遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(438) 小説 私は居ない(12) 他 惑わされるな

2023-03-12 12:47:42 | つぶやき
          惑わされるな(2023.3.1日作)


 人が 尊敬に値するかどうか
 決めるのは 人が残した 業績ではない
 その人がどう生きたか 一人の人間としての
 生き方 生き様(よう) その生き方 生き様によって
 決定される 
 悪徳 非道の下に築いた城 財宝 業績 名声など 
 評価の対象には なり得ない
 人が人として 人の道をどれだけ 真摯に生きたか
 貧しく 名もない 日陰の場所でも
 人として 人の道を懸命 必死に生きた その
 真摯な生き方 態度こそが 賞賛 評価されて 然るべきもの 真の
 評価の対象と成り得るもの
 他に無い 
 名声 表向きの業績などに 
 惑わされるな


 偉大さは平凡の中にこそ秘められている
 愚かな政治家 指導者などの言動に惑わされるな





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            私は居ない(12)




 私はすでに十二月も間近に迫ったある日、銀座へ出た帰り道、約束も取らずに深川、東陽町の川万の元女将を訪ねた。
 元女将は私の顔を見ると、
「あら、お珍しい」
 と言って、嫌な顔も見せなかったが、肝心の〆香の実家の住所となると分からなかった。
「もう、昔の事で、忘れてしまいましたねえ」
 と、伯父と女と会った時と同じ言葉を口にしたが、いろいろ、当時の書き物なども調べてくれた。
 それでも、結局は分からずじまいに終わった。
 私は改めて、〆香と名乗る女にも電話を入れてみた。
 女も迷惑がる様子は見せなかったが、「もう、そこには誰も居ません」とやはり、元女将に会った時と同じ言葉を口にした。
「ええ、それでも構いません。ただ住所さえ教えて戴ければ、いろいろ、市役所などに行って聞いてみようかと思ったものですから」
 あるいは女は、私がそこまで深入りする事を嫌がるかとも思ったが、存外、嫌がる気配も見せずに、
「ちょっとお待ち戴けますか。今、正確なものを調べてみますから」
 と言って、電話をつないだままその場を離れる気配を見せた。
 何分かの後に女が受話器を手にする様子が伝わって来て女の声がした。
「もしもし」
 女は元実家が在ったという場所の正確な住所を教えてくれた。
 私は四日後、銚子行きの犬吠号という準急列車に乗った。
 三時間程で銚子駅に着いた。
 駅を出るとバス停留所に向かった。
「こっさ(これに)乗ればいいだよ」
 漁師と思われる男の人が教えてくれた。
「こん次で降りっだ」
 バスが幾つかのなだらかな下り坂を下った時、男は言った。
 停留所の前には小さな駄菓子店があった。
 私は女に教えて貰った住所を店番をしていた老女に聞いた。
「十四番地はあの坂を上った向こうだねえ」
 と、老女は穏やかな口調で教えてくれた。
 今、バスで通って来た辺りだった。
 私は駄菓子店を出ると緩いアスファルトの道を戻って行った。
 坂道を上ってゆくに従って次第に、家々の屋根の向こうに遠く海の波のうねりを繰り返す様子が見えて来た。
 海は十一月も終わりの鉛色に曇った空の下で、単調な波の砕けてはまた生まれる繰り返しを繰り広げていた。
 やがて、その坂道を上り切り、下りに差し掛かる頃には周囲には人家が少しずつ姿を消して、荒い松林の広がる景色が開けて来た。
 松の木は潮風に傷め付けられるせいか、どれも貧弱だった。
 しばらくその、何か物わびしい景色に囲まれた道を歩いていると、通りから少し離れた場所に、やはり貧弱な松林に囲まれて一軒の家があるのが眼に入って来た。
 もしや、あれが ?
 私は途端に興味を引き付けられて、シャンと体を伸ばすと急ぎ足でその家に向かった。
 貧弱な松林の中には小さな庭が開けていた。
 潮風に傷め付けられたらしい古びた家には人影が見えなくて、白い障子も閉ざされたままになっていた。
 私は人の気配も感じられない見知らぬ家の庭に、ずかずかと踏み込んで行く事へのなんとはない後ろめたさを意識しながら、それでも玄関先まで歩いて行った。
「御免下さい」
 玄関の閉ざされたガラス戸に向かって声を掛けた。
 二度、声を掛けると家の中から、
「はあい」
 と答える女の声が聞こえた。
 程なくして、内側からガラス戸が引き開けられた。
 四十代後半かとも思われる陽に焼けた顔の、穏やかな感じの女性が顔をのぞかせた。
 私はその女性の穏やかな顔立ちに、なんとはない安堵感を覚えながら言った。
「突然、お邪魔して申し訳御座いません。ちょっとお聞きしたい事がありまして」
「はい、なんでしょう」
 女は思わぬ出来事に戸惑った様子で呟くように言った。
「二丁目十四番地がこの辺りだと聞いて伺ったのですが・・・」
 私の意識の中ではこの時、この家が目差す家ではないかという思いが一層、強くなっていて言葉遣いも慎重になっていた。
「二丁目十四番地 ?」
 女は一度、オウム返しに私の言葉を繰り返してから、すぐに、
「二丁目十四番地はこの一軒先の家(うち)ですね。よっさんつう(て言う)人の家ですね」
 と言った。
「何処でしょう」
 私は方角が分からずに聞いた。
「あの向ごうの家です」
 女は玄関から少し身を乗り出すようにして、右手の方角を差して言った。
 それから一層詳しく説明するように、
「あのちよっと小高く見える竹薮みてえのあっでしょう。あそこの家ですよ。こっから五十メートルぐれえで行けますよ。今は爺(じっ)様一人しか居ねえけっど、すぐ分がりますよ」
 と言った。
 私は鄭重に女に礼を言ってその家を辞すと、海の見える方とは反対側の松林の中へ再び足を踏み入れた。
 三十メートル程行くと竹薮と言うよりは、茨の絡み合ったと言えるような小高い丘に突き当たった。
 その小高い丘を越えて再び下って行くと、今まであったのと同じような松林の中に、一軒の古びた家があるのが見えて来た。
 近付いて行くと、次第にはっきりと家の様子が見えて来た。
 何年も雨風と海の潮に晒されたらしい家屋は、柱も板も総てが木の色を失い、白っぽく変色していた。茶色く錆び付いたトタン屋根の上には、強い浜風に吹き飛ばされるのを防ぐためにか、無数の真っ白な牡蠣殻が載せてあった。
 更に近付いて行くと、松林を切り開いた地面には層を成すようにして、蛤の殻が敷かれていた。
 家の玄関口の前で老人の男が一人、地面に敷いた筵の上で何かの手仕事をしていた。
 古びた半纏らしき物を着た男は、背中を丸めて一心に何かをしていた。私が近付いて行くのにも気付かなかった。
「御免下さい」
 私は少し顔をうつむけた男に声を掛けた。
 男はそれでも気付かなかった。
 私はもう一度、やや大きめな声で言葉を掛けた。
 初めて男がその声に気付いて顔を上げた。
 八十歳にはなるのだろか、皺の深く刻まれた顔は漁師を思わせる深い赤銅色の皮膚をしていた。
 男はゆっくりとした視線で私を見詰めると、
「あんだあね」
 と言った。
 その表情には私を警戒する様子も、興味を示す様子も見られなかった。無表情な、まるで声を掛けられた事も他人事でもあるかのような様子だった。





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          桂蓮様


           有難う御座います
          新作拝見しました
          才能がある人は並みの人が出来ない事を楽々とこなす
          でも 才能だけに頼っていては結局は行き詰まります
          以前にも書きましたがあの天才ピカソが 自分の納得出来る一本の線を描くのに
          二十年の歳月を要した と言ったという事です 
          有能 無能 関係ない 自分が遣りたいからやる  
          他人がどう言おうと関係ない 自身が納得する この
          自身での納得 何事に於いてもこの事が基本となるべきものでは  
          ないでしょうか
           才能のない人間でも 自身の納得出来る努力を積み重ねれば
          なんの努力もしない天才より はるかに良い成果を産み出せるのでは
          ないでしょうか
           修行の心でやれば出来ない事はない
          総て修行 失敗も修行の一つ 修行の心に良し悪しはない
          ただ一つ 自分の心があるのみ
          自分で納得出来れば 他人の口など どうでもいい
          禅の世界です
            坐禅の成果 顕著な様ですね
          有難う御座いました



            takeziisan様


             有難う御座います
            ブログの恩恵大です
            便利です 苦労せずに書き込める
            有難い事です ただ一つ気がかりなのが 突然
            消えてしまう
            此処に永遠性が加味されたら鬼に金棒です
            時代を享受したい 自身の生き甲斐にも繋がります  
             雪靴ーーすんぶく 地方色満載 いい響きですね
            以前 この欄を拝見した時にも書きましたが わたくしの祖母も           
            藁草履を造っていました 祖母の草履はかっちりと
            丁寧に造られていて評判でした 近くの店でも高値で買い取ってくれたものです
             三人の先生 これも以前に書きましたが わたくしにも一人の女の先生への
             仄かな憧れのような思い出があります 以前 ここに書いていますので
             詳しくは書きませんが       
              川柳 どれも素晴らしいです 読みながら笑いました そうだ そうだ
              細ーく 長ーく 無理をせず
               「ひるのいこい」
              今も続いていますね 聴く事はないのですが
              でも 当時 ラジオからこの音楽が流れて来ると何とはない
              気持ちの安らぎと幸せ感を子供心にも覚えたものでした
              大好きな番組でした
              当時の長閑な田舎の景色が蘇ります
              でも なぜか砂の柔らかい地面を素足で踏んで
              仲間たちと遊んでいた夏の日の情景が この番組を思い出すたびに
              蘇って来るのです
               幸せに溢れた思い出です
              掲載されている景色もいいですね
               「アルデラ」 映画は観ていませんが 曲はよく耳にしました
              ペギー葉山 若いですね
              でも もういない・・・
              時の流れは無情です
               美しい花々 野鳥の姿 楽しませて戴きました
              有難う御座います