか
           人は人 我は我 日々 わたしはわたしを生きる
          わたしを生きる しかし わたくしはそんな中でも
          最低 人の心と命は傷つけないよう その事を常に 
          心がけているのですが 現実はどうか ?
           いずれにしても桂蓮様も 心無い中傷などには
          惑わされず 御自身の道をお進み下さい
          陰ながら応援しております