基準(2022.5.4日作)
呼び名や
世俗の名声に惑わされるな
それが どんなに有名 どんなに人々に
持て囃されていようとも
理解を超えたもの 心に
感動 感激 喜び の
さざ波一つ
呼び起さない ものなら
無意味 無価値 心を
豊かにしてくれる もの 今の時を
幸福感で満たしてくれる そのものを
見分ける心 自身の
主体性のみが 唯一
絶対的基準
眼で見て 耳で聞き
心で感じ取る 総ての事に於いての
基準
世にはびこる 虚名に
騙されるな
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引き金(4)
普段は被った事もないベレー帽を被り、この日のために買った薄茶の入った度なしの眼鏡を掛けた。
口元から頬にかけては、わざと剃らずに置いた無精ひげを生やしていた。
総てが妻の多美代に隠れての行為だった。
多美代が通っているカルチャーセンターは高層ビルの三十六階にあるフロアーの一つが充てられていた。
夜のクラスが午後六時に始まる事を調べておいた三杉は、六時半過ぎの到着を目差してビルに向かった。
目的地に着いた三杉は車を地下の車庫に納めると、高速エレベーターで三十六階に向かい、一人だけ、その階で降りた。
片側に外の見渡せるガラス窓を備えた長い廊下には、幾つもフロアーが並んでいた。
それぞれに使用されている講座や会社名が明記されていた。
「ジャズダンス 講師 高林信明」
廊下の中程にあるフロアーの前で三杉は思わず立ち止まった。
探している講座と講師の名前だった。
何故か、胸の軽い鼓動を覚えて慌てて周囲の状況に視線を送った。
幸い、長い廊下の何処にも人影は見えなくて、都会の喧騒も届かない高いビルの中の静まり返った静寂だけが辺りに満ちていた。
三杉は安堵すると共に、まず最初の目的を達した思いで一度、その前を過ぎるとすぐに踵を返して、今来た方角へ戻り始めた。
人の眼だけを恐れていた。
急かれる思いで再びエレベーターの前に立つと、急いで下りへのボタンを押して、眼の前のドアが開かれるのを待った。
下りのエレベータ―には乗り込む人もなかった。
総てが喧騒に満ちた都会の真ん中にいるとは思えない静けさに満ちた空気が三杉の気持ちを救ってくれた。
三杉は高速で下るエレベーターの中で一人、物思いに耽った。
高林信明、そう書かれた名前の講師が、以前、高速道路渋滞の中で眼にしたあの男なのだろうか。
扉の向こうからは音楽の響き一つ聞こえて来なかった。
三杉は腕時計を見た。
間もなく七時になろうとしていた。
授業は一時間四十分だった。
あらかじめ調べておいた。
一階に着くと三杉はそのままエレベーターを降りた。
あとの時間をどのように待つべきなのか ?
一度、車庫の車に戻り、そこで時間を潰そうと考えた。
授業が終わり、帰るとなれば誰もが、今、自分が出て来た大広間を通り、ビルの出口玄関へ向かうだろう。
そこで多美代の行動を監視しようと思った。
しかし、すぐに一つの不安に捉われた。
この巨大な建物には出入口が正面、あの玄関一つだけとは限らないのでは、という思いが浮んだ。当然、裏の出入り口や横の出入り口があるに違いない。そして、男と車に乗るとすれば、裏出入り口から車庫に通じる道を通るという事も考えられる。
この建物構造に詳しくない三杉に取っては総てが、想像裡にしか過ぎなかったが、心の裡は迷路に陥っていた。
それでも三杉はいったん車に戻ると運転席のシートに体を埋めた。
緊張感のほどける思いで、一挙に溢れ出る疲労感に襲われた。
深い溜め息と共に疲れに身を委ねたまま眼を閉じた。
総てが虚しく思えた。
いったい、俺はこんな所で何をやっているのだろう ?
自分がまるで遠い他の人間のように思えた。
七時半になると三杉は気を取り直して再び車を出て、ビルの正面玄関へ向かった。
玄関を出て、ビルの建つ敷地内の出入り口、右側、少し離れた場所に大きなモビールが設えられてあるのを改めて眼にすると、その陰に身を隠す事を思い付いた。
正面玄関から出て来る人々が一目で確認出来た。
八時を過ぎる頃になると、次々に人々が玄関口に姿を現し始めた。
三杉はモビールの影に身を隠したまま、その人々の中に多美代の姿を探した。
見過ごす程多勢の人の数ではなかった。
それでも、多美代の姿を見付ける事は出来なかった。
ほぼ、二十分が過ぎていた。
玄関口を出て来る人の姿もまばらになり、三杉が諦めの気持ちを抱き始めた頃になってその場を離れようとしたその時、突然、モスグリーンの、三杉には見覚えのないスーツに身を包んで、黒のハンドバッグを手に、黒のハイヒールを履いた多美代の姿が三杉の眼を捉えて来た。
三杉は息を呑むのと同時に、慌てて再び身を隠すと、多美代の姿を追い続けた。
多美代は一人だった。やや、俯き加減に、まるで何かに思い悩むかのようにうち沈んだ表情で、三杉から離れた七、八メートルの場所を歩いて、敷地内の出口に向かっていた。その姿には、ジャズダンス教室で、溌溂として体を動かし、活気に満ちた様子の姿を想像する事は出来なかった。
三杉は思わぬ妻のそんな姿に、激しい衝撃を覚えて、胸のえぐられるな痛みを感じ取っていた。孤独感さえが漂うような姿だった。
三杉はただ、後ろ姿を見せて遠ざかって行く妻のそんな姿を見送る事しか出来なかった。
そして、三杉がその場を離れて自分の車に戻ろうとした時、ちょうど建物の敷地の門を出ようとした多美代を迎えるかのように不意に、一人の男が姿を現した。
男はそのまま多美代に近付いた。
多美代は男の姿を確認すると微笑みと共に迎えた。
煌々とビルの建つ夜景を照らし出す明かりの中で、その男の姿ははっきりと確認出来た。
紛れもなく男は、一度、車の中で眼にしたあの男だった。
二人はそのまま、新宿駅のある方角へ肩を並べて歩いて行った。
三杉は、一度は多美代の何処となく憂いを帯びた表情の、その様子に救われるような慰めを見い出していた気持ちが、徹底的に打ち砕かれた思いに圧し潰されていた。怒りの気持ちさえもが湧いて来なかった。
三杉は自分でも何処をどう歩いたのかの認識もないままに車に戻ると、その座席に体を埋めたまま、動く事も出来ないでいた。
自分の家へ帰るのが怖かった。多美代が何時、帰って来るのか、それを知るのが怖かった。妻が何時、自宅に帰ったのか、それが分からないままに、自宅に帰ってくれていればいいと思った。男と妻が過ごした時間の長さを知るのに耐えられない気がした。
そんな事があった後にも三杉は、多美代を責めたり、咎めだてする事はなかった。
三杉には敗北感だけがあった。
絶望的とも言える諦念の中で三杉は、人生の目標を失い、男性としての能力も失った自分を惨めに認識した。あらゆるものが三杉には遠いものに思えた。屍としか言えないような自分の人生だった。そんな中で、真性の死を恐れながら生きる事より外に出来ない自分だけが確かな存在に思えた。
三
四年ぶりで三杉が狩猟へ行く気になった誘いの電話があったのは、狩猟解禁日が過ぎて間もない夜の事であった。
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桂蓮様
お忙しい中 何時もお眼をお通し戴き
有難う御座います
今回 旧作 いじめなのか 拒絶なのか を
拝見させて戴きました 英文はありませんでしたが
前にも拝見した記憶があります
今回は英文比べ読みとはまた違った
文章の中身自体に興味を読み取りました
何時の時代にも 何処にも いじめ 悪口の好きな
人間はいるものです 仏教を修める人の中にも と
ありますが 畢竟 そんな人間は袈裟を纏った俗物にしか
過ぎません あまり気になさらない方がよろしいのでは
世の中 多士済済 隠れた場所に聖者が居ると思えば
世の中に名の通った人間の中にも 屑に等しい人間が
数多く居ます それこそ そんな時には 禅の立場
人は人 我は我 どうぞ御勝手に と行きましょう
余り 地位や名声 所属に気を取られずに その人間
本質を見つめてゆこうではありませんか
またの新作 お待ちしております
でも 御無理のないよう のんびり ゆっくり
お願いします
何時も応援 有難う御座います
takeziisa様
有難う御座います
今回もいろいろ教えられ事の多いブログでした
ガビチョウ初見 名前は馴染んではいました
キンポウゲが馬の足型
ハハコグサ 屋上にも庭にもよく見るありふれた草が
聞きなれた名だとは 知らずにいました
昼に咲く月見草とは・・・
君子欄 わが家でも満開 自然にこぼれ落ちた種から生えた
ものがあちこち咲き誇っています 一種 絢爛です
わが家では今年 例年になく羽衣ジャスミンが満開
長持ちしていまして その香りを朝 起きる毎に満喫しています
夜の闇に漂って来る香りもいいものです
川柳 笑い ほのぼの 心の和み 楽しませて
戴きました
コンドルは飛んでいく
この楽器の音がいいですね 大好きです
広大な山岳風景が自ずと頭の中に浮かんで来ます
様々な花々 山岳風景 美しい写真 満喫 楽しませて
戴きました
有難う御座いました