遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(352) 小説 優子の愛(4) 他 時よ 止まれ 

2021-07-04 13:00:53 | つぶやき
          時よ 止まれ(2021.6.25日作)


 時よ 止まれ
 願わくば
 父や母の笑顔の輝いていた
 あの頃に戻してくれ
 わが青春の輝いていた
 あの日々に戻してくれ
 今はただ 失われただけのもの
 あの幾多の恋
 愛した人の数々
 記憶の底に堆積する
 あの事 この事
 喜び 悲しみ 怒りと嘆き
 すべては幻
 遠い日の還らぬ夢
 独りたたずむ時の流れの中で
 過ぎ去りし日々の記憶は
 ふたたび還り来ぬ道ゆえに
 いよいよ鮮やかに 美しく 切なく
 日ごと 迫り来る時の終わりは
 重たく心を覆う



           ----------------



           優子の愛(4)

 優子からの電話も来る事はなかった。
 それでも沖津には、なぜか優子の切羽詰ったような、尋常ではない表情が気に掛かっていた。あの時、強引にでも優子を引き止めるべきだっのか、と何度も考えたが、今となっては、それも虚しかった。相手が資産家だというその財力を考えると、自分がいかにも無力に思えた。優子は生活の安定を第一に考えたのだ、そう思って自分を慰めるより仕方がなかった。
 沖津は優子のいない日々の中で、心の底が抜けたような苦しみに耐えながら努めて、優子の事は忘れようとしてといた。

 あの夜、沖津は人々の視線から逃れるようにバーを出たあと、優子をホテルへ誘う気にもなれないままに、夜更けの街を歩き続けた。しばらく歩いて幾分かの落ち着きを取り戻して来た優子はようやく、何気ない言葉の遣り取りのうちに結婚を考えるようになった経緯(いきさつ)を話し出した。
 学生時代から身辺を語る事の少なかった優子にしてみれば異例の事だったが、状況を考えれば不自然ではなかった。
 その優子によれば、結婚の話しは伯父の口から出た事だった。だが、伯父は何がなんでもという訳ではなかった。伯父にしてみれば、軽い冗談の心算だったらしかった。
「どうだい優ちゃんも、こんな資産家と結婚したら一生、生活に困らなくて済むぞ」
 と言ったが、優子の思わぬ乗り気に伯父自身が一番驚いていた。
 伯父は優子の母の兄だった。母は優子が十一歳の時に亡くなっていた。過労が元の急性肺炎だった。父は優子が八歳の時に女をつくり、家に帰らなくなっていた。
 一人になった優子は伯父の下に引き取られ、何不自由なく大学時代までを過ごした。卒業と同時に自立の意味もあって、伯父の家を出る事になった。伯父も反対はしなかった。
 沖津は大学時代、優子が中野から通っていた事は知っていたが、そこまでの深い事情は知る由もなかった。学生時代、特別に深い関係にあった訳でもない沖津にしてみれば知らないのも当然だった。
 だが、優子はその夜、伯父さえも驚いたという突然の結婚に至るまでの自身の心の裡までは話さなかった。
 その半年後に優子は結婚した。沖津が後になって知った事だった。



          四



 優子から思い掛けない電話があったのは、優子が結婚してから一年半程が過ぎてからの事だった。その時、沖津は優子が結婚していたとは知らなかった。
「わたくし、優子です」
 そう言った声が堅く、明らかに緊張気味であるらしい気配が伝わって来た。
「ああ・・・・」
 沖津は言ったが、突然のその電話には嬉しさよりも、戸惑いの方が強かった。それからぼそぼそした声で仕方なくといったような調子で、
「しばらく・・・・」
 と続けた。それでも不思議にわだかまりはなかった。懐かしさにも似た感情さえがあった。
「突然、お電話などして、御迷惑ではなかったでしょうか」
 優子は丁寧な口調で言った。
「いや、構わないですよ。大丈夫」
 沖津は優子の気持ちをほぐすように打ち解けた口調になって言った。
「あのう、今日、お仕事が済んだあと、何か御予定はおありですか ?」
 優子は遠慮がちに言った。
「いや、別に・・・・ない・・けど」
 沖津は優子の思い掛けない言葉にさすがに戸惑いがちだった。
「宜しかったら、お会いして戴けません ?」
 優子は言った。
「ぼくの方は構わないけど・・・・」
 以前、結婚すると言っていた話しはどうなったのだろう、とその時、沖津は思った。何かその話しに関する相談なのだろうか ?
「御都合、宜しいですか ?」
「はい」
 優子は以前、よく待ち合わせたホテルのロビーを指定した。

 沖津は会社が退けたあと、中途半端な時間を持て余し気味で、それならという思いで優子が指定した午後六時の約束よりは大分早くホテルに来ていた。
 優子は六時五分ほど前に姿を見せた。玄関入り口の回転ドアを押して入って来る優子の姿を一眼見た時、沖津は優子が結婚している身である事を悟った。独身時代とは明らかに違った落ち着いた雰囲気が既にその身を覆っていた。
 沖津は奇妙な緊張感に捉われた。二人の間で親しかったあの打ち解けた雰囲気が無惨にも葬り去られてゆく思いを実感した。
 沖津が声を掛ける前に優子がソファーにいる沖津を見つけた。
 沖津は優子と眼が合うとソファーを立ち上がった。
「御免なさい。お待たせしてしまったりして」
 優子は沖津には懐かしい笑顔で言った。
「いや、ぼくも今、来たばっかりで、ちょっと煙草に火を付けたところなんです」
 と言った。
 優子の何処とない、以前にはなかった大人の雰囲気が沖津を他人行儀にさせていた。
 優子は一見シンプルなスーツ姿だったが、身に付けたアクセサリーには一眼で高価なものと判る雰囲気があった。それが否が応もなく二人の離れていた歳月を沖津に感じさせた。
 二人はほぼ向き合う形でそれぞれにソファーに腰を落ち着けた。
「突然、お呼び立てなどして、御迷惑ではありませんでしたか」
 優子はすっかり身に付いた感じの落ち着いた物腰で、それでも昔のままの少しはにかむような表情を浮かべて言った。
「いや、大丈夫。明日は休みだし」
 沖津は努めて何気なさを装い、昔のままのように言った。
「どなたかと、お約束などあっりしたんじゃないですか ?」
 優子は言った。
「いや、別に。仕事が終われば何時もの通り、相変わらずの寄り道ぐらい」
 優子は軽い笑顔を浮かべた。それから極自然な口調でためらうこともなく、
「わたくし、結婚したんです」
 と言った。
 沖津に取っては改めて驚く事ではなかった。既に察知していた事だった。
「やっぱり、話していた人と ?」
 静かに言った。
「ええ」
 優子も構えるところはなかった。
「どう、結婚生活は。幸せ ?」
「ええ」
 と、優子は同じように言ったが、それでも沖津はなぜかその時、その言葉の中に優子の微妙に揺れ動く心があるように感じ取っていた。学生時代、数々の男達を悩ませた、あの得体の知れない何時も遠くを見ているような眼差しの優子を沖津はふたたび、そこに見ていた。
 沖津はだが、その時、あえてそこには眼を向けない思いが強く働いた。それで今まで通りの何気なさで、
「今日は、どうして ? 何かついででもあっの ?」
 と聞いた。
「いいえ、そうじゃないの」
 優子は言ってから、
「主人が旅行で留守にしているものだから、久し振りでお会いしてみたくなったの」
 と言った。
「いけないね。 御主人のいない間の浮気なんて」
 沖津は冗談めかして言った。
「浮気じゃないの。本当なの。よく考えての事よ」
 優子はむきになったとも思えるような強い口調で言った。
 沖津にはだが、優子のその態度は理解出来なかった。
 何を言っているのか、沖津の理解を超えていた。それで沖津はただ冗談めかして、
「じゃあ、今日は久し振りに食事でもして、呑みに行こうか ?」
 と、昔に還ったような気分で言った。

 
 沖津には何故、優子が自分との時間を求めたのか理解出来なかった。 





          -------------------



          takeziisan様

          コメント 有難う御座います
          こうして書かせて戴いているのも
          わたくし自身 楽しませて戴いている
          事ゆえですので どうかお気に留めずに
          いて下さい 無論 いちいちのコメントなど
          御気をお使いなさらないよう お願い致します
           今回もブログ 楽しませて戴きました
          キョウヨウ 面白いです 初めから
          趣旨は理解出来ましたが なるほどいう
          思いです
           病院は何処も半日がかりですね どうぞ
          奥様共々 お体に気を付けて下さいませ 歳と共に
          少しの事でも身体に響いて来ます 若い頃には
          考えられなかった事ですね
           「雨に咲く花」関種子 懐かしいです
          わたくしは青江三奈の歌が好きです 確か
          アメリカ映画の挿入歌にも使われたはずです
           九重山 今朝(7月4日)NHK番組 「小さな旅」で
          見たばかりでした ミヤマキリシマ つつじが
          見事でした ブログにあるような風景が
          映し出されていました それにしてもよく
          お歩になって良い思い出も多いのではないでしょうか
          「坊がつる賛歌」知っていましたが こうして
          改めて聞いてみるといい歌ですね
           中学生日記 良い日記です これだけのものが
          書ける 感銘しました お見事です
           老年川柳 哀愁があって 俳句とも呼べる
          ものです いつも通り 野菜 花々共に
          楽しませて戴きました
            有難う御座いました
           
       


          桂蓮様

          いつも御丁寧なコメント
          有難う御座います
           北朝鮮との統一反対 いやな感じしか持てなかった
          気の毒なのは北の国民の皆さんなのでは
          ないでしょうか あえて反対を唱えれば
          罰せられる 国民の人達も苦しんでいるのかも
          知れません 人はそれぞれ自分を生きる権利を
          持っているはずですが 独裁国家はそれが  
          許されない 不幸な事だと思います
           ブログ 肌トラブルの自然治癒
          自分の身体の事は自分でしか解決出来ない
          その通りだと思います 以前 わたくしは
          花粉症があり 眼などが真っ赤に張れ上がったり 
          したのですが、指圧をして自分で治しました
          今は出ません 自分の身体の事は自分でしか
          直せない まったくその通りです ここ二三日
          天候不順でそのせいか喉を痛めたらしく 物を
          呑み込むのにも違和感があります 一生懸命に
          指圧をしているところです 薬は飲みません
          基本的に薬は害だと思っていますので
           何時も有難う御座います 英文との併読
          楽しませて戴いています