遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(448) 小説 いつか来た道 また行く道(8) 他 悟るということ

2023-05-21 13:03:54 | つぶやき
            悟るということ(2021.10.10日作)


 禅に於ける 悟り は ただ
 坐る 坐禅 しただけで
 得られるものではない また
 禅僧の説教を聞き あるいは
 書物による 知識を詰め込んだだけで
 得られるものではない
 日々 日常を生きる 
 悪戦苦闘 七転八倒 その
 苦しみの中から掴み取る 一つの真実 
 その真実を掴み得た時 悟りは 生まれる
 これは こう言う事だ  という実感
 その 実感 が悟りの正体 悟りを得た と
 言う事だ
 悟りは実感 感覚の世界
 知識ではない





            ーーーーーーーーーーーーーーー




             いつか来た道 また行く道(8)



「七百万出してくれたら、写真は全部あげるよ」
 中沢は軽快に言って、今にも口笛でも吹き出し兼ねない様子だった。
「それにしても、よく、わたしの直通電話番号が分かったわね」
「ぼくにだって生活がかかってるもの。今年の夏、野尻湖近くの別荘へ行った事も知ってるよ」
 わたしは彼の思い掛けない言葉に身体のふるえる思いがした。
 そこまでしていたのか !
「わたしを尾行(つけた)のね」
「そう。いろいろ調べた。大事な宝物を無くしたくなかったから」
 瞬間、わたしは彼に殺意に近い感情さえ覚えて、思わず飛び掛かりたい衝動に駆られた。
 その激情を懸命に抑制するとわたしは、静かな声で言った。
「勿論、ネガもくれるわね」
「勿論」
 彼も同じ言葉を言った。
「でも、残らずくれたって、どうやって証明するの ?」
「それは証文を書くからいいさ。今後、一切、関係ないって」
 わたしは思わず笑い出した。
「まったく、暢気な事を言わないでよ。そんな物を貰ったって、なんの役に立つって言うの  ?」
「ぼくが信用出来ないって言うの ?」
「当たり前でしょう。信用出来る訳がないでしょう。こんな卑怯な事をしておいて」
「大丈夫、嘘だけは言わないから。ただ、ちょっと金が欲しかったんだ」
「クスリ(麻薬)のため ?」
「そう」
「いいわ、七百万円はあげるわ。その代わり、これっ切りよ。後は一切関係ないって約束出来る ?」
「出来るさ」
「電話もしないわね」
「しないよ」
「もう、誰かにこの事を喋っているんじゃないの ?」
「喋ってなんかいないさ。ぼくだってクスリの事が人に知られたら、どうなるか分からないもん。危ない橋なんか渡りたくないよ」
「そう、それならいいわ。だけど、約束だけはちゃんと守ってよ」
「大丈夫だよ、その為の証文なんだから」
「紙屑同然だわよ、そんなもの」
 わたしは吐き捨てるように言った。
「ちゃんと印鑑も押すよ」
 わたしはまた吹き出した。
 このバカ者は捺印さえすれば、それが有効だと思っている。
 その浅はかさは話しにもならなかったが、悪(わる)にかけては抜け目がないのだ 。
「でも、あなたの事だから七百万円がなくなったら、また、出せって言って来るわね」
 その思いはわたし自身、払拭出来なかった。
「それはないよ。心配ないよ。また、別の人を探すから。あんまり一人に拘っているとかえって自分が危なくなるから」
「これまでにも、何人もの人にこんな事をして来たの ?」
「そんな事はないさ」
 わたしは中沢が口にした、危なくなる、という言葉に微かな希望を見る思いがした。
 彼がどのような意味を込めて言ったのかは分からなかったが、その言葉に賭けてみようか、という気になった。
 無論、わたしは警察に相談する事も考えた。
 警察ではわたしの名前を隠してくれるのではないか ?
 中沢栄二との事は根掘り葉掘り聞かれるだろうが、それぐらいなら我慢出来る。
 問題は麻薬だった。わたし自身は係わってはいないが、中沢の麻薬歴が明るみに出れば、わたしもまた、資金提供の一画を担った者としてなんらかの追及を受けるのではないか ?
 麻薬常習犯に金を貢いでいた恋狂いの女性ブテック経営者。
 鵜の目鷹の目でスキャンダルを探し廻っているマスコミはいち早く嗅ぎ付けて、水に落ちた犬を叩くようにわたしを叩くだろう・・・・
 わたしは改めて、ちょっとした気の緩みからの自分がした事の重大さに臍(ほぞ)を嚙む思いを味わった。
 なんて厄介な道に踏み込んでしまったんだろう。
  もし、中沢の背後にいる人間達が暴力団関係者だったら・・・骨の髄までしゃぶられてしまうだろう。
 その思いにはだが、すぐに否定の気持ちが働いた。
 暴力団に訴えるのか、と中沢はわたしに言った。
 と言う事は、中沢自身は暴力団には係わっていない、という事ではないのか ?
 そう納得するとわたしは改めて、彼の人間関係に思いを馳せた。
 当然ながら、麻薬の売人はいるだろう。
 その人間達は写真の事まで知っているのだろうか ?
 そして、<ブラックホース>の店員仲間や経営者は ?
 だが、それらの事は今更ながらに、思い悩んでも始まらない事だった。経営者に話しをして中沢を罰して貰ったとしても、写真を撮られたという事実は決して消し去る事の出来ない真実として存在する。写真が何処かに隠されていれば、なんの意味もない事になる。 
 わたしには諦めに似た気持ちが強かった。取り敢えず、中沢に金を渡して様子を見る。ーー他にに取るべき方法が見付からなかった。頼る人もいなかった。もし、宮本俊介が東京に居てくれたら、あるいは相談も出来たかも知れなかったが、現在、バリに居る宮本俊介は、来年早々に開かれる新作発表に向けての準備で忙しかった。わたしの愚行などに係わっている暇はなかった。それにわたし自身としても、今日まで信頼して来てくれた宮本俊介に、愚かな相談事などを持ち掛けて不興を買うだけの勇気もなかった。
 その他、わたしには菅原綾子が親しい存在だったが、相談相手としての彼女が論外である事は言うを待たなかった。結局わたしは、腹をくくるより仕方がないという思いの中で、もし、彼がまた別の行動に出て来た時には、その時に改めて考えようと覚悟を決めた。

 中沢栄二は七百万の総てを現金で持参するように言った。取引の場所はラブホテルだった。
「まさか、カメラやテープレコーダーが仕込んである訳じゃないでしょうね」




           ーーーーーーーーーーーーーーーーー            




             takeziisan様
           

              コメント 有難う御座います
             お身体 さして御心配のない御様子 他人事ながらほっと ひと安心という気分です
             何事に於いても人の苦しむ様子を見聞きするのは愉快なものではありません
              コピー どうぞ御自由になさって下さいませ    
             わたくしとしましてもtakeziiブログの美しさと楽しさを満喫している人間が居る
             という事を他の人に知って貰うのになんの不都合もありません
             むしろ№Ⅰを誇るtakeziiブログを眼にする多くの方々に知って貰うのは歓迎です 
             本来ならtakeziiブログ内のコメント欄に書き込むのが本筋なのかも知れませんが 
             余り文が長くなったりして御迷惑をお掛けしてはと思い 
             自身のページの中で書かせて戴いております 
             今回も記事 楽しませて戴きました
             畑の野菜 木々の実 豊かな自然が感じられて羨ましい限りです
             桑の実 ドドメですね 以前にも書いたと思いますが
             田舎のわが家の横に桑畑があり その桑の実 ドドメを
             唇を紫色にしながら食べた事を思い出します
             ジャムは自家製 なんと贅沢な !
              シラサギ 懐かしい鳥です 昔 田圃の中でよく見かけたものでした        
             近年になって故郷へ帰る汽車・・・今では電車ですね
             その電車の中からふと眼にした 田圃の中で餌をついばむシラサギを見て
             思わず「シラサギの ポツンと一羽 八月田」と
             頭に浮かんだ言葉を書き留め このブログ内にも書き込みました           
             八月の稲の青々と生い茂る田圃の中にたたずむ真っ白なシラサギの姿      
             絵になる 何処か懐かしい光景です
              クンシラン シャコバサボテン 植木も手入れが大切ですね
             わが家はほったらかし シャコバサボテンは今年の冬は駄目かも・・・
              何時も楽しいブログ 有難う御座います
             普段 いろいろな事で忙しくしてますので このひと時はホット
             息抜きの時間です
              有難う御座いました

             原爆許すまじ
             初めて知りました
             写真の中の光景 わたくし自身が体験した光景です
             それにしても 今更ながらに人間の愚かさ 進歩の無さを実感する
             今日この頃です