芸術作品(2021.7.15日作)
芸術とは
人間を映す鏡だ
優れた芸術作品は
どんな種類の作品であれ
観る者の心を 人間性を
的確に映し出す
人の内面 心の奥底をえぐり出し
光りを当てる
それこそが真の芸術作品
美醜だけの判断は 浅薄
誤り易い
芸術の名に於いてシュールな世界を描く時
リアリズムの裏打ちがなければ
ただの奇想になる
戯画は現実感に裏打ちされたものがなければ
ただの駄洒落だ
現実の中に根を張った戯画だけが
真の価値を持つ
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優子の愛(6)
沖津は妻の道代には、かつての部下の結婚式だと偽り通した。
道代は何も疑わなかった。小まめに沖津の身の周りに気を配ってくれた。
「御祝儀は持ちました ね。ハンカチは大丈夫 ?」
沖津には、道代を欺いているという思いはなかった。
道代との間には二十数年にわたって培(つちか)って来たしっかりとした絆がある。今更にそれが、少々の事で揺らぐなどとは考えられもしなかった。
「お式は何時からなんですか ?」
「十一時半からだって言ってた」
「車でいらっしゃるんですか ?」
「いや、タクシーで行く」
「だって、タクシー代が大変でしょう」
「五千円とかからないだろう」
「わたしは嫌ですよ。自分のお小遣いから出して下さいよ」
日曜日の朝で、都内の道路も空いているだろうとは思ったが、時間的には余裕を持って家を出た。
沖津は何故かクラス会にでも出席する時のような、奇妙な心のときめきを覚えていた。
会場のホテルには三十分を越える時間の余裕を持って到着した。
回転ドアを押して中へ入ると、案内板に滝口家の控え室が二階、「竹の間」と書かれてあるのが眼に入った。
沖津はすぐ二階へ行こうとしたが、時間にまだ余裕がある事を知ると、取り合えずロビーの椅子で一休みしてからにしょうと考え直した。
しばらくはロビーの隅のソファーで煙草を吹かしながらぼんやりと、考えという考えもないままに過ごしていた。
受付カウンタの上の時計が十一時を十分程過ぎているのに気付いて腰を上げた。
この時になって沖津は何故か、優子と改めて顔を合わせる事に不思議な緊張感と心の落ち着かなさを覚えていた。
滝口家の控え室の前へ来ると沖津は何人かの人の後で来賓名簿に署名して御祝儀を差し出した。
「どうぞ、中へお入りになって下さい。もう、花嫁さんも支度が出来ていますので」
受付係りの女性が言った。
沖津は様子を見るつもりで室内を覗いた。
明るい窓を背にして正面に白無垢の衣装を付けた花嫁が椅子に掛け、幾分かうつむき加減でいるのが見えた。
傍に寄り添うように立って細やかな心遣いの気配りを見せているのが優子だった。
沖津は入って行って挨拶をしようかと思ったが、なぜかふと、ためらった。
すると優子は沖津のそんな気配に気付いたかのように咄嗟に顔を上げた。
優子はすぐに沖津を認めたらしかった。一瞬、緊張した表情を見せたが、すぐに花嫁の肩に掛けていた手を離すと一言、花嫁に何かを言い、沖津の方へ小走りに走り寄って来た。
「お忙しい中、お出で戴いて本当に有難う御座います」
沖津の前へ来ると優子は改めて丁寧に頭を下げて言った。
「いえ、こちらこそ、お招き戴いて有難う御座います。本日はおめでとう御座います」
沖津も釣られたように他人行儀の挨拶を返していた。
「どうぞ、中へお入りになって、娘を見てやって下さい」
沖津は優子の眼に微かに涙が浮かんでいるのに気付いた。
沖津は何か意外なものを見る気がしたが、すぐに
「有難う御座います」
と言って、優子に導かれるままに室内に入っていった。
花嫁の傍には七十歳を越えたと思われる老婦人が立っていて何かを話し掛けていた。
優子は二人に近付くと老婦人を特別気に掛ける風もなくてすぐに、
「娘の美奈子です」
と言って、見知らぬ男を案内して来た優子に少し驚いたような表情でいる花嫁を沖津に紹介した。それからすぐに優子は、
「学生時代のお友達の沖津さん」
と言って、娘に沖津を紹介した。
花嫁はこの突然の出来事に訳が呑み込めない、といった表情を見せたが、そのまま少し緊張した面持ちで静かに頭を下げて挨拶した。
「本日は御結婚、おめでとう御座います」
沖津は落ち着いた口調で型どおりのお祝いの言葉を述べた。
「有難う御座います」
花嫁は静かに言って、また微かに頭を下げた。
「式場のお支度が整いましたので花嫁さんと御家族、御親戚の方々はお入り下さいませ」
会場係りの男性が告げに来て言った。
「ほら、いよいよ本番だよ」
傍らにいた老婦人が花嫁を励ますように笑顔と共に言った。
優子が椅子を引いて立ち上がった花嫁は、一メートル七十センチの沖津とさして変わらない背丈をしていた。白無垢の花嫁衣裳がよく似合った。細面の目もとが優子にそっくりな美貌をしていた。
「綺麗な花嫁さんねえ」
まわりで囁き合う声が聞こえた。
六
新郎はT大医学部を出て、都内にある国立病院に勤める医師だった。
披露宴の席で並んで座った二人は、思わず溜め息を誘うような似合いのカップルだった。披露宴が済んだあと、午後も遅い便でヨーロッパへの新婚旅行に発つという事だった。
披露宴は盛大だった。新郎新婦の友人達のスピーチが長々と続いて沖津はうんざりした。優子がこのスピーチをどのような気持ちで聞いているのだろう、と思うと沖津はなんとなく気になってそっと、その表情を窺がってみた。
優子は人々の笑いにも新郎の友人達が投げ付ける露骨な冗談にも表情一つ崩さなかった。何かを思い詰めたように独り、ポツネンといった感じの雰囲気で静かに眼の前の料理に箸を走らせていた。沖津はその優子に気付いた時、ふと、ああ、昔の優子がここに居る、という思いに捉われた。
最後になって新郎の両親と並んで新婚の二人から感謝の花束を受け取る時になっても優子は、笑顔こそ見せたものの、涙一つ見せなかった。花婿の両親が共に眼を真っ赤にしているのとは対照的な構図だった。
沖津は披露宴が終わって会場を出ると、優子に一言挨拶して帰りたいと思った。しかし、優子の姿が見えなくてうろうろしていた。そのうちに取り残されたように最後になってしまい、仕方なくエレベーターに乗ってロビーへ降りた。
ロビーでは今しがた披露宴の会場から出て来た人達でごった返していた。沖津はその中にも優子の姿を探したが、やはり見当たらなかった。それで諦めて帰ろうとして玄関出口へ向かった時、突然、背後から呼び止められた。
「沖津さん」
優子の声だった。
振り返ると優子が人の姿も幾分まばらになったロビーを、花嫁の控え室で見せた時と同じような小走りで走って来る姿が眼に入った。
「ああ・・・・」
沖津はなんとなくホッとする思いで、思わずそう言っていた。
優子は沖津の傍へ来ると、
「すぐにお帰りですか」
と聞いた。
「ええ、今、帰ろうと思って一言挨拶だけでもと考え、探していたんですよ」
沖津は言った。
「あのう、もし、宜しかったら少し、お時間を戴けませんでしょうか」
優子はためらいがちな声で、遠慮深げに言った。
「時間 ? ええ、別に構わないけど」
沖津もまた、優子の突然の申し出に戸惑い、ためらいがちに言った。
「御免なさい。突然、変な事を言ったりして」
優子は言った。
「いいえ、構いませんよ。まだ、時間も早い事だし」
「御免なさい」
優子はまた言ってから、
「このホテルを出て右側すぐ近くに " 梢 "という喫茶店がありますので、そこでお待ちしていて戴けませんでしょうか。わたくし、向こうの御両親に御挨拶してからすぐに伺いますので」
優子は十分程遅れて沖津が待つ喫茶店へ来た。
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takeziisan様
有難う御座います
今回もまた暫しの時間
ブログ 楽しませて戴きました
相変わらず豊かな自然 羨望 止まずです
あの石のモニュメント 傑作
扇風機 昨年も拝見しましたが 今年
わが家ではクーラーを入れました この猛暑
長く生きた人間には厳し過ぎます
わたくしは血圧が低く上百 下六十前後しかありません
何処も悪い所はないのですが 低血圧には殊に
夏など苦労します 立ち上がる時など ふらっとする
事があります 年齢考慮 用心のためクーラー購入です
病院六時間 なんともはや・・・・
川柳 相変わらず思わず笑い 空の写真 相変わらず
お見事 花の写真 知らない花が数々 へえ
そうなんだ
白い渚のブルース 懐かしのメロディー 甦るあの頃
わが家の屋上菜園 小さなトマト きゅうり
ピーマン 初収穫 取れ立て新鮮 味 香り
一味違う でも 畑仕事 くれぐれもお気を付け
下さい 最近の気候 まさに異常です
何時もお眼をお通し戴き 御礼申し上げます
桂蓮様
何時も有難う御座います
「修行と稽古」
目標を時間を掛けて達成する
大切な事です でも
出来なかった 不可能だった
何も自分を卑下し 責める事はありませんですね
遣り切る その事が大切です
人はどの道 死に逝く存在 栄光も屈辱も
死の前では総て無力 今現在 精一杯生きる
その生きる事の中に人の喜びがあるのでは
ないでしょうか
運に恵まれ 成功した人より 不運の中でそれでも
たゆまず努力する そんな人の方が人間としては
はるかに立派ですし 名声 名誉 総ては俗世の
あだ花にしか過ぎません
桂蓮様は禅に通じておいでのようですし
禅の世界でも 「ただ 今を生きる」 その事を
大事にしていますよね
英文との読み合わせ なかなか読み進めません
再読文でも興味は尽きません 面白いです
有難う御座いました