遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(379) 小説 岬または不条理(8) 他 中学生時代作品(1) 

2022-01-16 12:47:16 | つぶやき
          中学生時代作品(1)


          母(19553.3月作)
             (千葉新聞募集母の日入選掲載作)

 暗い電燈の下に
 皆 寝静まった夜中に
 ただ一人
 仕事に励む母
 疲れたような影が
 いつまでも障子に映る
「かあちゃん もう寝たら」
 思わずその影に声をかける
「もうすぐーー」
 母は答えて
 また 針を運ぶ
 暗い電燈の下に
 今夜も荒れた母の手が
 一心に針を運ぶ

     (昭和二十八年 当時は今のように物の溢れて居る時代ではなく
     着る物も何度も継ぎを当てながら着ていたものです 今では
     破れたジーパンなどがファッションとして持て囃されていますが
     隔世の感があります)



          冬の日(1953.12月作)

 冬の日は木枯らしとともに暮れ
 西の空が茜に映えるころ
 家々に一つ 二つと 
 明かりが灯る
 夕餉の煙りが立ちのぼる
 仕事を終えた
 若い農夫の家路を急ぐ背中に
 白い月がある



          ーーーーーーーーーーーーーーー



          岬
            または
                不条理(8)

 乗換駅には五輌編成のジーゼルカーが停まっていた。この駅から岬の駅までは二時間四十分の予定だった。
 ジーゼルカーの発車までには二十分程の間があった。三津田はこれから三時間近くの旅を考えると何か口にするものでも売店で買おうかと考えたが、気も進まないままに止めて新聞だけを求めた。
 右手に託されたアタッシェケースを握ったまま三津田はジーゼルカーに乗り込んだ。
 車内は空いていた。地方としてはかなり大きな駅だったが、何処となく東京の列車内とは違う雰囲気があって、三津田はそこに地方都市の雰囲気を感じ取った。
 二人掛けの椅子が向き合った座席の、誰もいない席に腰を落ち着けると三津田はなんとはない緊張感から解放された思いで、ふうっと溜息を洩らした。
 これから二時間四十分、岬の駅に着く頃には五時を過ぎてしまうだろう。その後、どんな交渉が待っているのかは分からなかったが、その仕事を終えて帰る頃には既に日が暮れているに違いない。
 明日の、自宅へ持ち帰った仕事の内容を考えると三津田は今更ながらに、余計な、訳も分からない仕事を押し付けて来た男達への腹立たしさを覚えずにはいられなかった。
 それから三津田はふと気になって、この訳も分からない仕事に関りのある、自分を見張る男達が必ず何処かにいる、という思いの払拭出来ないままに、それとなく周囲に眼を配ってみた。
 眼に入って来る人達の中にはだが、特別に異様な雰囲気を感じさせる人間は見当たらなかった。それでも三津田はやはり、自分が見守られている、という思いは拭い去る事が出来なかった。この仕事が、世間に大手を振って罷り通るような種類の仕事でない事だけは確かだった。そしてそれが、どんな仕事で、内容がどんなものであるのかは、依然として、仕事を依頼された当人の三津田にも分からないのだ。
 三津田は一層の腹立たしさを覚えずにはいられなかった。
 ジーゼルカーは間もなく動き出した。三津田は次々と彼に取っては物珍しい地方の景色を後ろにずらしながら走る車窓から外を眺めていたが、それに飽きるとおもむろに背広のポケットに突っ込んだままの新聞を手にして開いてみた。
 紙面には相変わらず人間社会の愚行と、矛盾や理不尽に満ちた数々の出来事が満載されていた。三津田に取ってはだが、今ではそれらの愚行、矛盾、理不尽も、格別に珍しいものではなくなっていた。既に四十年に近い歳月をこの世に生きて来た。世の中が正義一筋、正当一筋で成り立っていない事は明らかだった。裏には裏がある。それがこの世の常識なのだ。三津田自身、既にそう達観している。そう達観しなければこの世は生きてはゆけない。それに自身が染まるか染まらないかは別の問題としてーー。三津田は自身のこのジーゼルカーに身を委ねた立場と照らし合わせて、諦めにも近い気持ちと共に紙面に眼を落し続けていた。
 何時の間にかうとうとしていたらしかった。眼を覚ました時には、その眠りの中で自分が夢を見ていてた事を自覚した。だが、その夢の内容は分からなかった。漠然とした重い気分と共に、何か、華やかな雰囲気も一方であったような気がした。
 なんの夢を見ていたんだろう ?
 なぜか、三津田にはその夢の内容が気になった。
 ジーゼルカーはその間にも確実に岬の駅に近付いていた。車内の案内があと五分で到着です、と伝えていた。

「駅に着きましたら改札口を出て、駅舎の出口でこの鞄を手にして立っていて下さい。黒塗りの車があなたの傍へ行きます。迎えの男があなたを車内に案内しますので、それに従って下さい。後は車があなたを目的地にお連れしますので、あなたはただ、それに従って戴ければ結構です。決して、あなたに御迷惑をお掛けするような事は御座いません」
 東京駅で乗車券とアタッシェケースを三津田に託した男は言った。
 三津田はその言葉に従った。
 三津田が男の言葉通りに行動すると、三分の間も置かずに一台の黒塗りの車が三津田の前に来て停まった。 
 国産のありふれた車種だった。
 運転席の隣りに座っていた男がすぐにドアを開けて出て来た。
「三津田さんでしょうか ?」 
 男は言った。
 相手が自分の名前を口にした事に三津田は嫌な感じを抱いた。
「そうです」
 三津田はそれでも言っていた。
「どうぞ、お乗り下さい。御案内します」
 男は鄭重だった。
 三津田は男の鄭重な態度に幾分救われる思いがして、男の言葉のままに従った。
 男は三津田が後部席に座るとドアを閉め、自分は運転席の隣りに座った。
 車は五分程で市内を抜け、疎らな松林の明るい道に入った。
 海が近い事を思わせて空が明るかったが、海そのものはまだ見えなかった。
 運転手も男も無口だった。
 車が走り出してからは一言も言葉を口にしなかった。
 三津田にはその男達の無言が次第に気になって来た。
 何故、男達は黙りこくったままでいるのだろう ?
 初めて顔を合わせた自分に何か、話し掛けて来てもいいはずではないか ?
 こちらへ来るのは初めてですか ?
 長い時間で、お疲れにはなりませんでしたか ?
 三津田には男達が無言のうちに何か自分に圧力を掛けて来ているのではないかと思えて来て、気持ちが落ち着かなくなった。
 車はその間にも明るい松林の中を抜け、一面に野菜畑の広がった空間に出た。その先には遠く、小さく広がった海の青さと白く砕ける波の一部が見えていた。
 車は既に三十分以上も走り続けていた。三津田の眼には車はただ、海を目差して走っているとしか思えなかった。
 三津田は男達の無言の行と不安定に揺れる車の振動に疲れて、
「まだ、長く掛かるんですか ?」
 と、聞いた。
「いえ、間もなく着きます」
 三津田を迎えた男はそれだけを答えた。 
 言葉遣いに三津田を威圧する響きはなかった。





           ーーーーーーーーーーーーーー



           桂蓮様

           有難う御座います
           今まで気が付かなかったのですが 今回
           初めて 心の洗剤 を読ませて戴きました
            人間の記憶 厄介なものですね 食器を
           洗うように人間の心も洗剤で洗い落す事が出来たら
           どんなに楽な事でしょう 嫌な思い出はみんな
           洗い流してしまう 楽しく 美しい思い出だけは
           残して置く そんな事が出来たらこの世は
           極楽です でも それが出来た時には 人間も
           人間としての進歩が停まってしまうのかも知れません
           良い事悪い事 総て包含したものが人間という存在
           なのでしょうね きっと 多分 それだからこそ
           この世界も退屈ではないのかも知れません
            バレー その意欲 感嘆です 人間 意欲が
           ある限り いつまでも若々しく いられるのでは
           ないでしょうか バレーに付いての難しい事は
           分かりませんが その美しさ 人間の身体能力の   
           素晴らしさにはバレーを見る度に 感動しています
           桂蓮様のこれからの楽しく 嬉しい御報告 期待と
           共にお待ちしております
            是非 頑張って下さい と申し上げるのは
           御負担になりますでしょうか
            何時も御感想 有難う御座います


          takeziisan様

           コメント 有難う御座います
           お変わりのない御様子 実は前回 ページが
          一月一日で切れていましたので ちょっと気にかかり
          あのような文章になりました まずは一安心と
          いうところです
           初夢 夢の不思議さ 奇怪さ 人の心の何が
          夢を見させるのでしょうか 良い夢の時は目覚めも
          爽快ですが 悪い夢の時は気分もなんとなく沈みます
          わたくしも時々 両親の夢を見ます 親と子供
          何時まで経っても変わらないものなのでしょうか
           わたくし共も兄妹の集会 中止しました
           穏やかな三が日 良い写真を見せて戴き田舎の景色を    
          思い出しました 全く変わらない風景です
          懐かしさと共に拝見しました
          オオバン 昔のアメリカ映画「黄昏」が浮かんで来ます   
          ヘンリー フォンダ キャサリン ヘップバーン 
          フォンダの娘 ジェーン フォンダ 三人による  
          バンの棲息する大きな湖のほとりで 人生の
          終盤 黄昏を生きる夫婦の物語です 当時 
          ヘンリー フォンダと娘のジェ~ンの関係がぎくしゃく   
          していてその共演が仲直りとして話題に
          なったものでした もう一度見たい映画の一つです
           川柳 相変わらず楽しませて戴きました 何時も
          書くようですが これだけ創るのは大変な事では
          ないでしょうか これからも楽しみにしております
           ソリ作り 雪の記憶は雪国生まれではないわたくしに
          取っても懐かしさに満たされます 何故ですかね
          あの雪の白さが良いのでしょうか 
           オー ヘンリーの学芸会 やっぱり進んでいます
          まだ書きたいのですが 長くなりますので
           ブログ拝見と共に今回も愉しいひと時を過ごす事が
          出来ました 
           有難う御座いました